第十話 バカに代わりクエスト成功宣言をする!
「では、大金主様に正式にご紹介します。彼女が今回へロさんが雇用された傭兵、鉄ランクの冒険者 バカエルフですニャー」
「はい、あたしが鉄ランクの冒険者、バカ…シャロ!酷いよ!あたしの名前はバカエルフじゃない!エルフ・セリウスだ!」
「まあ、エルフは2つの名前を持っていますから、どっちでもいいですニャー」
「バカエルフはあたしの名前じゃない!」
「それでは、傭兵の紹介は終わります。お二人の冒険が順調に進みますように!」
シャロットは微笑みながら手を振った。
「これだけ?もっと詳しい紹介はないの?」
「それでは、傭兵の紹介は終わります。お二人の冒険が順調に進みますように!」
シャロットは微笑みながら手を振った。
「それはさっきも聞いた!他に話すことはないの!?」
「それでは、傭兵の紹介は終わります。お二人の冒険が順調に進みますように!」
シャロットは微笑みながら手を振った。
こいつ!クエスト案内が終ったNPCなのか?
一体、彼女は僕達をどれだけ早く送り出したがっているんだろう?
ますますバカエルフがどれだけ問題があるか心配になってきた!
ついため息が漏れる。
これ以上はただ時間を無駄にするだけだ。
僕は隣のクエスト掲示板に歩み寄り、2時間前に計画に組み込んだクエストがまだ掲示されていることを確認した。
そして僕は三つクエストを剥がしてシャロットの前に差し出した。
「この三つのクエストを受ける。」
「え?」
この人一体何を言っているんだニャー!?
なんで!?
必ず失敗するのにこんなにクエストを受けるの?
「あの……クエストが失敗した場合に違約金が発生することは知っていますよね?」
「知ってる。よくわかってる。でも、僕はこれらのクエストを受ける。」
「へロさんはもうバカエルフと組んで違約金を支払うことが確定しているのに、なぜこれらのクエストを受けるんですか?」
「まだ始まってもいないのに失敗すると思うな…とにかく、僕はこれらのクエストを受ける!」
この人は本気だニャー!
彼は本気で任務を失敗させたい!
シャーロットの瞳は大きく見開いている。
僕は彼女の両目を見つめ、覚悟の意を見せる。
おそらく僕が考えを変えないことを知って、シャーロットはため息をつき、僕が取ってきたクエスト依頼書を受け取った。
「へロさんみたいな人がいるんですニャー。もし自分が特別だと思っているのであればそれは大きな誤りだとしか言いようがありませんが、そんなに頑固なら、私もこれ以上説得するのはやめます。大人は自分の決断に責任を取らなければなりませんから。」
シャーロットはクエスト依頼書をもっと小さな指示書にして僕の前に差し出した。
僕はそれを受け取り、新しく買ったボディバッグに仕舞った。
「でも、こういうバカな人は嫌いじゃない。」
シャーロットは僕に笑顔を見せた。
「『嫌いじゃない』の中で『嫌い』がある。行くぞ!エルフ!」
僕はそう言って、フロントの前から外に向かう。
「あの!金主様、あたしのことを聞いたんだね?あたしがいるチームはクエストが絶対成功しない!今ならすべてのクエストを放棄して、冒険者ギルドから出る前にやめられるよ!違約金も支払う必要ない!」
「そんなルールもあるの?知らなかったな……ほら、エルフはなかなか優秀なガイドだろう?」
こういった返事を得るとは思っていなかったのか、エルフは驚きの表情を浮かべた。
彼女の様子を見て、僕は頭をかいてしまった。
格好いい言葉を言うつもりだったのに、あまりそういったことをしたことない僕は一瞬戸惑ってしまった。
「とにかく、行こう!時間を無駄にするわけにはいかないんだ!」
エルフはすぐに力強く頷き、僕の後に続いて歩いた。
「シャーロットって奴、またバカエルフを外の冒険者に紹介してるな!」
「美人なのに、本当に腹黒だ!」
「あいつ、冒険者になったばかりだったような?」
「そうそう!ビールジョッキで人を殴った奴だ!」
「レベル23の冒険者を倒せるらしいけど、彼は分かってないな!どんな強い冒険者もエルフのせいでクエストは失敗するんだ!」
「お前が言っているのは前回の金ランク冒険者のことだろう?あれは本当にすごいな!」
「本当に脳味噌がないのか、ただ単にバカなのか、考えなしに行動している感じがするね。」
「バカとバカの組み合わせ、まさに相性バツグンだな!ハハ!」
フロントからゲートまでの距離はそれほど長くなかったが冒険者たちの声は僕の耳に絶え間なく入ってきた。
エルフにもそれははっきり聞こえているとは思うが、彼女の顔は愉快な笑顔で、まるで何も聞いていないかのようだ。
それは単純に怒らないだけなのか、それとも単純に何も感じないのか?
