006 悪役令嬢マリア、戦場に行くその1
「マリアお嬢様、マラード家の晩餐会はいかがでしたか? 何やら騒ぎが起こっていたようでしたが」
「私がシャルロッテを王妃になるよう協力するって言ったからかな」
「王弟派の有力貴族にハインリヒ王子派に寝返れと王弟派の晩餐会でおっしゃられたのですか。それならあの騒ぎも納得できます」
「だって、シャルロッテ様は聡明でお美しくて、続きが絶対読みたい物語が書ける方なんですよ! シャルロッテ様以外の王妃なんて私は考えられないの」
「マラード家は屋敷の改装を最近したそうです。大量の書籍も購入していたとの情報が入っております」
「シャルロッテ様はマリアお嬢様の好みに合ったお部屋をご用意されたようですな。マリアお嬢様を取り込むためにです」
「そしてその企ては見事に成功した。マリアお嬢様はシャルロッテ様に心酔されている」
「仕方ないでしょう。シャルロッテ様は物語作家としての才能も技量もある方なのですから、物語の続きを読むために、これからしばしば、マラード家に伺う予定です」
「おそらく、そのような時間は、お嬢様にはないかと愚考します」
「明日は、馬場に行き、お嬢様が戦場で騎乗する馬を探さないといけませんので」
「ジョーダンさん、冗談はやめてくださいませ……」
ジョーダンさんが父上と母上にマラード家での晩餐会について報告をした。怒られるかと思ったら、二人とも体調が悪くなって、寝込んでしまった。
◇
クレール家の馬場にジョーダンさんに連れられて来ている。私は馬が大好きだ。日本で生きていた時、父親が競馬好きで毎度、競馬場に連れて行かれて、パドックで馬を眺めていた。
良い馬はお尻が違う。お尻が丸みを帯びていて、毛並みが艶やかな馬は良い馬だと思う。後、性格が負けず嫌いな馬はよく走るのだが、二番手になると一気にやる気がなくなるのが困る。
クレール家の馬はすべて良い馬だ。あそこで、一頭えらく暴れている。私はその暴れ馬のところに近寄ったら、飼育員が飛んで来て、私を制止した。
「あの馬は担当の飼育員でも、機嫌が悪いと噛みます、蹴り上げます。もう、面倒が見切れないので馬刺しにしようかと、飼育員同士で言い合っている馬です。危険ですので、近寄らないでください」
馬刺し寸前の馬か。私と一緒だね。「心配ないから、私には執事長のジョーダンさんが付いています」
「こんにちは、馬刺し寸前の馬さん」
馬が私を睨んだ。私も馬の目を見つめた。馬が目を逸らしたので、私は裸馬の背中に飛び乗った。馬は驚いて駆け出した。
「お前は良い馬だ。馬刺しになんか絶対させないから、安心してね」
馬場の柵を軽く飛び越えた。お前が好きなだけ走れば良いよ。私とお前はいつも一緒だ。水が飲みたいのか水場は左だ。内側に手綱を軽く引いて馬の顔を左に向けた。
馬はゆっくりと水を飲んでいる。「お前、私の馬にならないか? 私の名前、マリアをあげるから」
馬が首を横に振った。「ダメかい。お前もしかして雄なの?」
「ブルルル」
「じゃあ、マリオはどう」
「ブル! ブル!」
「お前は今日からマリオだ。改めて私はマリア。よろしくね」
「ブルルググ」
「お腹が空いたのか、じゃあ馬場に戻ろうか」私はマリオに跨って馬場に戻ったら、馬場中が大騒ぎになっていた。
「この子は、私を主人に選びました。この子は私の馬でマリオです。間違っても馬刺しにしないでくださいませね」
「お嬢様、鞍はどうされます」
「この子は重いのはダメ。出来るだけ軽い鞍を特注してください。ジョーダンさん」
◇
「お嬢様、突然馬に飛び乗るのは感心いたしません。馬場の者たちがパニックになっておりました」
「でも、あの子ね、もう我慢の限界って感じがしたから」
「それにしても、相変わらずお嬢様は身軽でございますな」
生前の私は新体操で高校県大会四位だったからね。
いつだったか調子に乗って馬の上で曲乗りをしていたら、お母様に見られて、鍛錬とは名ばかりの疾風のイライザのしごきを受けた。あの時は本当に死ぬかと思った。母上はキレると手加減がない。母上は風魔法で一気に私との距離を詰めて、その後は総合格闘技。私の意識がなくなると、頭から息が出来ないくらいの量の水を私に水魔法でぶっ掛けて、鍛錬が始まる。父上が止めてくれなければ、死んでいたと思う。
あれ、あのゲームにはそんなイベントはなかったのだけど。
私は風魔法も水魔法も使えない。私の使える魔法は爆裂魔法のみ。私の二つ名は砲台のマリア。魔法についても落ちこぼれなので、クレール家では体術を徹底的に鍛えられた。
平和な日本でごく普通のOLだった私は、この世界で短期間で女戦士になっていた。クレール家では鍛錬中の事故で、グロい光景を見慣れてしまい、涙も出なくなった。それよりも早く手当てをしないとって、体が勝手に動く。私には看護師の才能があったみたいだ。