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071 悪役令嬢マリア、ミキとの別れるのを嫌がる

「だったら何なのよ」


「好きな人なんですから、信じてみてはいかがですか? たとえ結果が断頭台だとしてもです」


「……、あなたって冷たいのね」


「ええ、よく言われます」


「私にどうしろと言うの?」


「ハインリヒ王子に愛の告白をしてください」


「あなた、馬鹿なの、この国にはそんな前例はありません。物語の中でも女性は男性からの告白を待つものです」


「前例なんてクソくらえでございます。それにマリアが言わないと、ミキである私はハインリヒ王子を振り続けましたから、謝罪の意味でも告白が必要だと思います」


「無理、絶対に無理。言った瞬間に死んじゃうわ」


「では、公爵令嬢の秘めたる恋ですね」


「……、読んだの」


「読みました。面白かったです」


「あなた、本当に国に帰るの? ここでの暮らしはそんなに悪くなかったと思うけど」


「でも、私には日本に両親を残しているので、これ以上心配はかけたくありません」


「ふーーん、ウェブサイトに小説を投稿したいだけじゃないのかしら」


「もちろん、それもあります。数人ですが固定の読者が、私の小説をずっと読んでくれている人がいます」


「質問です。あなたは私とハインリヒ王子との物語をどう書くつもり?」


「そうですね。お互いの誤解が解けて晴れて結婚して、でもハインリヒ王子が浮気をしてマリアが苦しんで、愛していることに気付くとか……」


「却下です! ハインリヒ王子は浮気はしません。俺様気質でややこしい性格ですが、真っ直ぐな性格です。好きになれば必ず正式に妃にその方を上げます」


「それは失礼しました。それでは、この体をお返しして私は国に帰ります」


「あなた、同人誌はどうするのですか? 私、同人誌の知識なんてありませんわよ!」


「同人誌の知識がないと、私とマリアさんは記憶を共有しているはず。本好きがその手の知識を見逃すはずはありません。同人誌の巻頭はシャルロッテ様の恋物語。その次はハインリヒ王子たちの武勇伝でその次は公爵令嬢の秘めたる恋。ダメだ。もったいない。それぞれ独立させて発行する。グラントとアメリーは一冊にして合計四冊を発行してください」


「シャルロッテ様にハインリヒ王子の作品に私の駄作を並べるとは、あなた、私にまだ黒歴史を与えるつもりですか!」


「マリアさんの公爵令嬢の秘めたる恋は少々設定に矛盾がありますが、駄作ではありません。ただ、他の二人よりは売れないとは思います。あの二人は別格です。半端なく物語作家で食べていけます。思い切り反則です。あんなのと自分を比較してはいけません。落ち込むだけです」


「実感がこもっているわね……」


「コミケはどうするのですか? 私には想像がつかないのですけど」


「グラントがやってくれます。私はコミケに行ったことはあっても裏方はやってませんから。それと、書き手がプロ級二人とアマチュア三人しか今はいないので、早く多くの物語作家を育成しないとコミケは成り立ちません!」


「グラントに任せれば良いのね」


「はい、その方がちゃんとした催しになります」


「ミキ、あなたもうしばらく一緒にいてくれない? 急にあなたがいなくなると私、もの凄く不安なの」


「その気持ちはよくわかります。私もこの世界に放り込まれた時の気持ちと同じですから。大賢者様と相談してきます」



「灰色の鷹様、マリアさんとお話しました。私がいなくなるともの凄く不安だそうです」


「ならば、ミキとしてここに来て、マリアを補佐すれば良いだろう」


「へっ!」


「そんなことが出来るのですか?」


「ガンダルフ、いつものお前の決め台詞を言ってみてくれるかな」と灰色の鷹様が微笑みながらガンダルフに話を振った。


ガンダルフは苦虫を噛み潰した顔で「俺に不可能の文字はない」と言う。小声で「それは間違いだったと今は後悔している」とも言っているけど、大丈夫なのだろうか?


「ミキは一度、あちらに帰ってご両親を安心させてあげなさい」と大賢者灰色の鷹様が杖を上げると眩い光が私を包んだ。



 私は病室にいる。私の眼下には私の体がある。包帯は頭だけに巻かれているだけで、外傷はないようだ。おかしい間違いなく私は自動車に轢かれたはずなのに。


 私は私の身体に吸い込まれた。


 顔を横に向けると疲れ果てた母の顔が見えた。


「お母さん、大丈夫? かなり疲れてるみたいだけど」


 母親は何も言わずに私を抱きしめた。「ミキ、良かった。意識が戻って、二か月も意識が戻らないから心配したのよ」


 あっちの世界とコッチの世界では時間の進み具合が違うのか。日本では事故にあってから二か月しか経っていないのか。


「看護師さん、ミキが意識を取り戻しました」


「それは良かったですね。先生を呼んできます」


 病室の片隅に透けた幽霊みたいなガンダルフが座っている。「俺は自由だ」って言っている。


「お母さん、あのうジュースが飲みたいの」


「ああ、ジュースね。買って来るわね」と母にジュースを買いに行かさせた。


「ガンダルフ、なんであなたがここにいるの?」


「相棒だから」


「ガンダルフ、あなた、まさかネルーさんから逃げて来たわけじゃないわよね?」


「……」


 日本にドラゴンが来襲してしまう。

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