003 悪役令嬢マリア、アメリーの危機を救う
「マリア様、お伝えしたいことがございます」
「珍しいわね、学校内で私に話しかけるなんて」
「アメリー様が、Aクラスの女生徒に拉致されて、物置小屋に閉じ込められました」
「Aクラスの女生徒って命知らずなのかしら。それともお馬鹿なのかしら」
「場所はどこ」
「旧校舎の裏手の物置小屋でございます。Aクラスの女生徒の下働きが見張っております」
「ありがとう。これからも頼むわね」
「御意」
「マリアお嬢様、私が助けに行ってもよろしいのですが」
「ジョーダンさんだと、下働きが死んじゃうかもなので、見ているだけで良いです」
「承知しました」
◇
さてとグラントを呼び出してと、「グラント、ちょっと用事。手伝ってちょうだい。拒否権はないわよ」
「マリア、いつもないのだから、わざわざ言わなくて良いよ」
「マリア、こっちは立ち入り禁止の旧校舎だよ。何をするつもり?」
「そうね。ヒロインを救出するヒーローの役をあなたにやってもらうわ。グラントは荒事は嫌いでしょう」
「マリア、誰か、拐われたのかい!」
「アメリーが拉致されたの。旧校舎の裏手の物置小屋に監禁されているの。もしかしたら中にも見張りがいるかもなので、その時は男を見せてね」
「相手が弱いことを祈っているよ」
旧校舎の裏手の物置小屋の前にガタイの良い男が三人いた。グラントは物置小屋の裏手から、突入してアメリーを確保。私は、陽動でガタイの良い男たちと闘う。武闘派の家柄は伊達じゃないんだよ。
「オジ様たち、ここは関係者以外立ち入り禁止ですのよ」
「お嬢ちゃん、一人かい、おじさんたちと遊ばないかい」
もうテンプレの対応で、声をかけずに倒しておくのだった。
「オジ様、私の遊びは手荒くてよ」
下卑た笑いを浮かべている男の急所、もしかしたらもう二度と子どもが作れないかも。蹴りを一撃入れてやった。男は悶絶している。
残り二人は鬼の形相で私に向かって来た。一人の男は、いたいけな少女に短剣を突き刺すつもりで短剣を握っている。私を押さえ込もうと後ろに回った男を、短剣を持った男に向けてぶん投げてやった。
「マリア、殺すな! アメリーは無事だ」とグラントの声が聞こえた。
短剣を持った男は短剣をその場に捨てて、急所を蹴られて意識がない男と地面に激突して意識のない男を残して、逃げて行った。
アメリーの服装に乱れはない。「物置小屋にはアメリーだけだったの?」
「いいや、Aクラスのボス格の令嬢の侍女が見張っていた」
「その侍女さんは?」
「マリアの姿を見た途端、物置小屋の窓から飛び出して逃げたよ」
「グラント、女の子だったから逃してあげたわけではないわよね……」
グラントが頭をかいている。わざと逃したわけね。
「マリア様、どうしてここに私がいるのがわかったのですか?」
「マリアはね、物語のネタ探しのためには資金を惜しまないの。情報屋を雇っているんだよ。この学校の先生が誰と付き合っているかも知っている」
「アメリー、私はマリアなの。様はいらないのよ。グラントなんか、五分でマリアって呼び捨てにしたのよ」
「マリアとグラントは仲が良いのですね。羨ましいです」
「マリアとグラントとアメリーは仲が良いってこれからは言ってね」
アメリーの目から涙が溢れている。
「アメリー、そう毎回泣かれると、私、イジメっ子に見えるんですけど」
「無理です。嬉しくて涙が止まりません」
「マリア、誰か来た。隠れた方が良い」
「了解、グラント、アメリー私について来て」
「はい、マリア……」
◇
ハインリヒ王子とそのお供が物置小屋にやって来た。落ちている短剣とそこに二人の男が倒れているのを見てギョッとしている。
「マズいことになった。マリアにグチグチ言われる」
「ハインリヒ王子様、魔力の痕跡はありません」
「体術で男二人を倒すとは、最悪な展開だな」
「物置小屋には誰もいません」
「さて、お前たちアメリーを探すにはどうしたら良いと思う。出来るだけマリアに気付かれずにだ」
「ハインリヒ王子様、私に気付かれずにアメリーを探すなんて無理ですわよ」
「マリア、お前どうしてここにいる」
「アメリーがAクラスの女生徒に連れて行かれるのを見たからですわ」
「ハインリヒ王子様こそ、どうしてここにいらっしゃるのでしょか?」
「アメリーが授業を無断欠席をしたので、聞き込みをしたところ、アメリーが旧校舎に向かって歩いていたのを見た者がいて、探しに来たのだ」
「ハインリヒ王子様、私のお願いを聞いてくださって嬉しく思います」
「マリア、今後は気を付ける。すまなかった」
「お前がこの者たちを倒したのか?」
「グラント、アメリー、王子様に無事な姿を見せてあげて」
「グラント、ああ、お前は体術の成績は優秀だったな。今度私と組み手をしようではないか」
グラントが困った顔をして私を見ている。
「グラント、王子がああ仰せです。遠慮なく地面とお友だちにしてあげれば良いいわよ」
「煽らないでくださいよ……」
アメリーが下を向いてクスクス笑っていた。