028 悪役令嬢マリア、魔獣と戦う
「三対七か……」
「グラント、何が三対七なの?」
「味方が三で敵は七で魔獣使いがいる。問題は魔獣の数が不明ってことだよ」
「単独組、全員が敵なわけなの?」
「この非常事態に、島を離れない理由が補講が嫌ってあり得ないだろう。七人とも何らかの任務を持っている。ハインリヒ王子が撤退したのも、誰が敵なのかをはっきりさせるためだ」
「ねえ、グラント、あの山の上にいるのってドラゴンじゃないかしら?」
「ほう、ドラゴンまで出してくるとは、本命はマリアの命かあ」
「グラント、アメリー、逃げた方が良くてよ」
「海の上でドラゴンと戦うのは不利すぎます」
「あなたたちだけでもって言う意味なんだけど……」
「マリア、それは手遅れだと思うわよ」アメリーが微笑んだ。アメリーってこんなに肝のすわった女の子の設定だったけ。
「マリア、多重シールドで、グラントとアメリーを覆え。何か来る!」とガンダルフが叫んだ。
◇
頭が狼、胴体は大蛇、前脚は虎というキメラの魔獣が突然現れ、私たちに向かって毒液を吹きかけた。
「アメリー、マリア、解毒剤を飲んで!」
「アメリーに渡して、私って毒が効かない体質なの」
グラントが怪訝な表情になった。私は、ガンダルフに魔改造された改造人間とは言えないもの。
シールドの中にいても空気中の毒気は吸ってしまう。グラントとアメリーは解毒剤を飲んだ。それでも呼吸が苦しそうだ。
「ガンダルフ、風魔法で頭を切り落とすのはどうかなあ」
「ありゃ、ヒュードラの体がベースだからまた生えてくるだけだな」
「斬っても再生するって、無敵じゃないの!」
「マリア、俺に魔力を注げ、面白いものを見せてやるぜ。数千年ぶりの戦闘だ! 血がたぎるぜ」
油がたぎるの間違いでは。
「マリア、つまらないツッコミをありがとうな」
「マリア、魔獣の頭と前脚を斬り落とせ」
斬り落としても再生するって言った尻から、斬り落とせって? 私はあっさり斬り落とした。けれど再生してこない。あれ?
「ガンダルフ、再生してこないのだけど」
「斬り口をよく見ろ」
「黒い炎がが燃えている」
「ゲヘナの炎、地獄の業火だ。一度火が着くと地獄に落ちない限り消えない炎だ。再生するのが早いか燃えるのが早いかだな。燃える方が早いみたいだからその内あれは燃え尽きるはずだ」
「マリア、術者を見つけた!」
あれ、ウチのクラスの隠キャラの男の子。この子もゲヘナの炎で燃えている。
「ガンダルフ、この子を助けたいのだけど……」
「ゲヘナの炎は地獄にコイツを連れて行かないと消せない」
「それって、この子が一度死なないとダメってことなの」
「そういうことになるな」
「シャルロッテ様!」とその男の子が叫ぶと姿が消えた。
「転移させたか」
「ガンダルフ、シャルロッテが助けてくれるわけ」
「いや、単なる証拠隠滅だな」
「この島全体に転移陣が設置されている。敵は、いつでも、どこからでも襲ってくるぞ。ガキども」
◇
「なぜ、ドラゴンは山頂から動かないのだろう」とグラントがつぶやいた。
「ドラゴンを操る奴がいたら、俺はそいつの弟子になるわ」とガンダルフが笑いながら言う。
「ドラゴンの魔力量は無限大だ。人間が操るのは不可能だ」
◇
「魔獣が二頭、ドラゴンに接近しているのだけど……」
私たちは様子を見る。ドラゴンのブレスで魔獣が二頭消えた。
「ドラゴンの存在は敵にとって想定外みたい。あそこにドラゴンが居座られるのが嫌みたいだね」
「グラント、なんとなくだけど、この島を覆う魔力の量が減ってないかしら?」
「マリアはどう思う?」
「正直に言います。わかりません」
◇
島内を探索したところ黒焦げになった遺体を二体発見した。丁重に埋葬をする。
「魔獣と魔獣の使い手は繋がっている。ドラゴンのブレスで魔獣が焼かれると術者も燃える」
「マリア、失せ物探しの魔法で、この島内に残っている連中を探してみてくれないか」
「まあ、良いけど。これまで何度も探したけれど、特定出来なかったので、期待しないでね」
島内には五人いる。三人と二人が私たちを中心にして西側と東側にいた。これまでは島全体を覆う魔力で特定出来なかったのが特定出来るようになっている。
「西に三人、東に二人いる」
「西はBクラスで、東はAクラスかな」
「それとなんだけど、ドラゴンの他にもヤバい量の魔力を持った存在がいる。どうもドラゴンを牽制しているぽい」
「本命はそのヤバい量の存在かもね、とりあえずBクラスの子たちの魅了を解こうよ」
「魅了を解くって言っても誰が……」
「俺だな」
ガンダルフかあ。
「ガンダルフ、魔改造はなしよ!」




