037 悪役令嬢マリア、伯爵家を調査する
私はアメリーとグラントと三人で、今回の騒動の原因を作った伯爵家を調査している。
ハインリヒ王子は、王妃様の元で、何かの修行をしているらしい。学校であったら、王子から「ご機嫌よう」って挨拶をされた。それも笑顔でだ。気持ち悪い。
ガンダルフは日に日に元気がなくなり、口数も少なくなって、マリッジブルー? 時々ブツブツ言うので、こちらも気持ちが悪い。
◇
伯爵の屋敷内には私たちしかいない。伯爵他その臣下及び使用人は一ヶ所に集められて、国王陛下の監視下に置かれている。
伯爵家から王宮に上がった妃は離宮内を隈なく探したけれど、見つからなかった。ルーメンが魔法陣から現れた際、魔法陣の周囲は瞬間的に核融合反応を起こしたとガンダルフは言う。そうだとすると伯爵令嬢は一瞬で消滅しているよね。太陽がすぐそこに現れたのだから。
さて、伯爵家の探索だけど、国王陛下直轄の近衛兵団も隈なく捜査したのだけど、何も出て来なかった。素人の私たちが探索したとしても、結果は変わらないと思うのだけど……。
グラントが、伯爵の部屋で隠し部屋を見つけた。書棚のロックを外すと動く仕掛けになっていた。隠し部屋には、伯爵の日記があったきりでとくに変わったものはなかった。
日記にはひたすら、自分の不運を嘆く文章が書かれていた。ただ日記の背表紙に奇妙な文章が刻まれていた。
「漆黒のとばりを、開けば、そこには、我が願いを叶えたる者がいる」と刻まれていた。
「漆黒のとばりねえ、ここに漆黒のとばりらしきものはないけれど……」
アメリーが腰に帯びた剣を抜き、伯爵の日記を手に持って、隠し部屋にもあった書棚にその日記を入れると、結界が解けて、別の部屋が書棚の向こう側に見えた。
「ここから先は、別の世界のように感じます。かなり危険だと思います」
「アメリーの言う通り、この先の部屋は異世界だ」とガンダルフが言う。
私には、四角い空間があってその先は暗黒が続いているようにしか見えない。どう見ても入口だ。そこに入った瞬間、その暗黒の世界で迷子になりそうだ。二度とこっちの世界に戻って来れないかもしれない。
「アメリー、行こうか。 ここに居てもこれ以上何も出てきそうにないし」
「ええ」とアメリーがあっさり頷く。
いやいや、危ないでしょう! 簡単に中に入って良いの!
「マリア、俺たちも行くぜ! 冒険の始まりだ。イッツ ザー ショータイムだ」
「はあ、行くのね」ガンダルフはこのまま結婚式から逃げる気が満々だけど。グラントが先頭、次にアメリー、そして私に私に背負われたガンダルフがおそらく異次元の入口に足を踏み入れた。
そこはただ漆黒の闇が延々と続く世界だった。まったく見えないけれど、下に落っこちることもない。ただ真っ暗な中を歩く。
魔法でグラントが灯りを灯した。なんかアニメの魔界ぽいというか、黒い岩と植物の様な動物かよくわからない生物、餌が多い方にゆっくりと移動している植物みたいなのがいた。
昆虫はよく見る昆虫だと思う。脚の数が八本だったり十本だったりするけど。蝶々は蝶々の姿をしているけれど、別の昆虫を頭から食べているし。気持ち悪い。
「ガンダルフ、ここはどこかしら?」
「異世界」
「ガンダルフ、私たち、ここで何をするのかしら?」
「伯爵家の秘密を探す」
あっさりとした答えをありがとう。
伯爵家はこうした異世界の植物と昆虫を利用して、政敵を葬ってきたのだろうか? あるいは異世界の珍しい生物を闇で売っていたのかもしれない。
◇
「小屋がある」とグラントが私たちに注意を呼びかけた。
「マリア、俺を鞘から出せ。マリアと俺で中の連中を制圧する」
小屋には灯りが灯っていないし、中に連中とやらがいるとも限らないと思うのだけどね。戦力としてはアメリーが一番だ。でも偵察任務だと私になるのか」
小屋の入口をそっと開けた。鍵はかかっていなかった。中を覗くと、緑の小人が多数いた。彼らは明らかに戦闘態勢に入っている。
槍? がシールドに突き刺さっている。見た目以上に強力な魔力を持っている。ガンダルフが「マリア、俺に魔力を注げ、注いだら横に薙ぎ払え!」
私は言われた通りにした。ゲヘナの炎が小屋の中で燃え広がる。緑色の小人にも燃え移った。緑色の小人が脱出口から逃げ始めた。
グラントとアメリーに中に入っても大丈夫だよって声をかけた。まだゲヘナの炎が燃えてはいるけれど。
小屋の中は人骨が散乱していた。女の子たちが好きそうな髪飾りとかリボンとか、櫛とかも落ちていた。
「伯爵家はコイツらに生け贄を捧げていたみたいだ。さっきの小鬼が伯爵の望みを叶えていたのかも」とグラントが推測をアメリーに話していた。
私にしたら小鬼、ゴブリンってイメージではなく、B級映画に出てくる火星人に見えたのだけど。まあ、こっちの世界では小鬼と呼ぶみたいなので、私も小鬼と呼ぼう。




