049 悪役令嬢マリア、襲われる
「王国からやって来た四人の悪魔を先日捕らえました」
「王国からやって来た四人の悪魔ですか? 私たちは王国から逃亡した騎士を探しに来たのですけど」
「装備は王国の装備でしたが、騎乗していた馬はすでに死んでおりました」
「死んだ馬に乗っていたのですか?」
「騎士もすでに死んでいたようで、矢が刺さっても一滴の血も流れませんでした」
「死んだ騎士が死んだ馬に乗って走っていたわけですか?」
「はい、我々の伝承にあった悪魔になっておりました」
「よく、そんな悪魔を捕らえられることができましたね」
「この辺りは悪魔が時々現れますから、祖先が悪魔の捕らえ方を伝えてくれています。数百年前からこのあたりは禁断の地と呼ばれて、よほどのことがなければ、我々も近寄りません」
「王国から禁断の地に向かって奇妙な馬が六頭走っている。その馬の上には死体という報告が入って、すぐに選りすぐりの勇者が後を追い捕縛しました」
「悪魔が禁断の地に入ると碌なことが起こらないとの先祖からの伝承がありますので、急ぎました。なので六名、遺体ですが、抵抗した二名は馬ごと燃やしました」
「燃やす以外に悪魔を滅ぼすというか、とりあえず反撃させないようにするにはそれ以外の方法がないのです」
「ただ、燃やされた悪魔がその後どうなるのかは、誰も知らないのです……」
「我々の伝承では、悪魔は死なずまた復活すると言われています」
さっきから不機嫌だった少女が短剣を抜き放ち唐突に、私に襲いかかって来た。早い!
間一髪、シールドが張れて、「ふえー、死ぬかと思ったよ」
「ユリア様! ご自分が何をしたのかわっていますか!」
「真の勇者の妻を殺そうとしました。それだけです」青ざめた顔のユリアという少女が、ささよくように言う。
「真の勇者の妻って?」なんのことだろう。
「現在、各部族から我こそは勇者という者たちが、マリア様の夫を目指して戦っています。優勝者はマリア様と結婚する。そのう、ユリア様の恋人もその戦いに参戦されておられてですね……。」
「嫉妬ですか」
「嫉妬などではありません。彼はあなたのような、面白い顔の女の子を彼は好みません」
初めて言われた。面白い顔って。普段は性格がキツそうとかは言われる。だって私は悪役令嬢だから。
「あのうですね。ユリアさん、ユリアさんが私を殺そうとしたことが、広まったら、彼氏さん、戦いから失格ってことになりませんか?」
「……」
「嫌われる……」と急に我に返ったユリアがつぶやいた。
「なので、ユリアさんが今したことはなかったことにしたいのですが、私たちも悪魔になった兵士を連れて帰りたいので」
「マリア様、ありがとうございます。我が部族は全面的にマリア様に協力いたします」とユリアのお従者が宣言をした。
「ユリア、今回だけだぞ。我々は何も見なかった。それにお前の想い人ではイワンに勝てないから安心するが良い」と使者の代表者さん。これでユリアちゃんの蛮行は闇に葬った。
「カザルは負けません。彼こそ真の勇者です」
ユリアちゃんの想い人はカザルと言うのか。良いなあ。そこまで大好きなのが。
「カザルさんが優勝しても、私はカザルさんの妻にならないと言うのは……」
「ダメですね。マリア様の夫になって初めて真の勇者が名乗れるので」と使者の代表者さんが一刀両断で、私の提案をぶった斬った。
「それで、嫁取り戦はどこまで進んでいるのでしょうか?」
「現在、地方大会中で間もなく、そこを勝ち抜いた百人が本戦に進みます。マリア様には春に行われる決勝戦には必ずご参加ください」
「はい、承知しました。マリア・フォン・クレールの名に掛けてお約束します」
私の結婚式は来年の春なのか。日本での予定では腰掛けのOL生活を二年間して二十四歳で結婚する。結婚して退職。で、子どもが出来るまでは派遣で仕事して、子どもが大きくなったらパートに行って、マンションを買って、私のパート代は住宅ローンの足しにすることって、両親から言われていたような。
私としては、主婦業をしながら書籍化作家になって印税で儲けると言うふうに思っていたのだけど。投稿した小説がイマイチ人気が出ず、〇〇大賞に何度も応募したけど、一次通過もしない。道は遥かかなたにあった。
この世界には印税制度もないし、自分で原稿を書いて、印刷所に持ち込んで、印刷して、自分で売る。またはお店に場所代を支払って置いてもらうしかない。なんとかコミケみたいなのを催したいのだけど。遊牧の民になったらそれ以前に識字率から上げないと、やはり道は遠い。ふわー。
「マリア様、悪魔四匹はどうされます」
「王国の兵士なので連れて帰ります」
「悪魔に魔法は効きません。馬に乗せたりすると馬に憑依しますよ」
「連れて帰るかどうかは、マリア様が見て判断されるのが良いかと思います」
「ありがとうございます。そうさせていただきます」




