第七話 僕のスキル
「貴様……!ぶっ殺す!!!!」
よし!逃げろ!!!
しかし、僕の体は動かない。
今逃げるべきだということは分かっているのに、恐怖で足が硬直して動けない。
頭はフルに回転しているが、何の役にも立ちやしない。
ジャック・ラップが大剣を振り上げて僕に向かってくるのが見える。
転生してすぐ死ぬのか。
ガイアが裸で走っている姿を見られるのか?
しかし次の瞬間、ジャック・ラップの大剣が地面に落ち、重い音を立てた。
同時に、血の臭いが空気中に漂った。
他の冒険者は僕に視線を集中させていたため、何が起こっていたのか全く気付かなかった。
僕以外は誰も気づかなかった。
スキル習得:次元収納
スキル習得:抜刀斬
僕の頭の中に男性の声が響いた。
僕が選んだスキルは:Sランク「ソロモンキング」、Aランクの上級魔法使い「超魔導」、Bランクの上級剣士「高等剣士」だ。
職業がなぜスキルに分類されるのかはわからないが、僕はそれに合わせて「ソロモンキング」と組み合わせるために2つの職業スキルを選らんだ。
ソロモンキングの説明は以下:
1.無属性スキル
2.スキルを素早く習得し、Aランク以下のスキルを迅速に学び、Sランクのスキルの理解にかかる時間を短縮する。
3.保有するスキルに基づいて学習時間を大幅に短縮できる。
このスキルを選んだ理由は「永生」を獲得する可能性を高めるためであり、ソロモンキングの第3の説明も気になる点があった。
また、他の職業スキルの説明を参考にして、面白いアイデアが浮かんだ。
高等剣士の説明は以下:
1.上級剣士の職業スキル
2.Bランク以下の剣術スキルを使用すると、追加の威力が加わる。
3.所持している剣術スキルに基づいて、筋力、防御、速度属性を追加で向上させる。
4.Bランク以下の剣術スキルを迅速に理解し、ランクを上げることが簡単になる。
ならば、高等劍士の第4点の説明とソロモンキングの効果を組み合わせると、どのような効果があるのか?
答えは「見ただけでスキルを学べる」。
特に学習や修練を必要とせず、Bランク以下の剣術とAランク以下の魔法であれば、見るだけで習得できる。
だから、スキルが発動の瞬間を確実に見えた。
速すぎ!
ミリ秒単位で計算する!
シャーロットはジャック・ラップが剣を振り上げる瞬間に、半空中(次元空間)から武士刀を引き出し、迅速に前方に振り下ろした(抜刀斬)。そして、すぐに武士刀を次元空間に収納した。
「何……何!!!!!!!俺の手!!!!俺の手……!!!!」
シャーロットが刀を収納するまで、ジャック・ラップは痛みを感じなかった。
彼は本当に自分の手が地面に落ちたのかを理解していなかった。
激しい痛みでジャック・ラップは叫び声を上げて地面にひざまずき、手首を失った自分の手を見つめた。
多くの鮮血が彼の顔に飛び散った。
最初は自分が圧倒的に有利だと思っていたが、一瞬で敗者になった。
そして、シャーロットは彼の命まで奪うつもりはなかったようだ。
そのスビートでジャック・ラップの首を切り落とすのは容易だったが、彼女はわざと手首だけを切り落とし、ジャック・ラップを自殺すらができない状況にさせた。
冒険者達の視線が僕に向けられ始めた。
誰かがこれが僕の攻撃であると疑っているのだろうか?
