033 悪役令嬢マリア、シャルロッテが毒舌家だったことを知る
「私って、侍女とか侍従がいないと髪もすけないし、食事も出来ないのよ。魔法が使えても食事さえ出来ないの。これでお水も出せなければ、最低よね」
「シャルロッテ、どうしてあなたの離宮の人たちは石像化しているの?」
「誰が傀儡にされた者がわからないから。とりあえず全員、石像にしてみたの」
「シャルロッテとやら、マリオネットのことを知っていたのか?」
「マリオネット、傀儡って言う意味ね。東方の魔法に傀儡の邪法があるのを、ウチの秘蔵本で読んだことがあって、まさか実際に見られるとは思わなかったわ」
「マリア、非常食をちょうだい。ここ四日食べてないのよ。私って生活能力ゼロだから、王国が滅びずに、もし平和になったらお料理とか洗濯とか自分で出来るようになろうって心に決めたの」
私は、非常食をパクつきながら話すシャルロッテを見るとは思わなかった。
◇
「マリア、あなた、私があの悪魔を呼び出したって思っているでしょう!」
「違うからね。呼び出したのはお隣の伯爵の娘で何という名前だったかしら、忘れたわ。その娘だからね。夜、一度もハインリヒ王子が訪ねて来ないので、つい悪魔に頼ったみたいなの」
「誰が悪いかと言ったら、妃にしたくせに、通わなかったハインリヒが悪いのだから」
「だから、勘違いしないように侍女にしておけば良かったのに、そうは思わないマリア」
「王族に仕える貴族の娘って普通のことじゃないのかな、ねえマリア?」
「公爵家とか伯爵家の娘が侍女ってという前例はなかったから……」
「前例通りやったら悪魔が出て来て、王国滅亡の危機って王族の方って馬鹿なのかしら?」
「……」
シャルロッテは本物の毒舌家だった。この後もさらに王族をボロクソにくさしたのだった。
◇
「マリア、お願いお隣をどうにかしてちょうだい。屍人がウロウロして落ち着かないのよ、結界もよく持って、あと一日かな」
「シャルロッテは今回の事件には関係ないのね。信じて良いのね」
「私も悪魔が利用出来るなんて思わないわよ。お隣の伯爵家は先祖代々ちょくちょく悪魔のお世話になっていたらしいけどね」
「王都が悪魔に占領されなければ、調べてみたら、物語のネタに絶対なるから」
「シャルロッテ、ありがとう」私は笑顔になっていた。小説のネタになるのなら調べないと。
「チョロイ」ってネルーさんが言ったような気がする。
◇
伯爵家から名目上妃で王宮に入った令嬢の離宮に入った途端、襲われた。屍人だらけだ。なぜかネルーさんにも襲い掛かっているけど……。
「ネルーがワザと人間の気配を出している」
ネルーさんに触れた屍人は一瞬で蒸発している。
「ドラゴンは体温が高いから」
ガンダルフ、そう言う問題なんですか?
無敵のネルーさんのお陰で屍人の数が激減した。私もガンダルフも楽をさせてもらった。
◇
妃の部屋の中央に魔法陣が、血で描かれていた。
「よくこんな不完全な魔法陣がで悪魔を呼び出そうとしたものだ」とガンダルフが言う。
「ここと、ここは不要だし、記号は間違えているし、この程度の魔法陣で召喚されるとしたら、おバカな悪魔か低級な悪魔しか召喚出来ないはず……」
「ガンダルフ」と呼ぶとネルーさんが睨むので、「ガンダルフさん、この魔法陣でルーメンが召喚されたの?」
「いや、ルーメンが自分の意思でこの魔法陣を利用してこの世界に現れた。理由は本人に尋ねないとわからない」
ネルーさんが目を逸らしたような。
「マリア、そろそろ、私の婚約者を私に返してくれないかしら。屍人も大半片付けたし、あなたにはドラゴンの爪製の短剣を渡すから、それで屍人を突けばドラゴンのブレスが一瞬屍人の体内を駆け巡るから」
私はなぜか抵抗をするガンダルフを無理矢理、私の手から離して、ネルーさんに渡した。
「マリア……、我が弟子よ……」
ガンダルフが、なんか恨み言を言いそうなので、そそくさと、私は伯爵家の妃の離宮を後にした。ネルーさんがガンダルフに頬ずりをしているのがチラッと見えた。とても幸せそうに見えた。良かった。
◇
玉座の間にて、私たちは立ったまま国王陛下が玉座の間に出て来られるのを待っている。これは異例中の異例で前例がない。まあ、ドラゴンの姫君のネルーさんが国王陛下に跪くはずもないけど。私までが跪かなくても良いと言われるとは思ってもみなかった。緊張する。
国王陛下と王妃様までご一緒に出て来られた。ハインリヒ王子は王妃様似だと思う。やはり美人だ。国王と王妃って美男と美女の組合せだから当然と言えば当然かなぁ。
アメリーとグラントとハインリヒ王子は王都内を跋扈している魔獣討伐からまだ戻っていなかった。三日間で片付くのだろうか? 片付かなければ王国が破滅する。ルーメンの居場所が掴めないし困った。




