004 悪役令嬢マリア、文芸部を創部する
アメリーを守れなかったことをハインリヒ王子にグチグチ言ったお陰で、生徒会から推薦が出て、学校側もしぶしぶ文芸部を認めた。
アメリーにはハインリヒのお付きが警戒にあたることになったので、とりあえず、学校内ではあからさまなイジメを受けなくて済むはず。
Aクラス内ではハインリヒ王子とアメリーが付き合っている。身分差を考えろなどの噂が流れ始めた。早く、ハインリヒ王子に私との婚約を破棄してもらわないと、私は断頭台に行ってしまう。急がないとダメだ。
文芸部を創部して、私は王道恋愛小説を書いている。グラントは勇者ものは片手間で、未来小説に集中している。アメリーは、私と同じ恋愛小説が好きなのかと思っていたのだけど、英雄譚大好き少女だった。
「アメリー、英雄が活躍する物語が好きだとは思わなかったわ」
「私の祖父は辺境で異民族と戦って、我が家はその功績で騎士から貴族に上がりましたから、祖父は私に毎晩、辺境での戦いの様子を語ってくれました」
「アメリーはおじいちゃん子ってわけね」
「そうかもしれません。両親は嫌がっていましたけど……、祖父に文句を言うことはしませんでした。私は祖父が話した物語を残したいと思っています」
「マリア、どうかされましたか?」
「うん、感動しちゃった。そう言う気持ちで書いた物語は人を感動させるのよ」
「私は、ただ祖父が話した物語を書き残したいだけなんですけど……」
◇
「マリア、文芸部とやらの活動はどうだ。学校としても生徒会としても問題児のマリアがやることなので、注目している」
ハインリヒ王子がなんだかんだ理由を付けて、部室にやってくるのは迷惑なんだけど。私のことをはっきりと問題児って言うし、グラントとアメリーが下を向いてクスクス笑っているじゃないか。
「ハインリヒ王子、物語を書いているだけですわ。後は物語を書くのに必要な資料を学校の図書館で調べてという、本当に地味な部活なので、問題など起きるはずがありません!」
「マリア、グラントとアメリーには問題がないのは私たちも理解している。問題なのはお前だ!」
「アメリーを物置小屋に監禁した実行犯は、謹慎処分にした。しかし、首謀者は今度はマリア、お前を狙っている」
「ハインリヒ王子、私と関わると碌なことにはならないと思いますので、婚約を破棄されてはいかがでしょうか?」
「私の父上ですら、お前は問題が多い。クレール家としてはハインリヒ王子と私との婚約をなかったことにして、クレール家の分家の娘、オリティアとの婚約にしたい、と言っておりました。先代国王陛下とクレール家の先代当主との約束は、本家の孫娘と婚約させるとまでは言われていないので、問題ないと聞いております」
「そのことは聞いている。しかし国王陛下は、クレール家の分家ではなく本家とのよしみを深めたいと考えている。それゆえ今、その話は保留にしている」
「ハインリヒ王子は、私にお妃の勤めがつとまると思っておられますか?」
「無理だと思う。お前は完全に貴族の常識を捨てているからな」
「第一お前は知らないことが多すぎる。物語の資料を集める前に、今の政治状況を調べろ!」
「興味がありません」
ハインリヒは頭を抱えて、お付きの従者と一緒に部室を出て行った。アメリーに会いに来たのなら、私にどうたらこうたら言わずに、お前の祖父の物語は面白いなあとか、言えば良いのに。ゲームではアメリーの書いた物語をハインリヒ王子はいつも絶賛していたのだから。
「マリア」
「何かしらグラント」
「ハインリヒ王子がおっしゃったこと、マリアは素直に聞いた方が良い。王家は今、揺らいでいる」
「グラント、王家は磐石よ。戦争も紛争もここ三十年起こっていないのですもの。王家の剣たるクレール家の出番が皆無なので、父上なんて三十年早く生まれたかったといつも愚痴っているわよ」
「マリア」
「何かしらアメリー」
「グラントのおっしゃる通りです。一度調べてみてください。色々不穏な噂が私にまで聞こえてきています」
「マリアの悪い癖だよ。興味のないことは右から左に聞き流すのはね」
二人からそう言われるとそうかもしれない。ゲームでも国王陛下の異母弟が王権を簒奪しようとするサイドストーリーであったような。その結果、異母弟が失脚するまで、王子は私との婚約が破棄出来なかった気がする。ゲームではマリアは王権簒奪にはほとんど絡んでいなかったのだけれど、処刑理由の一つに王権簒奪者の一味ってあったような……。
王権簒奪の物語はマリアが絡まないのでオートで進行していたから、覚えてない。これはマズいよ。