明らかに場面に立ち会ったのは僕だけで、何が起こったかを知っているが、僕は何も説明するつもりはない。
現在の状況は僕に有利になる。
冒険者達にとって僕は瞬時にレベル23の冒険者の両手を切り落とした名手だ。
ジャック・ラップの悲鳴は約3分間続き、大量の出血で彼は気を失った。
しかし、誰もが彼を助けようとはしなかった。
さらに約2分後、警備員が到着し、すぐにジャック・ラップに簡単な治療を施した。
スキル習得:治療術
ジャック・ラップの治療が終わった後、警備員は意識を失ったままのジャック・ラップを運び出した。
シャーロットはジャック・ラップが連れ去られた後、すぐにエルフのそばに行き、エルフを支えた。
騒動はおおよそ約10分間続いた。
エルフの意識はまだあるが、状態はあまり良くなく、立ち上がるだけでも難しそうだ。
シャーロットの支えのおかげでまだ移動はできるが、足を引きずっている。
ジャック・ラップの攻撃が激しかったのが明らかだ。
「へロ君、もっと手伝ってよ?なんでまだそこで立ってるの?」
シャーロットは笑顔を浮かべているが、敬語を使っていない。
彼女の顔にはあの刀さばきの後でも無関心な笑顔をしていて、僕はこれはお願いではなく命令だと感じる。
僕はすぐにエルフのもう片方の肩を支え、シャーロットの案内で冒険者ギルドの2階の部屋に向かった。
「……シャーロ、あたしは冒険者ギルドで仕事を続けられる……?」
「もちろんですニャー!今日のはあなたの問題ではないので、ギルドはあなたがここで働く権利は剥奪しないニャー」
「それは良かった……」
その言葉を聞いたと同時に、エルフのお腹から大きな音が鳴った。
そして、エルフは恥ずかしそうに笑った。
「エルフ、ゆっくり休んで。療養期間中なら、ギルドは料金を請求しないから、安心して。」
「食事も含まれるの?」
「含まれるよ。何が食べたいの?」
「やった!じゃあ、チーズパン!上にたっぷりと熱々のチーズをのせてください!!」
エルフはガッツポーズて歓声を上げたが、次の瞬間後ろに倒れてしまった。
彼女は柔らかいベッドに埋もれ、すでに微かな鼾をかいている。
これは電源切られたロボットなの?
それにしても、こんなに酷い怪我をしているのに、なぜ食べ物に気を使っているんだろう?
「彼女はいつもこうだニャー。常にのんびりしてるニャー。」
「こういう状況でも?」
「うん。そうだニャー」
シャーロットは声を落として微笑みを浮かべ、部屋の開いている扉を指した。
僕はすぐに彼女の意味を理解し、彼女と一緒に部屋を出る。
「一階に行く前に、ちょっと聞きたいことがあるの。」
軽くドアを閉めた後、シャーロットは微笑みながら僕に尋ねた。
その笑顔は恐怖を感じるほどで、僕はすぐに頭を振った。
シャーロットは明らかに実力を隠しており、彼女の素速い攻撃と他の冒険者の反応を見ると、シャーロットの本当の実力は誰にも知られていないようだ。
知っている人も少数だろう。
「死にたくないのなら、本当のことを言うのが一番だニャー」
「話し口調がさっきと全然違うのに気づいてる……?」
「ここには私とあなたしかいないので、仕事の時のフェイクは要らないでしょう。それに、疲れるニャー!フェイクって簡単なことじゃない!あと、もう一度言いますが、ここには私とあなたしかいない。」
僕はシャーロットがここには僕と彼女しかいないことを強調する理由をよく理解している。
率直に言えば、ここで僕を抹殺しても、誰にも気づかれない。
美人なのに、言葉が怖すぎ!
まさか、シャーロットは腹黒い美人……?
数秒の間にいくつか答えを考えた後、僕はついため息をついた。
どう考えても、正直であるべきだと思う。
「どうしてあなたは実力を意図的に隠すの?」
「どうしてあなたは空気の無駄遣いなのに呼吸し続けるの?」
「呼吸しなければ死ぬんだ!それと僕の呼吸とあなたが実力を隠すことは関係ない!」
「いままさに正しい答えを言ったじゃない?」
「だから!僕の呼吸とあなたの実力を隠すこと……なるほど……」
「あなたの理解力は私が想像したよりも高いようだニャー。説明の時間を節約できるね。いや、正確には説明の義務はないし、するつもりもない。」
「あなたはレベルいくつで、あんな半空中から刀を出して相手の両手を瞬時に斬り落とすなんてスキルを使えるんだ?」
この質問はシャーロットの個人的なプライバシーを探るためではなく、今の僕がどの程度の実力を持っているかを知りたいという目的だ。
「神に召喚されて異世界から来た特別な人間だとしても、すべての質問が許されるわけではないよ。この世界では、年齢とレベルは女性の秘密なのよ。分かったわね?」
シャーロットの笑顔に戦慄が走った。
シャーロットのような美女が笑うと、人は可愛いと感じるが、今の僕はなぜか恐怖しか感じない。
「いずれにしても、私の実力はあなたが見たものだけじゃない。もし冒険者達の間で変な噂が流れていたなら、あなたはどんな結果になるか分かるよね?」
僕はすぐに頷いて理解を示すとシャーロットは満足げな表情を浮かべた。
「あの……次は何かするの……シャーロットさん?」
「あら、すっかり忘れていたニャー。登録手続きがまだ完了していませんので、へロさんには私と一緒にフロントで登録手続きを続けてもらいます。」
シャーロットの態度が変わりすぎて、もはやツッコミの気力すら失った。
生命の危機を脱したので、僕はおとなしくシャーロットに従って階下に向かった。
ただし、登録手続きと言っても、主要なプロセスはすでに終了しており、あとは冒険者カードの登録だけ。
一応、冒険者ギルドから装備も受け取るが、装備と言っても、切れが鈍い古びた長剣だけ。
それでも何もないよりはましだし、武器の購入費用を節約できる。
装備を受け取った後、次は冒険者ギルドの関連サービスの説明が続く。
クエストの受け取り、クエストの依頼、パーティーの検索、情報の購入など、冒険者ギルドのサービスは多岐にわたる。
この形式は馴染み深く、以前にプレイしたゲームとほとんど同じだ。
加えて、僕はゲームを楽しむのが好きだし、現在の状況も僕にとって理想的だ。
今、シャーロットにとって僕は神に召喚された勇者だ。
そして、冒険者達にとって僕は23レベルの冒険者を瞬時に打ち倒すことができる強者だ。
これは僕にとって最高の状況だ。
今回は……ダメ人間じゃない、強者だ!
