043 悪役令嬢マリア、 ネルーさんに救出される
「地震だ」と思って窓の外を見たら迎賓館の前を美女が歩いていた。多くの人が振り返る。私は思わず窓から体を出して手を振った。ネルーさんは、私を見てニッコリ笑ってくれた。
で、気付くとネルーさんが私の横の立っていた。
「ネルーさん、ここで魔法が使えるのですか?」
「少し、妨害はされるけど、支障はないわよ」
「私たちは早く王国に帰国したいのですが、魔法を封じられて動けないのです」
「そうなんだ。あの人は元気かしら?」
「ええ、元気ですよ。毎日、歌ってます」
「そうよね、やっと婚礼の儀式が出来るのですから……、当然よね」とネルーさんが涙ぐんでいた。真実は話してはいけないと、私は固く心に誓った。世界の平和と安全のためにだ。
◇
私の部屋にネルーさんを案内した。部屋の中ではガンダルフがいつものように鼻歌を機嫌良く歌っていた。
「ガンダルフ、迎えに来てあげたわよ! 魔法が使えない世界って大変よね。私が助けてあげるわね」
「ネルー、来てたのか? こういう状態なので迎えにも行けず連絡も出来なくてごめん」さすがは、長いこと生きてきた元人間だけのことはある。
「良いのよ。こうして会えたのですもの。私がいないと本当にあなたはダメなんだから」
ネルーさんってダメンズ好きだったのか。
◇
「ネルーさん、この国からどうやって脱出したら良いのでしょうか?」
「この部屋に皆んなを集めて」
「私は、アメリー、グラントを私の部屋に呼んだ」
アメリーはネルーさんを見てホッとしたようだった。
ガンダルフは婚約者のネルーさんがしっかりと握っている。ガンダルフが苦しそうに見えたけど、気のせいに違いない。
「では皆さん、おのおの手を繋いでマリアとグラントは私の手をしっかり掴んでね。全員目を閉じて。地面が大きく振動しますけど、驚かないで、絶対に目を開けないこと。良いわね」
「用意は出来た?」
「はい!」
「では、出発します」地面が大揺れしたけど、すぐに収まった。
「はい、皆んな、目を開けて良いわよ」そこは伯爵家の隠し部屋だった。
アメリーがすぐに、書棚から伯爵の日記を取り出して、机の上に置いた。すっと通路は消えた。
グラントと私が直ぐに結界を張った。侵入者があれば感知出来るようにしておく。
「マリア、ガンダルフは婚礼の儀式の用意をしないといけないから、私の国に連れて行くね」
「どうぞ、どうぞ。ガンダルフに晴れ着を着せてあげてください」
「儀式の日には、マリア、アメリー、グラントの三人は必ず出席してね。マリアには新郎の友人代表で祝辞を読んでもらうから、絶対に出席すること。祝辞の原稿はこちらで用意しておくから安心して」そう言うとガンダルフを握りしめてネルーさんは行ってしまった。
◇
「グラント、アメリー、悪いけどこれから王宮に行かないと。薬物の件と信じてはもらえないと思うけど、魔法を無効化出来るローマ共和国のことを国王陛下に報告しないといけないから」
「マリア、魔法の無効化については黙っておいた方が良いよ……」
「どうして、緊急事態だと思うけど、グラント」
「参謀本部で検討してから、ハインリヒ王子から国王陛下に報告したい。最重要の国家機密だから」
「グラントがそう言うなら、薬物の件だけ報告することにするわ」
◇
王宮に入った。私たちが伯爵家の捜査に入って、行方不明になっていたため、再度捜査をしていた近衛兵団に保護される形で、王宮に連れて行かれた。神隠しにあったことにされていたので、その話に乗ることにした。
「国王陛下、ご心配をおかけして申し訳ございません。伯爵家で隠し部屋を見つけ、結界を解いたところ魔界に飛ばされました」
「伯爵は、魔界の小鬼に宝石を与えて、魔界で採れる薬草を手に入れていたようです」
「残念ながら、証拠はございません。ただ、その薬草から出来る薬は厄介なもののようで、ございます」
「厄介とは、依存性が高いことと、服用を続けると理性を失うようでございます。詳細は伯爵に尋ねられると良いかと思います」
「その方たち、どのように戻って来たのか?」
「突然飛ばされ、何かのはずみでまた飛ばされて戻って来ました。伯爵家の隠し部屋は極めて危険だと思われます」
「私たちが戻って来れたのはただ運が良かっただけだと思います」
「伯爵家には魔界への入口があったのか。伯爵に問いただすことにしよう。ご苦労であった。ゆっくり休むが良い」
「ありがとうございます。国王陛下」
◇
グラントは休むことなく、参謀本部に行ってしまった。
アメリーは「少しは休めば良いのに」とグラントの体を気遣っていた。良い感じだね。私もハインリヒ王子以外と恋がしたい。エルフの長老さんがタイプなんだけどなあ。王国にはいないよね。




