056 悪役令嬢マリア、ガンダルフの結婚式に出席するその一
祠に入るとすぐに、建物に転送されて、国王の部屋に戻って、アウグストさんは自分の体に戻った。あと一日戻って来るのが遅れたら、私とアウグストさんの魂が融合するところだったそうだ。
あのう、デメリットは最初に教えておいてほしい。後から聞かされと本当に心臓に悪いから。
私は神君様、私はローマ皇帝神君アウグストにちなんで、アウグスト国王を神君様と呼ぶようにした、ご本人はとても嫌がっていたけれど、に見送られて草原の祠に転送された。
「ふう、何とかなった」
「ああ、ネルーが来る……」
ガンダルフの声が沈んでいた。
◇
ドラゴンが私たちの近くに土ぼこりを上げながら舞い降りた。
「ガンダルフ、迎えに来たわよ。衣装合わせをしないといけないから」
「ネルー、私は鉄剣なので衣装合わせは不要だ」
「あなたが洞窟に隠しておいた、あなたの身体を発掘したから。あなた、自分の力で元に戻れるでしょう。何なら魔力をあげましょうか?」
「ネルーから直接貰うとこの鉄剣が折れる。マリアを通して私に魔力を注いでほしい」
「マリア、あなたもご一緒に。そうねマリアの衣装も新調してあげるねわね」
「ああ、ありがとうございます。ネルーさん」私は思い切り緊張して噛みそうになった。ドラゴンから服をプレゼントされるなんて思ってもみなかった。でも、ご祝儀はいくら包めば良いのだろうか? 誰か教えてほしい。
「立会人は大賢者灰色の鷹様にお願いしたから」
「ネルー、それは大賢者様の静謐を妨げることになる」
「あっ、もう頼んだし、承諾も得たし。終わった話よね」
「……」ガンダルフは抵抗するのを諦めたようだ。
「馬が邪魔ね、マリア、馬は勝手に自分の厩舎に戻るからここに置いて行ってくれないかな」
「私は一度王都に戻るので、ガンダルフさんだけを連れて行ってくださいませ」
「そうね、とりあえずガンダルフだけ連れて行こうかしら」
「マリア、マリオは俺が飛ばすから魔力だけ俺にくれ。頼む俺を一人にしないでくれ……」
ガンダルフが私に懇願するなんて、どうしたことでしょうですよ。
妻になる人の実家に一人で行くのがそんなに怖いのだろうか? よくわからない。
◇
結局、ネルーさんの背中に私が乗って、マリオをネルーさんの背中に魔力の綱で固定して、ドラゴンの国に向かっている。ガンダルフはネルーさんの右前足にしっかり握られている。ネルーさんの強い意思を感じる。
ドラゴンの国が見えてきた。周囲は高い岩山には囲まれている。岩山にはドラゴンの巣穴が多数あいている。岩山に囲まれた盆地に都市が見えた。あれがドラゴンの国の都みたいだ。
都の中にいるドラゴンはすべて人型をしている。中央に聳え建っているのは教会だろうか? 聖なる息吹を感じる。
教会のような建物の前にネルーさんは舞い降り、私たちを背中から降ろすと人型になった。
「やはり馬は重いわね。ガンダルフの頼みでなければ食べていたかも」
「お疲れ様でした。後でお肩でも揉みましょうか?」
「それは嬉しいわね。お願いするわ」
「では、ガンダルフ、あなたの体に会いに行きましょうか」と言うとけっこうな早足で道を進む。私の足では追いつけないのでマリオに跨ってついて行く。
都市の外れに洞窟が置かれていた。これって洞窟ごとここに運んで来たわけだろうか。ドラゴンのパワー恐るべしだ。
「ガンダルフの体が壊れてはいけないので、前後一キロメートル洞窟を切り取って持って来たのよ。岩山が崩れちゃったけどね。てへ」ネルーさんが戯けていた。
岩山一つ潰して持って来たのか。周辺の生き物たちに被害はなかったのか少し心配になった。これも終わった話で片付けられるのだろう。ドラゴンにクレームを入れるものはいないだろうし。
私たちは洞窟に入って十分ほどで、ガンダルフの化石の前に立っている。マリオも一緒だ。洞窟の外だとドラゴンに食べられそうだったから。
これってもうダメなんじゃないだろうか? 完全に岩と同化してるし。
「マリア、ネルーから魔力をもらって少しずつ、俺に注いでくれ。剣先がパチパチ言い出したら、切先を石像に向けてくれ」
「ネルー、マリアに魔力を譲渡して」
「うひゃ」変な声が出てしまった。人からというかドラゴンから魔力を譲渡されるのは、何だろう変な気分になってしまう。体の芯が熱いというか何というか、これってかなりヤバい感覚だ。
私は化石に切先を向けた。ドンと大きな音ともに化石の周囲の岩が崩れて、昔の怪獣映画の場面みたいに、化石が洞窟の通路に向けてゆっくりと歩き出した。私の頭の中ではブワーワーとかトランペットのBGMが流れている。ネルーさんが涙を流していれば間違いなくあの場面なんだけど。
でも、ハニワ顔でないのが残念だ。顔の彫りが深くて渋い大人って感じがする。顔に張り付いていた岩が崩れ落ちると、思わず「うわーー」って言ってしまうほどの大人って感じの男性が現れた。ネルーさんが何千年も待つのも当然って感じがする。
ネルーさんがガンダルフに抱きついている。




