026 悪役令嬢マリア、無人島生活を送るその2
「私だけを狙ってくれれば良いのに」
「それだと不慮の事故に見えない」
「ハインリヒ王子には影のように護衛の方がついていらっしゃるはず」
「大半は帰した。そいつらにしても、シャルロッテの魅力が掛けられている可能性が高い」
「ハルトムート、王宮内で魅了に掛けられている連中は厨房の連中も含めてどのくらいいる」
「およそ三割かと」
「国王陛下はご存知なのですか?」
「面白がって見ている」
面白がって見ている場合ではないと思うのだけどね。
「国王陛下にしてみれば、王弟派が放逐されて新たに王位継承権を得たシャルロッテ派が台頭したって感じだろうか?」
「シャルロッテに王位継承権とは?」
「現国王、私の父上の祖父、私から言えば曽祖父の姉がマラード家に嫁いだ。シャルロッテには王家の血筋が入っている。マリアにもだが、クレールは曽祖父のその前の国王陛下の妹君がクレール家に嫁いでいる。シャルロッテが死ねば王位継承者に繰り上がる」
私はシャルロッテに死んでほしくない。魅力が解かれた後で、シャルロッテが書いた物語の前文だけをを思い返しても、素晴らしい出来なのは間違いないから。シャルロッテは物語作家として超一流なのだ。
「マリア、そういうことで、クラスメイト、島にいるはずのない魔獣が我々を襲ってくるので、要心することだ。出来れば死人は出したくない」
「襲ってきたクラスメイトはいかがしましょう?」
「リタイアを宣言させろ。それだけで良い。後は国王陛下が決めることだ」
「承知しました」
「グラント」
「何でしょう、ハインリヒ王子」
「ポンコツのマリアを頼む」そう言うとハインリヒ王子はハルトムートと一緒にAクラスが陣取る場所に帰って行った。
「ハインリヒ王子も素直ではないなあ……」
「ハインリヒ王子の俺様気質は、長年培われたものだから……、仕方ないわ。グラント」
お願いだからここで甘い雰囲気を出さないでほしい。サバイバルゲームが始まっているのだから。
◇
朝、川辺を見ると煙が上がっている。どう見ても火事に見える。
「マリア、アメリーはここでキャンプを警戒していて、陽動かもしれないから」
「了解です」
「わかった、でグラントはどうするの?」
「状況確認しに近くまで行ってみるよ。マリア」
グラントは川辺に様子を見に行って一時間ほどで戻って来た。
「Bクラスの生徒がキャンプしてたところに、突然魔獣が現れて、朝食の準備をしていた焚き火が近くのテントに燃え移って火事になったらしい」
「グラント、言っている意味はわかるのよ。でも、状況がまったく掴めないの」
「アメリー、マリアの取り巻きだったAさんたちのテントから、キメラの魔獣が現れた。頭が虎か狼で胴体が大蛇らしい」
「あの子たちって魔獣を飼っていたのか? 見せてほしかったなあ」
「Aさんたちは大ケガをしてるから、飼っていたわけではないみたい。第一、全長が二メートルもあるキメラの魔獣を持ち込むのは無理だ」
いや、可能だ。でも、小さくする魔法ってガンダルフのオリジナル魔法のはずなんだけど?
「魔獣はひとしきり暴れて突然消えた」
「グラント、突然消えたってどう言うこと」
「わからない。突然いなくなった。まるで転送されたように」
「実際、転送されたかもね。Bクラスを狙って転送して、ターゲットがいないので、また元の場所に転送されたのかもしれない」
「Bクラスのキャンプに、私がいなかったので、先生方が来る前に再度移動させた」
「マリアの仮説が正しければ、魔獣はここに送られて来るってことかな」
「そう言うこと。生徒には絶対に出来ない魔法だよね」
「相手は優秀な魔法使いってことだね」
「しかも複数いるはず」
「その魔獣に誰か攻撃魔法とかしなかったのかしら? グラント」
「アメリー、BクラスのレベルはAクラスより間違いなく下なので、そこまで出来る子はいない」
「弱点とかがわかればって思ったのだけど」
「Bクラスの生徒はこの事件で大半がリタイアを宣言した」
まあ、仕方ないよね。キャンプ翌日の朝にキメラの魔獣と遭遇したらそうなるよね。命あってのものだねだもの。
「先生方の指示は、生徒全員今いるキャンプ地から動かないこと」
「先生方が島を巡回するそうだ」




