052 悪役令嬢マリア、深夜に襲撃される
深夜、私はテントの周辺に焚かれたかがり火を見ている。鉄製の檻の周囲のかがり火。そして侵入者に向けてのかがり火が二重になって火が焚かれている。城壁のあちこちにもかがり火が焚かれている。
ユリアさんが言うには今夜もっとも悪魔の力が強大になる日。襲ってくるとすれば、今夜だと言う。深夜零時が回って襲撃がなく、少しだけほっとしたら。真夜中なのに鳥の群れが中庭を目指して飛んで来ている。
警備の兵士の緊張は一気に高まり、火矢を用意した。ラッパが吹き鳴らされ、兵士が弓を持って持ち場に着いた。
私はテント近くにガンダルフを持って陣取った。私が最後の防波堤と言われている。ガンダルフは、「ありゃあ、この世のもんじゃない。マリア、気を引き締めないとどこかに飛ばされるぞ」
「私の頭の中では、兵団長の声がうるさい」
鳥の群れが中庭に殺到する。王城から無数の火矢が放たれる。中庭で警備している兵士も鳥の群れに向かって火矢を射掛ける。燃える鳥があちこちに落下して、王城内は真昼の明るさだ。
鳥が燃え尽きるまで近寄れないので、あちこち類焼し始めている。鳥が兵士にぶつかり、兵士が倒れた。私はその兵士が起き上がる前に、十メートル近くまで駆け寄り、ガンダルフを横薙ぎ。兵士の体にゲヘナの炎を着ける。鳥にもゲヘナの炎が着けた。
後はそれの繰り返し。夜が明けるまで、ひたすら鳥や鳥にやられた兵士を燃やし続けた。私にまた新しい二つ名が付いた。処刑人マリア。
鳥の後は犬。犬の後は猫と襲撃があった。一番苦戦したのは地面からわいて出て来た虫。兵士を避難させて、王城からの火矢と私のゲヘナの炎で焼き尽くした。
ユリアさんが至急私に会いたいと言って来た。「草原に真っ黒なスライムが地面からわいて来たと連絡がありました。族長たちがマリア様に出陣を願っています」
ユリアさんたちは何らかの手段で族長たちと連絡を取り合っているのがわかった。これは私だけの秘密にしておかないと、後々面倒だ。
私はグラントとアメリーには、理由は隠して、まあグラントにはわかってしまうだろうけど。草原に行く旨伝えた。
草原からわいてスライムもどきが、兵団長らの仲間でしかも本隊なのが私にはわかる。兵団長たちの祈りはおそらく王都に満ちている魔力を草原にある彼らの根城に送っていたのだろう。
◇
私はただ一人マリオに乗って草原を走っている。左側からイワンが声を掛けてきた。「すまん。俺たちではあの真っ黒なのに歯が立たない」
「イワン様、少しでも弱らせてくれとだけでも嬉しいです。後は私に任せてください」
「マリア、お願いする」イワンたちは私の邪魔にならないように距離を取った。
草原が真っ黒だ。原油が漏れて辺り一面原油だらけって感じがする。これが兵団長たちの中身なんだろうか? うめき声が頭の中に聞こえる。呪いの言葉が満ちている。王国には絶対に入れられない。
私はガンダルフに魔力を注ぎ、剣を振るった。真っ黒なスライム状のものがゲヘナの炎に包まれた。私の頭の中が騒々しくなる。
「ガンダルフ、どうにかならない」
「俺の切先に意識を集中して剣を振え。繰り返しだ。いつまでもその呪いの声を聞き続けると、ヤツらに取り込まれる。意識を常に切先に集中だ!」
確かに意識をガンダルフの切先に集中すると呪いの声は聞こえなくなる。ゲヘナの炎が燃え盛るにつれて、声が徐々に聞こえなくなった。
「マリア、ヤツらの根城がわかった。俺の指示通り馬を走らせろ。援軍は取り込まれる可能性があるので、ここで待機させろ」
「了解。ガンダルフ」
「イワン様、私はこの真っ黒なものの根城を燃やして来ます。皆さんはここで待機してください。お願いします。悪魔が最後の力で誰かに憑依するかもしれません。決して来ないように。万一来れば、悪魔とみなしてその人を燃やします。冗談ではありません」
そこまで言うと、イワンさんを初め着いて来たそうな人たちが苦笑いになった。ただ一人を除いて。ユリアさんの恋人カザルさんが、私の後を着いて来た。
「カザルさん、あなたが悪魔に取り憑かれたらユリアさんが悲しみますよ!」
「伝承によれば、悪魔は勇者には取り憑けない」
「あなたが勇者でなければ、私はあなたを燃やしますがそれでも良いのですね」
「問題ない」
もう、カザルさん、フラグ立てまくりなんだけど。
「ガンダルフ、どうしよう」
「マリアは手を出すな。遊牧の民にその処分を任せろ」




