036 悪役令嬢マリア、ハインリヒ王子がアメリーにプロポーズをするのを見る
きっちり三日後、アメリーとグラントが疲れた表情で王宮に戻ってきた。ハインリヒ王子は猛烈に不機嫌風を吹かせている。お供のハルトムートの表情は暗い。
王都内で戦えるのはハインリヒ王子の聖剣とアメリーの聖剣だけだったから、この表情は当然かも。
◇
「もう一度言う、アメリー、お前を私の妃にする。マリアは王妃にはなりたくないそうだ。お前さえその気があれば、王妃にする」
やっと物語がゲーム通りになったよ。
「ハインリヒ王子、私はグラントの妻になって辺境の地を統治します」
「グラント、お前からも何とか言え!」
「私はアメリーの夫以外になるつもりはありません。ハインリヒ王子諦めてください」
「マリア、お前は私の妻になる気はあるのか?」
「まったくありません。ハインリヒ王子にはシャルロッテ様がお似合いです」
「ハルトムート、倒れそうだ。部屋まで連れて行ってくれ」
「王子、私の肩におつかまりください」
「なぜ、俺はこんなにモテ無いのか?」
優しくないから、俺様風が強いから。それと女の頭をはたくDV男だから。
「グラント、ハインリヒ王子はどうしちゃったの?」
「ハインリヒ王子がアメリーの実力を知ったから。学校の実技では、先生方から、アメリーの両親からも模擬戦では、決して本気を出してはいけないとアメリーは言われていたんだ。それが今回の事件でアメリーの腕前が王子にバレた」
「ハインリヒ王子は、剣技で遥か高みにいるアメリーに憧れて、それが恋に変わったみたい」
「私の背中を預ける方はグラントだけです。戦闘中にワーワー言う面倒な人ではありません」
アメリー、玉座に国王陛下と王妃様がいるのだけれど。ヤバいよ。
「なあ、王妃、私たちはハインリヒの育て方を間違ったのだろうか?」
「単純に国王陛下に似ただけだと思いますけど。ハインリヒはあなたそっくりですから!」
「……、皆の者大義であった。王妃、少々別室でお話ししようか」
「ええ、今日こそはきちんと私の話を聞いてもらいますから。逃げるのは許しませんよ!」
国王陛下と王妃様は別室に向かわられた。こちらも大変そうだ。
やっぱり王妃はシャルロッテだね。王妃様とそっくりだし。でも、アメリーとハインリヒとグラントの三角関係はマズイ気がする。
「マリア」
「はい、アメリーさん、何でしょうか?」私はシャッキと直立不動の姿勢をとった。
「どうして、とっととハインリヒ王子と結婚なさらないのですか?」
「好きなタイプじゃないし、明らかに子どもポイし、私はもっと大人の男性が好きなので……、無理です」
グラントが頭を抱えている。なぜだろう! アメリーは唖然としている。どうして?
「はあ、魔獣や屍人退治よりこれは大変かもだね。アメリー」
「そうね、ここまではっきり言われたら、ハインリヒ王子に諦めてもらうしかないと思うわ」
◇
国王陛下と王妃様が下がられた後、にこやかな表情で母上が私の側にやって来て、母上に、両腕を拘束されたまま、私は控えの間に連行された。それからキッカリ二時間、私は前国王陛下と先代クレール家当主との盟約をリフレインで聞かされた。完璧に暗記出来た。
アメリーとグラントが言うには、ハインリヒ王子は私のことが大好きらしい。王子がリラックス出来るのは、私とアメリーとグラントとハルトムートの四人だけで、国王陛下がいても王妃様がいてもまったく寛げないらしい。
国王陛下と王妃様とハインリヒ王子は家族なんだから、寛げないと言うのはいかがなものかと思うけれど、王室だと当たり前らしい。クレール家は、貴族社会では極めて特殊な家だと言われた。
私としては、日本でもありがちなかかあ天下の家だと思っていたのだけど。他家は違うらしい。私は貴族の常識が欠落しているので、ものの見方が日本基準だったりする。
「マリア、自由が良いよな。いつも旅の空でさ……」
「なあ、マリア、俺たちは一心同体だよな。旅に出ようよ。魔力感知されない方法を教えてやるから! ネルーに見つからないように、異次元でも、お前が元いた日本ってとこにも行けるぜ」
「ガンダルフさん、この世界を滅ぼしたいの! 何だったらエルフの村に行ってイケメン長老に封印してもらっても良いのよ」
「俺は自由に暮らしたいだけなんだ。ネルーは普通のドラゴンではない。姫様なんだぜ。毎日が公務でその夫は常にネルーの側にいないといけないんだぜ」
「ガンダルフさん、頑張ってお仕事してくださいね」
「……」




