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悪役令嬢の私との婚約を、王子が破棄しないと私は断頭台に直行なのよ  作者: 田中 まもる
第十三章 悪役令嬢マリア、大賢者のもとへ
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064 悪役令嬢マリア、大賢者灰色の鷹のところへ旅立

 ウグルさんの手引きで、私、ユリアさん、カザルさんの三人は遊牧の民のキャンプを抜け出し、大賢者灰色の鷹さんのところに向かっている。


 頼りは灰色の鷹さんからもらった指南車だけ。方角しかわからないので、いつ大賢者に会えるのかまったく見通しが立たない。


 カザルさんの様子は、ウエッブ小説を毎日投稿することを義務付けていたミキだった頃の私が、書けない状態にハマった時の姿そのものだった。


 書けない、書けない、書けない。キャラが動かない。アイデアがわかないとブツブツつぶやいて、あちこち、ウロウロして柱にぶつかって、頭にきて柱を蹴って、再度痛みを感じて生きているのを実感するみたいな姿だ。


 自分はゴミだ、存在価値がないと気分はうつ状態になる。虚ろになって何かを探す。そこから抜け出すには結局、何か書くことしかない。まあ、その結果はストレス全開の物語になるので、かなりブックマークがはがれてしまうのだが……。


 カザルさんの場合、笛の音で暴れるより今の鬱全開をどうにかしないと、ユリアさんが言うようにかなりヤバいと思う。この世界には精神科医も心理カウンセラーもいないし、薬もない。


 薬については私が作れないか考えている。クレール家では毒薬の作り方および解毒剤の作り方を教え込まれたし、実際に自分で作った毒薬を飲んで、次に自分で作った解毒剤を飲む体験もさせられた。隣にジョーダンさんが緊急時対応で待機してもらっていた。


 一度、痙攣けいれんがひどすぎて、解毒剤が飲めなかったことがあった。あの時は死ぬなって思ったよ。


 とは言ってもこの草原には、傷薬になる薬草程度しか生えてない。それと私が作った薬を、ユリアさんが信用してカザルさんに飲ませるかどうかが一番の難問だったりする。


 ユリアさんは、カザルさんをにべったりくっついて、かいがいしくカザルさんの世話をやいている。このままだとカザルさんがユリアさんに依存してしまいそうで、これもマズいと思う。


 狩りは、カザルさんの介護をしていない私が担当することになってしまった。まあ、良いけど。獲物を見つける。私は獲物の近くに爆裂魔法を落として、獲物を気絶させてトドメを刺して、その場で解体して、塩漬けに出来る肉とその日に食べる肉にわけるだけのことだから。


 カザルさんは、餓死したいのかほとんど食べない。それをユリアさんが騙し騙し食べさせている。これ本当に医者に連れて行かないとダメだ。大賢者さんがカザルさんの治療もしてくれることを心から願っている。



 私が爆裂魔法をちょいちょい落とすので、追っ手の皆さんが追いかけるのは楽だったのではと思う。後ろから土煙が上がっている。


「ユリアさん、追っ手が来ましたけど、どうします」


「戦います!」それ一択ですか。


「エクスプロージョン」と私はキメ顔で言ってみた。別に言わなくても良いのだけれど……。


 追っ手の皆さんの近くに爆裂魔法を放って追っ手を吹き飛ばした。一日くらい行動不能に出来れば良いのだけれど。


 追っ手の皆さんはカザルさんを殺せば勝ち。こちらは逃げきれれば勝ち。ユリアさんが言うには、もう少し行けば、イワンさんたちと敵対している部族の支配領域に入るそうなので、そこまで行ければ私たちの勝ちになる。


 でもだ。私が見たところ追っ手の皆さんも本気で追いかけているようには見えない。マリオは別格としてユリアさんの馬もカザルさんの馬もそんなに良い馬ではないので、追っ手の皆さんの馬の方が段違いで早い。回り込むなりすれば、イワンさんたちは、私たちとの近接戦に持ち込めるはずなのに、なぜかそうはしないもの。


 とは言え襲撃が三回もあった。けっこうしつこかった。


「マリア様、ここからはイワンたちと敵対している部族の土地です」


 それはそれで面倒くさいと思う。ユリアさんって族長の娘だし、一番危険な立場だと思うのだ。カザルさんはほとんど生きているとは言えない。人数に入れる必要が今はないと思う。



 オアシス都市が見えて来た。


「ユリアさん、あそこで休みましょう。たぶん、まだまだ旅は続くと思いますし、カザルさんの顔色が悪いので薬があれば買いたいですから」


 ユリアさんを説得するにはカザルさんの体調を絡めるとスンナリ行くことを私は学習した。ユリアさんの焦る気持ちはわかる。カザルさんは日に日に弱ってきているから。


 オアシス都市に入るとお約束のチンピラさんたちがやって来た。


「良い馬だ」


「上玉だ。これは高く売れる」


「男はダメだ。死にかけだ」


 そっかあ、私は馬だけの評価なのか。


「ユリアさんはカザルさんを守ってください」


 私はマリオから下りた。「今の暴言は聞かなかったことにしてあげます。道を開けてくださいな」


 後ろから、チンピラAが襲いかかってきた。軽く避けて態勢の崩れたチンピラAを地面に叩きつけた。


 チンピラBからEまでが短剣を抜いた。私も抜いた。抜いた以上は最悪相手の命を奪う。一応喧嘩なれはしているようで、四人、目配せをすると一気に距離を詰めてきた。私はチンピラCの太ももを短剣で斬った。動脈狙った。早く止血しないと出血多量でショック死する。


 チンピラBの腕を短剣で軽く斬った。チンピラBは短剣を落とすと脱兎のごとく走り出した。残りDとE、逃げれば良いのに完全に頭に血が上っているようで、短剣を振り回しながら私に突進してきた。私は体をかわして、やはり太ももを短剣で突いた。


 戦意を喪失したチンピラDとEは足を引きずりながら、チンピラAとチンピラCをその場に残して逃げて行った。


「どうするのよ。この人。このままだと失血死しちゃうんですけど」


 周囲の人は私たちがいない者として通りすぎて行く。私も放置で良いかと思う。チンピラAが意識を取り戻したらなんとかするはず。


 はあ、でも応急処置で止血だけでもしておこうか。


「ユリアさん、薬の入ったカバンをお願いします、一応救急処置はしておきます」


「マリア様、短剣を先に抜いた者を助けると、後々面倒です。この街の者に後は任せれば……」


「そうなんですけど、無駄にして良い命はないと思いますから」


 私はチンピラCの止血を行った。


「マリア様、手際が良いのですね」


「ユリアさん、ウチの家ケガが多いですから。慣れでいるのです。実は私、医学の心得のあるのです」


 ここで医学の心得をアピールをしておく。私が作った薬をカザルさんに飲ませてほしいから。


 止血の処置が終わったタイミングで四人の兵士がやって来た。


「お前たちか? 善良な市民を襲った旅人は」


「はっ!?」


 

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