031 悪役令嬢マリア、 王都騒乱を見る
ネルーさんのお食事が済むのを待つこと三日。私たちは島でサバイバルキャンプを続けた。このまま、この島でのんびり過ごしたいのだけど。執筆活動も捗ると思うし。
魔術師ルーメンが王都に向かった。私たちは絶対に王都に行かなければならない。私、個人としては、ルーメンを追い払った功績で、私もお馬鹿ではないのでルーメンを倒せるとは思ってはいない、王子との婚約を破棄してもらって、ルーメンからもシャルロッテからも狙われずに、シャルロッテとアメリーとグラントと同人誌をともかく同人誌一号を発行したい。
シャルロッテの物語を巻頭に、意外にも面白かったハインリヒ王子たちの武勇伝を二号に、これって長編なので、一号にはあらすじだけにしする。その方が二号が出しやすい。
武勇伝のゴーストライターはハルトムートらしい。ハルトムートには、第二号の同人誌の巻頭にこの武勇伝を載せる。人気が出れば三号を発行が出来る。
絶対、二人は人気が出るはず。インディーズからメジャーデビュー出来ると思うのだ。シャルロッテとハルトムートがメジャーに。
私は彼らの才能を発掘した名編集者で良いか……。虚しい。
◇
「ガンダルフ、お待たせ。王都まで乗せて行ってあげるわ」
「皆の衆、ドラゴン様が背中に乗っても良いと仰せじゃ。有り難く受けるが良い」
ガンダルフの口調が田舎のおじいちゃんぽくなったのはなぜだろう。たぶん、色々あったはず。
アメリーの目がキラキラ輝いている。グラントには悲壮感が漂っている。
私は日本に帰りたい。めちゃくちゃ怖いです。安全バーもないし、手綱もないから。
グラントはアメリーに良いところを見せるために、アメリーを自分の前に座らせて、自分はアメリーをしっかり抱き止める役をしている。アメリーは幸せそうだ。
グラントとアメリーの仲を割くのはやめておこう。無理だ。ハインリヒ王子に新しい恋人を探そうと私は思う。
私は鱗、逆鱗ではないやつを握りしめた。
ドラゴンは急速に加速して上昇した。私はもの凄い重力を感じる。意識が飛びそうだ。後ろではキャッキャと笑い声と地の底から聞こえるような唸り声が聞こえた。
アメリーってこんなに凄い女の子設定だったけ。出来ればもう一度ファンブックを読み返したいものだ。
「マリア、私、ドラゴン様の背中に乗っています。祖父様に自慢が出来ます」
「それは良かったね……」私もコースター系は強いのだが、飛行機がなぜ飛ぶのかわからない人なので、鳥が空を飛ぶのも理解出来ないお馬鹿さんなので、空を飛ぶ系はすべてダメな人なのだ。まったく余裕がない。第一、囲いがない、剥き出しで空を飛んでいる。
ドラゴンが陸地に入ったら、住民の皆さんが祈り出した。生きている間に本物のドラゴンを見れば祈りたくもなるよね。
◇
王女内の閲兵式を行う広場に、ネルーさんは優雅に舞い降りた。母上が剣を握ってシャッキとして立っている。母上は、私を見た瞬間、思い切りガッカリしていた。母上はドラゴンと一戦を交えるつもりだったらしい。
気持ちはわかるけど、ドラゴンと一戦すれば王都がなくなるとはなぜ考えないのか? お馬鹿な私でも考えられるよ。
◇
「王城の者たち、騒がせて申し訳ない。私は魔術師ガンダルフ、この姿は、ある事情でこのような剣の姿になっている。このドラゴンは私の婚約者でネルーという、人間に危害をかけることはない」
ネルーさんが、婚約者って言葉で体をくねらせたので、怖かった。落ちるかと思った。
「疾風のイライザ殿、このガンダルフ、国王陛下に会いたい、取り次ぎをお願いする」
「ネルー、ありがとう。お前とはしばしのお別れだ」
「ガンダルフ、私はあなたの婚約者ですから、もう二度と離れません」
「あなたを今後背負うのは婚約者の私です」
お話が変な方向に向かっていますけど。
ネルーさんは、私たちを背中から下ろすと、人型になった。美人という言葉はネルーさんのためにある言葉だと思う。
で、私はガンダルフをネルーさんに渡した。ガンダルフがなぜか抵抗していた。が、私は一切気にしなかった。
「ネルーはドラゴンの姫様、なんだよな……」と力なくガンダルフがつぶやく。
自由を愛するガンダルフがここに終わったようだ。数千年もの歳月、婚約者に待たせるとは言語道断だと、私はネルーさんの味方になっていた。別にドラゴンが怖いわけではない……。
母上は目の前にドラゴンがいてもいつも通り。ドラゴンが人の姿になってもいつも通りで、「国王陛下に会わせるかどうかの判断は私がする。用件があるならまずは私に話せ」
いつも通りの母上だ。上から目線で人を威圧する。ちなみに母上は威圧しているとはまったく思っていない。
その物言いに激怒したのが、ドラゴンの姫君であるネルーさん。ドラゴンに上から目線で話す人間はこれまでいなかったと思う。
「ガンダルフ、ここいらにいる虫ケラをブレスで燃やしても良いか?」 と物騒なことを言い出した。
母上はマイペースだ。まったく気にしていない。謝罪するつもりもない。このままでは王城がなくなる。
◇
「すみません。ウチの母親が失礼なことを申しまして、母親に代わって娘の私がお詫びします。ブレスはだけはご勘弁ください」
「母上、緊急事態です。実体のない魔術師が王宮内、王都内に侵入しました。その魔術師は魔獣及び屍人を操ります」
「そのことなら知っている。王宮の魔法使いが全員で今、対策を練っているところだ」
「王都のあちこちでキメラ型の魔獣が跋扈している。剣で斬ると数が増えるので多くの魔法使いが燃やしているが、まったく数が減らない。王宮内にも屍人が紛れ込んでいて、これまた聖剣でないと滅せられない」
「ガンダルフはその首謀者を知っています。私も見ました。この世の者ではありません」
「マリアとその友人たちに部屋を用意して」そう言うと母上が王宮内に入って行った。かなり疲れているように見えた。




