046 悪役令嬢マリア、近衛兵団と戦う
私たちはハルトムートをクレール家に運び込み、母上に近衛兵団に謀反の可能性ありと報告した。
「あなた、出陣ですわよ。相手は近衛兵団ですって」
「近衛が謀叛とは……、国王陛下はご無事か? 下手をするとクレール家が国賊になってしまう」
「あなた、怖気付いたのでしたら、私が出陣しましてよ」
「お前は魔獣討伐で出陣したではないか!」
「ハインリヒ王子が、その手勢を率いて王宮に入られました」
「一刻の猶予もない。ジョーダン、三十分だ。三十分で集められる騎士を集めて王宮に入るぞ」
「承知いたしました。旦那様」
「マリア、私に代わって、私の騎士五十人を任せます。すぐに王宮に行きなさい」
「近衛であっても邪魔する者は処分しなさい!」
「母上、承知いたしました」
◇
ただ今、王門の前で押し問答中。クレール家「王命によって王宮に入る」兵士たち「そのような命令は受けていない」これって日常的に行われる定番のやり取りで兵士もクレールの騎士も毎回ウンザリしている。
こうした騒ぎの結果は、ここで律儀に王門を警護している兵士たちが聞いていなかったことにされて、王門の兵士がクビにされる。
兵士たちもそれを知っているから、止めないから押し通ってほしいという態度になる。これだと一般の兵士が貴族の騎士の横暴に巻き込まれたってことになって減俸で済むから。
「フス、ゲルト、任務ご苦労!」
「隊長、クレールに再就職ですか? 上手くやりましたね」
名前は忘れたけど、この母上直属の騎士は王門の兵士の元隊長だったみたい。
「フス、ゲルト、横暴な貴族が押し通る。もしクビになったら、俺が、お前たちにその気があるならクレール家への仕官を、口添えしてやる」
「隊長、了解です。口添えお願いします。最近おかしいことばかりでなんでウンザリだったんですよ。朝の命令が昼には撤回されて、同じ命令が夜に出されて、もうめちゃくちゃです」
「姫様、行きますよ」と横暴な貴族が鼻歌を歌いながら、警備の兵士たちが手を振るという、シュールな光景を見ながら私たちは王城に入った。
◇
王城内は静かだ。どこからかノイズが聞こえる。王城内にもマジックキャンセルが持ち込まれている。
「クレール家の騎士に告げる。ここでは魔法が使えない。正確には敵は使えるが、私たちは使えない。防御に徹せよ!」
「姫様、耳障りな音が厨房の方向から聞こえます。人も何人かいるようですな」と元隊長さんが教えてくれた。
「厨房に向かいます。全員下馬」馬に乗ったままだど良い的にしかならないから。
「馬たちには、王城の珍しい花でも食べさせておきなさい」伯爵家でもそうだったが敵は音を出さない。
「二人一組。王城内の者に決して背後をとらせるな」
「姫様は母上そっくりですな」あんまり嬉しくないんだけど。元隊長さん。
ファイアボルトを撃たれた。「まさか、飾りで持っていた盾を使うとは、出掛ける時には忘れずにてか」
クレールの騎士は自信過剰なのが玉に瑕だ。ていうか母上直属の部下だから全員天狗さんなんだけど。クレール家の精鋭の中の精鋭部隊だもの。
飾りの盾が一発のファイアボルトを弾いただけでけっこう歪んでいる。相手は強い。やはり近衛兵団が相手か?
◇
厨房の近くに来た。もううるさいくらいのノイズが発せられている。元隊長さんが厨房の扉を蹴破ると、近衛の兵士が斬り掛かってきた。
勝負は一瞬で、近衛の兵士は太腿を斬られて転がっている。早く止血しないと助からないけれど、今はそんな場合ではない。
「もう、騒音の原因はどこよ! うるさすぎてどこかわからない」
「姫様、厨房の者は逃しましたけど……」と隊長さんが涼しい顔で言ってくれる。近衛の兵士も両手両足を縛られて廊下に転がされていた。
はあ、この騒音の中で爆裂魔法を撃てって言うこと。知らないよ。厨房どころかその周辺も破壊するけど。
私たちは、柱の陰に隠れて二発分の爆裂魔法を厨房に落とした。騒音が消えた。厨房も消えた。色々なものが壊れた。これって全部近衛兵団が悪いのだから。修理費は近衛兵団に請求してほしい。
「これで私たちも魔法が使えます。抵抗する者には容赦する必要はありません。反逆者ですから」
クレール家騎士団の士気が一気に盛り上がった。盛り上がり過ぎた。近衛兵団がなくなってしまうかもの勢いで近衛兵を屠って行く。
父上の部隊もまったく容赦なしで、一気に玉座の間に突入し、近衛兵士と戦っていた、国王陛下と王妃様とハインリヒ王子とその手勢を救出していた。
近衛兵団長とその部下数人が逃亡する。牢に入れられていた伯爵は殺されていた。口封じされる。




