047 悪役令嬢マリア、薬を見つける
近衛兵団の反乱というあってはならないことが、起こったため、王宮の警護はクレール家がすることになってしまった。ただでさえ、大貴族から妬まれているため、さらにクレール家への風当たりは強くなる。だからと言って王弟派クーデターがまだ収まりきっていないのに、クレール以外の兵士を入れることはできない。
先代国王陛下と前のクレール家当主の先を見通す目にはびっくりしてしまう。て言うか、近衛兵団が腐敗しているのを知っていたのではと勘繰ってしまう。
◇
近衛兵団長の執務室に入った際に、ローマ共和国で嗅いだ匂い、カレーの匂いに引かれて、近衛兵団長の隠し部屋を私は見つけてしまった。もしかしたら、作って二日目のカレーが鍋にあるかもって期待して、グラントが隠し部屋の鍵を開けるのを待っている。
グラントの家の家紋は鍵、グラントの家は代々鍵関係の仕事を家業にしていた。クレール家と同様に諜報部門の家柄だったりする。
近衛兵団長の隠し部屋の扉が開いた。私は警戒しつつカレーを探した。残念ながら、すべて食べられていた。ガッカリだよ。カレー皿の近くに白い粉が入った瓶が無造作に置いてあった。
トッピングでカレーに粉は入れないよね。
「グラント、この白い粉は何かしら? 調味料?」
グラントが試薬に少量その白い粉を入れると、透明だった試薬が青色に染まった。
「ヒ素が混じっている。ただ、致死量以下だ」
ふむ、カレーにヒ素を入れると味が変わるのだろうか? あっ、昔日本で大事件があったのを思い出して怖くなった。
グラントが白い手袋をして、ヒ素が混じった白い粉をカバンに入れた。
「参謀本部の錬金術室で調べてみるね」
近衛兵団長の隠し部屋から、魔法を無効化するマジックキャンセルの設計図出てきた。設計図には動かす装置の図面がなくて実際には動かない。
「中途半端な設計図だけど、外部に流出しなくて良かった」
「グラント、そうかしら? 兵団長にはローマから色々な資料が渡されているわ。核爆弾の購入見積りって書類を見つけたわ」
アメリーが見つけた見積り書には小型核爆弾、ダイヤモンド百個などと書かれていた。
「伯爵家以外にも、ローマに通じる通路があるのかもしれない」アメリーとグラントが見つめ合っていた。
◇
その甘いムードをぶち壊したのはハインリヒ王子だった。兵団長の執務室に飛び込んで来た。「玉璽王の印鑑を紛失した」
「玉璽がなくなったのでしたら、新しく作ればよろしいのでは?」と私。
「新しい玉璽を定める時に古い玉璽が必要だ」
「法令も勅令も発布出来ない。それどころか偽勅すら発布出来るし、外国と国交も開ける!」
「どこが玉璽の管理されていたのでしょうか?」と私。
「尚書省だ。近衛兵団に一番に襲われて生き残った者はいない」
伯爵家も王宮内の騒乱も陽動で、初めから玉璽が狙いだったのか。
「近衛兵団長たちの行き先は? ハインリヒ王子」とグラント。
「西に向かって数頭の馬が走るのを見た者がいる。しかし、騎士だったかどうかはわからない」
「陽動の可能性も。実は兵団長は王都にいたとかだと笑えない」とハインリヒ王子、もう死にそうな顔になっている。
「ハインリヒ王子、王都にはいないかと愚考します。王都には、王都を一瞬で焼き尽くす爆弾が仕掛けられている可能性が最悪ございます」とグラント。
「そうなのか。 ハルトムート肩を貸せ、私はその話を聞くには疲れすぎている。一度部屋に戻って寝る」
そう言うとハインリヒ王子は兵団長の執務室を出て行った。相当なショックだったようで、足元がふらついている。
身内と言っても良い、近衛兵団長に裏切られ、その上、王都に爆弾ってさすがに堪たえたのだろう。
◇
「グラント、これからどうするの? 手がかりは西に向かった人がいるってことだけ」
「マリアが西の草原に向かう。そしてその連中を人海戦術で探して、捕まえるしかないと思う」
私は西に行くと、下手をすると遊牧の民の族長の妻になる可能性があるのだけれど。知っててグラントは言っているよね。まあ、断頭台に行かなくても良いので、バッドエンドは回避したから、それはそれで良いのか? 私はもう日本には戻れないし……。
「グラント、王都を一瞬で焼き尽くす爆弾って言ってたけど?」とアメリーが尋ねた。
「伯爵家の離れかオルゴールくらいの大きさの箱が見つかった。マリアの爆裂魔法で上半分は壊れていたけど、その下の装置、オルゴールを動かす動力源は壊れていなかった。これが動力源」
はて、これって小さな原子炉の模型かしら。
「参謀本部で調べたら、中に小さな太陽がは入っているのがわかった。間違いなく王家の厨房にはこれより大きな装置がある」
そうか、私って原子炉を爆破しよとしたのか。良かった壊れなくて……。
「どうしたのマリア、顔がひきついっているわよ」
「アメリー、私、危ないことをしたと思って、もっと慎重にしないとって思ったわけ」
「マリア、爆裂魔法程度ではこの下の部分は壊せないと思うよ。問題は中から爆発した場合、この程度の箱が爆発しても、王都の半分は消えてなくなるだろうと参謀本部では考えている。これはまだ国王陛下にも報告はしていないけど」
「近衛兵団は、王国内フリーパスだったから、国中この箱を仕掛け放題だった」とグラントが暗い表情で言う。
「マリア、西の草原に行くよね」
「もちろん、グラントもアメリーも一緒よね」
「間違いなく、ハインリヒ王子も一緒。こんな時に不謹慎なんだけど、僕たちとしてはなんとか二人が仲良くなってほしいと願っている」
「お友だちとしてなら……」
「マリア、あなたは婚約者なのよ!」
「アメリー、前国王陛下と前のクレール家当主が何を決めようが、最後に決めるのは私なの」
「……」
「マリアは別の世界の人なんだよ。アメリー」