いや、僕はそれがただの麻痺であると推測する。
たとえ怒りが湧いても何もできない。
なぜなら、自分の失敗は反論の余地がない事実だからだ。
それは彼らには関係ないが、それでも彼らによる批評は止まない。
これは元の世界と同じだ。
会社で何かをうっかり台無しにすると、それは無限に拡大されてしまうが、何か大きな功績を立てるとそれは無限に縮小されてしまう。
これは典型的な「部下の失敗は部下の失敗、部下の成功は上司の成功」だ。
会社は鬱陶しい環境である上、同僚たちは他人の誤りを批判して自分の価値を強調することで、自分の欠点が見つからないようにしている。
他人の過失を見れば自分が素晴らしい人であるかのように錯覚するのか。
僕の見解では、これらの冒険者たちは失敗者だ。
成果を上げた冒険者なら、おそらく冒険者ギルドで酒を飲んでいるはずがない、暇すぎて自分よりも下の人間を見つけてバカにし、自分自身にまだ価値があると感じさせる必要はないだろう。
ただの負け犬の遠吠えだけならば無視すれば良いのは理解しているが、何も感じていないのは絶対に嘘だ。
僕はどうすれば良いかを考え続ける。
もし何も聞いていないふりや、何も知らないふりをするのは黙認と同じだ。
「何も騒ぎを起こしたくない」と自分を納得させて黙って我慢するのが最善の選択と言えるかもしれないが、僕はそうしたくない──
何もしないなら、元の世界と何ら変わりがない。
しかし、そう思いながらも僕は直接的に反撃する勇気はない。
僕は自分の実力をよく知っているからだ。
たった今の出来事の中で僕は自分を強者に見せかけ、またシャーロットのおかげで強力なスキルを持っているとされているが、僕のステータスは笑い話のように弱い。
本当に彼らに対して攻撃を仕掛ければ、彼らは恥をかかされ怒り狂って反撃してくるだろう。
僕にはまったく勝算がない。
考えろ!考えろ!考えろ!
ゲートに着いた。
深呼吸して、言いたいことを考える。
今はたった一言、短い一言でいいんだ。
「お前たち!よく聞け!僕は!必ずこのバカとクエストを成功させる!それも1つのクエストだけじゃなく、沢山のクエストだ!」
冒険者ギルドに向かって叫んだ。
ざわめく声が一瞬で消えた。
冒険者達は一斉に僕を見つめる。
突然集まる視線に緊張感を感じ、自分の心臓がどきどきと鳴っているのが聞こえるが、僕は冷静を装い冒険者ギルドから歩き出した。
しかし、2歩歩いただけで冒険者ギルドからは大きな笑い声が爆発した。
まるで何か大きな笑い話を聞いたかのようだ。
この人…普通のスケベじゃないみたいだニャー
彼なら…エルフをゼロ成功の呪いから解放できるかもしれない!
本当にできるとしたら……
どうして彼はあたしのためにこんなに言ってくれるの?
今まで誰もそうしたことはなかった…
あたしは簡単なクエストも成功させられない冒険者だよ!
でも、でも…
この感覚はなんだろう…
エルフは自分の心臓がどんどん速くなっているのを感じた。
「あの……大金主様があたしのために言ってくれるのは感謝してるけど、あたし、何か呪われていると思うんだ。小さい頃から、何かを成功させたことがないんだ……」
「呼吸までは失敗しないよね?」
「えと、たまに失敗するんだ……寝ている時にたまに呼吸を忘れて、苦しくて突然目が覚めることがある。」
「……」
なぜ呼吸まで忘れるんだろう?
彼女は本気で言っているのか?
冗談だろ!?
