059 悪役令嬢マリア、ガンダルフの結婚式に出席するその四
「大賢者灰色の鷹様、休憩ですか?」
「ああ、しばし休憩だね。でもすぐに二人はここに戻ってくるよ」
「ガンダルフ、結婚式はお開きだって言った気がしましたが」
「ガンダルフはあの杖を握っていたよね。あの杖に私は帰還の魔法をかけておいた。一時間もすればここに戻って来るよ。結婚式自体はつつがなく終わったし……。後は披露宴だけだね」
「大賢者様、誓いの口づけが省略されています」
「それは、結婚式でしても良いし、披露宴でもしても良い。それをいつするのかは決まったことではないからね」
「ネルー、私の役割はここまでで良いというこだね」
「はい、大賢者様は大勢でいることを好まないのはよく知っていますから」
「大賢者様、私は披露宴の方に向かいます。落ち着きましたらお礼に賢者様の森に伺います」
ネルーさんは幸せそうに、披露宴会場の方へ歩いて行った。
◇
「大賢者灰色の鷹様、あなたは何者なのですか?」
「私は見ての通りの人間なのだがね」
「ドラゴンは自分よりも優れたものでなければ跪ずきません」
「優れているの意味がわからないのだが、ドラゴンは彼、彼女らが素敵だと思ったものに対して跪くこともあるので、取り立てて珍しいことでもないのだけれどね」
「灰色の鷹様、灰色の鷹様は数多くの英雄譚に登場するされていますが、どの旅が一番記憶に残っておられるのですか?」とアメリーが目を輝かせて灰色の鷹さんに尋ねた。灰色の鷹さんって有名人なの?
「そうだね。私は色々な物語に登場しているのだが、私はただそこにいただけとか、実際にはいなかったのにいたことにされている物語が多いから、あまり信用しないようにね。一番記憶に残る旅は、船旅だった最果ての島だろうか? あの旅は本当に疲れた。ネルーとガンダルフがずっと口喧嘩をしていたので……」
アメリーが期待していた答えと違う答えが返って来たのに、なぜかアメリーはうなずいている。ファン心理だね。
「大賢者様は披露宴には出席せずに森にお帰りになるのですか?」
「ドラゴンの酒宴は終わりがないから、君たちもそれぞれの役割が終われば、スッと退席することだ」
「それぞれの役割とは何でしょうか?」とグラントが心配そうに大賢者に尋ねた。君たちは物語を歌いそれに合わせて、その娘が舞うことが期待されていると思うよ」
グラントとアメリーが顔を見合わせて、困惑の表情になったけれど、すぐに打ち合わせを始めた。
大賢者、灰色の鷹さんはガンダルフの魂が抜けた鉄剣を見つめて、「元の姿に戻そうか……」と言うと、杖を鉄剣に向けた。鉄剣は一瞬カット光を放った。
私は剣を鞘から抜くと、「ええーー」鉄剣がオリハルコンの剣に変わっていた。
「大賢者様、これって?」
「ガンダルフは、エルフとドワーフに悪戯を仕掛けて、罰として鉄剣にされたのだよ。元々の剣はちゃんとしたオリハルコンの剣だったのだ。ナマクラな鉄剣に君の魔力を付与すれば、折れるはずなのにと思ったはず」
「確かにずっとおかしいとは思っていました」
「あのう、大賢者、灰色の鷹様、私の前世について相談したいと思うのですが……」
「君は転生者だね。アウグストに言われたのかなあ? まだ死んではいないとか、まあ、いつでも来ると良いよ。これを君に渡そう。私がいるところを示す指南車というアイテムだよ」
「ありがとうございます。大賢者、灰色の鷹様」
「ああ、また会おうね。そろそろ、ガンダルフとルーメンが戻って来る頃だ。君たちも早く披露宴会場に行くことだ」と大賢者灰色の鷹さんは文字通り鷹になって空に飛び立った。
私は指南車をポケットに入れて、打ち合わせ中のアメリーとグラントを誘って披露宴会場に向かった。
◇
披露宴会場に入った。酒臭い。多量のお酒と肉が並んでいる。アメリーはお酒の臭いだけで酔ってしまった。グラントが回復魔法をアメリーにかけていた。二人見つめあって幸せそうで何よりだ。
ルーメンさんが真正面の新郎、新婦席に遠慮なく座っている。その前にはルーメンさんにあっさり逃げられたドラゴンの精鋭の皆さんが殺気を込めてルーメンさんを睨んでいる。この式場からルーメンさんが出た途端、リンチに合いそうな不穏な空気が流れている。
ルーメンさんは、そのことに頓着せず、お肉を食べてはお酒を呑んでほぼ出来上がった状態になって、ガンダルフさんに口づけとか叫んでいる。その度にガンダルフから杖で頭を殴られていた。
私たちが着席したのを見て司会進行役のドラゴンさんが、「先ずは新郎の友人であるルーメンさんからお祝いの言葉がございます」
ニヤリと笑ってルーメンさんが立ち上がって、ガンダルフがいかに凄い魔術師なのかを話していた。で、最後に「ガンダルフよりも凄いのが私です」って締めたると、爆発が起こった。ガンダルフは予期していたようで、その後爆風がすべて精鋭部隊の皆さんに集まるように風魔法で操作していた。
精鋭部隊の皆さんもこれまた予期していたようで、それに怯むことなく消えたルーメンさんを追って行った。
ルーメンさんと精鋭部隊の皆さんがいなくなって殺気が消えたところで、ネルーさんの友人代表のドラゴンさんが祝辞を述べていた。私は新郎新婦共通の友人の原稿を渡されて、何とか噛まずに言えた。
で、司会さんは、ただ飯、ただ酒は許さないぞの勢いでグラントとアメリーに余興をするように無茶振りをしてきた。