「冒険者ギルドのサービス説明はこれで終わりですニャー。今、正式にへロさんを冒険者ギルドに歓迎します。」
シャーロットの話し方はゲーム内のNPCと何ら変わらない。
この笑顔を見ていると、さっき僕を脅していたことが信じられない。
「えっと、冒険者傭兵って何?」
「冒険者傭兵は冒険者ギルドが提供するサービスの一つで、今回の冒険の要求や予算を教えてもらえれば、へロさんの要求と予算に合った冒険者をチームに組み込むお手伝いをします。ただし、冒険者傭兵とチームを組むのとは異なり、冒険者傭兵には期限が設定されており、仕方ない理由がある場合を除いて、期限が切れたら冒険者傭兵は必ず冒険者ギルドに戻ります。さもなければ雇主の指名手配を発布します。」
要するに、ゲーム内で時折見られる「期間限定」の仲間のことだろうか?
「なるほど、僕も冒険者傭兵を雇う資格があるの?」
「もちろんですニャー。ただし、お金が必要になります。借金をしているへロさんが冒険者傭兵を雇うことができますか?へロさんは現在負債を抱えているため、これ以上冒険者ギルドはお金を貸しませんよ。」
僕はすぐに喉を大きく鳴らし、ポケットから唯一の銀貨を取り出し、フロントに置いた。
おそらく僕が本当は金を持っていたことにシャーロットは驚いている。
「へロさんはお金を持っているのに、なぜ故意に借金をするのですか?」
「ただ手元に資金を残しておきたかったんだ。何かあった場合に備えただけ。もし最初からお金を支払ったら、今傭兵を雇うことはできないでしょ?」
「確かに論理的な話だけど、わざわざ借金をしてるのはちょっと愚かにも思える......こうして借金をしているのはちょっと変だと思いませんか?」
僕はシャーロットの考えを理解できないわけではない。
こんな考え方、元の世界でもよく思えない。
「お金があるなら借りる必要はない、いくらでもお金を使えばいい」という考え方が主流だ。
これは間違っていない考えかもしれないが、自分自身を制約することにもなる。
例えば、借金の金利は2%だけ、株投資の収益率は5%。
もし、銀行から100万円を借り、毎年2万円の金利を払えば年間で少なくとも3万円の収益が得られる。
これは非常にシンプルな論理だが、ほとんどの人は借金のリスクを無意識に拡大する。
元の世界でこれを行えたなら、僕はあんなに苦しまなかった。
銀行のお金借り入れ規則は借り手の財力を参考にする。
僕の給料では多額の借金をすることはできない。
さらに、さまざまな銀行に問い合わせた経験からすれば、僕の借り入れ金利は高い。
これは、このお金を使って安定した収益を上げられるとするなら、利益が得られないという意味だ。
だから、そっちは諦めた。
一方、冒険者ギルドからの借り入れはフレンドリーだ。
冒険者であれば誰でも借りるができ、返済期限は設定されていない。
したがって、期間が長ければ長いほど、利率が低くなる。
おおよそ、半年の金利は20%、1年の金利は10%、2年の金利は5%という計算になる。
非常に魅力がある。
しかし、あまり長く借金するつもりはない。
なぜなら、借金を完済しないと、僕はいつまでもハジメ タウンに囚われることになるからだ。
「要するに僕は負債が好きだ。合理的な借金は将来の計画を立てやすくすると考えている。」
「冒険者ギルドは冒険者のお金の使い方には干渉しませんが、へロさんが愚かだと思ったのは私個人の意見ですニャー」
こいつ、もう隠す気ない!!