「それに呼吸だけじゃなくて、食事の時はゆっくり食べてもうっかり窒息したり、水を飲む時も突然むせてしまうんだよ。あたし、本当に何をやってもだめなんだ。」
エルフは話しながら、へへへと笑った。
彼女は自分の失敗にすっかり慣れたようだ。
「あなたのバカさは想像以上だ……どうやったら食事の時に窒息して、水を飲む時にむせて、そして寝ている時に呼吸を忘れるなんてことができるんだ?」
「それはどうしてかはわからないけど、小さい頃神様の祭壇を焼いてしまった後からずっとこんな感じになったから……多分神様に呪われたんだ。」
そう、きっと呪いだ。これは絶対に呪いだ!
僕はこれが100%呪いだと確信した!
神様の顔ぶれを考えると、祭壇が焼かれただけで一人を呪うようなことはやっても可笑しくない!
「それから何度もミスしちゃったから、追い出されたんだ。」
「だから生きるために冒険者になったのか?」
「それ以外に自分に何ができるかわからなかったから。弓術以外はあまり自信がなくて……」
「射撃で一度も失敗したことはないのか?」
「もちろんある!時々うっかり仲間に当てちゅうことも……たまにだけどね!本当にたまにだから、そういうことはあまりない!」
いや、それは一度たりともたまに発生することじゃない!
しかも命に関わることだし!
「大金主様にはできるだけ当てないように心がけるから!」
エルフはそう言って拳を握り、頑張ぞというポーズをとった。
「なんで僕が当たるかもしれない前提でそんな宣言をしているんだ!」
「だって自信がないから……」
過度な貶めや批判は、心の中でかなりのプレッシャーになり、成功率100%でも100%失敗になってしまうことがある。
だから確かに、エルフは呪われているのだが、神ではなく他の何かに呪われている。
このような人には、もっと非難することも、どうしたらいいかを偉そうに教える必要ない。
彼女に必要なのは励ましであり、励ましは一番大事だ。
「安心して、あなたを必ず成功させてみせる。」
そう、絶対成功させる。
初めて聞くこんな言葉に、エルフはどう返答すればいいのか分からない。
エルフはへロに見つめられて何秒もクネクネと動き、そして自分の顔を力強く叩き、もう一度小さな拳を握り締めた。
「ファイト!」
こいつ、実際には言われているほどバカじゃないな。
天然だし運が悪いだけだ。
不運にも悪い人や悪い事に巡り合い、だからこそこんな状況に陥る。
少し鈍感な反応かもしれないし、思考パターンが単純かもしれないが、エルフは絶対にバカではない。
少なくとも僕はそう思う。
「でも大金主様、あたしを雇いたいと思った理由が知りたいな。明らかにもっと良い選択肢があったはずだし、ほとんどの人は他の傭兵を選ぶじゃない?」
「まず、大金主様って呼ばないでくれる? シャーロットが言ってた、僕の名前はへロだ、へロでいい。なんであなたを雇うことにしたかって? それは僕がお金がないからで、一番安い傭兵しか選べなかったからさ。」
「そんな現実的な理由だったのか? 安い以外にあたしが雇われる魅力がないってことか……」
「もちろんだ。だって過去の失敗を考えたら、一般の人は雇う気にならないくらいだ。だから、あなたは安い以外に魅力がないんだ。」
「でもそれってただの軽い女になるだけじゃない? あたし、そんな軽い女じゃない!数銅貨で買える女とは違う!」
「でも現実は数銅貨で手に入るんだ……いや、それよりあなた、この言葉は変だ! 何を買う、雇うだろ?!」
「それって同じ意味の言葉じゃない?」
「辞書でも見てこい!その2つの名詞がどこが違うか教えてやる!」
「でもやっぱり、他の理由も聞きたいな。例えば『一番綺麗な女』とか、『一番スタイルのいい女』とか、『見た目も頭いいし、強い女』みたいな。」
「僕が雇ったのは傭兵だけど、あなたがそう言うと、まるで売春のように聞こえるんだ……」
「へロ君はエッチな奴だな、あたしは明らかにそんなこと言ってない。」
「あなたの言い回しが誤解を招くんだ!」
つまらない質問に答えつつ、彼女にからかわれながら、僕たちは町の門に到着した。
エルフは僕の前でぴょんぴょんと跳ねるようにスキップし、そして振り返って微笑んで──
「それではへロ君!正式に出発しましょう!」
次の瞬間、彼女は転んでしまった。




