038 悪役令嬢マリア、小鬼の後を追う
「ほんじゃあ、マリア、俺たちを小さくして、小鬼の後を追うことにしようや」
ガンダルフ、あなたはただ結婚式に出たくないだけで、私たちを危険に晒そうとしているのでは?
「ガンダルフ、小屋の周辺の調査がまだ済んでいないし」
「連中に通路を塞がれる前に行く方が良いぜ。あの連中の親玉がこの先に絶対にいるはずだ」
「伯爵家が小鬼と関係していたのがわかっただけで十分だと思うのだけど」
「マリア、小鬼と伯爵家との関係は未だ不明だと言える。直接繋がっているかどうかがまだわかっていない。追えるものなら、小鬼を追いたい」
グラント、あなたはただアメリーに良いところを見せたいだけでは。アメリーの瞳がキラキラしてるし。
「わかりましたよ。でも、私が危ないって感じたら即座に撤退だからね!」
私は皆んなを小鬼程度の身長に変えた。小鬼たちが逃げ出した通路に入った。入った瞬間、これはヤバいよって感じがした。
なぜなら、小鬼の臭いが四十過ぎのオジさんの加齢臭そのものだ。小屋に散乱していた人骨は幼い少女のものだったことを合わせて考えると、明らかに、フェミ系の人たちに敵認定されているオッサンの集団がこの先にいる。
◇
薄暗い通路を抜けるとそこは荒涼とした大地だった。赤い土、石ころだらけの地面。草も生えないってこう言う風景を言うのだろうか?
風は強く砂ぼこりが舞い上がる。何もない。空には赤い月と緑の月が出ていた。夜なのだろうか? 殺伐とした風景を眺めながら、周囲、どこを見ても同じ景色にしか見えない。
「ガンダルフ、引き返した方が良いと思うよ。ここにはどこにも道がない」
「足跡ならたくさんあるじゃないか!」
小鬼が一定の方向に向けて逃げた痕が残っている。この先には加齢臭の小鬼の集団しかいないと思うのだけど、行ったところで、下卑た視線で見つめられて、私やアメリーに襲ってくる未来しか見えないのだが。
私は、伯爵家の隠し部屋を完全に封印すれば事足りると思うのだ。男の子たちってどうして冒険好きなんだろう。
◇
「マリア、残念だが、向こうからお出迎えのようだ。ほら土煙が見えるだろう」
しかしだ、どう見ても緑の小鬼ではなく、人間のしかも中年のイヤらしい目をしたオッサン軍団が土煙を上げながら、こっちに向かって走ってくる。オッサンの中にはヨダレを垂らしながら走っているのもいた。
寒気がした。
アメリーは剣を抜いた。グラントも剣を抜いた。魔獣退治以後二人の呼吸はピッタリで二人で一人のごとく剣を振るうようになっている。
グラントってこんなに強かったけ? 百パーセント文化系だと思っていたのだけど。
「マリア、数が多い。少し減らせ! 敵後方に爆裂魔法」
ガンダルフは楽しそうに私に命じた。どうして敵後方なんだろう? 敵中央部ならもっと減らせれると思うのだけど。
敵後方に爆裂魔法を落とした。集団はやや怯んだように見えたけれど、そのまま私たちに突貫してきた。その数不明。アメリーとグラントは二人で一組で戦う。私は多重シールドに守られながら、アメリーとグラントの支援を行った。二人が疲れれば、いつものように、二人は私のシールドの中で休息をとる。
不思議なことに、小屋で私のシールドを貫いた槍が一本も降って来ない。なぜだろう?
オッサンの集団は私たちに、何度も襲いかかってきたけれど、私たちをどうにも出来ないので、ついに中年のオッサンたちは、諦めたようで元来た方向に戻って行った。
私たちは、オッサンたちが撤退した方向に歩いて行った。私が爆裂魔法を落としたとろに、原型を保っているオッサンたちの死体が残っていた。ファンタジー小説で魔法使いが持っているオークの木の杖を握ったまま死んでいた。
「緑の小鬼を追いかけてみたら、人間が襲いかかってきた。どう言うことだ?」とグラントがつぶやいている。
ラノベだとここは魔王に統治された国だってことになっていて、魔王に従う小鬼部隊と人間の部隊がいる設定にしている。で、ここで魔王四天王とかが現れてちゃんとしたバトルシーンに持って行く展開が多いのだけど……。
来た来た。鳥型の魔人がこっちに向かって飛んで来ている。
「お前たちは勇者パーティか?」
テンプレの呼び掛けありがとうございます。
グラントがチラッとアメリーを見て「ああ、私たちは勇者パーティとやらだ。それがどうしたのか?」
ここから、「お前たちの旅はここで終わりだ」って鳥型魔人が言ってバトルシーンに繋げる。
「そうか、ならば私の後に付いて来るが良い。大統領と謁見させてやる」
はて、テンプレを外された。この鳥型魔人って伝令だったのだろうか? 大統領ってこの世界って民主主義国家なの?
展開としては、魔王プラス魔王四天王プラス、雑魚という集団戦の展開になるはずがどうなるのか……。
◇
鳥型魔人が飛んでいる方向に進むと、工場が出現した。これって明らかに製鉄所だと思う。クズ鉄の山があちこちに置いてある。
ここで作業している人たちってさっき私たちを襲って来た人たちに見える。今はひたすら、仕事をしていて私たちに注意を向ける人たちはいない。オークの杖を持っている人たちは管理職のようで、労働者の皆さんにあれこれ指示している。言葉は英語だと思う。
ここって一体どこなんだろう?




