022 悪役令嬢マリア、 学校生活に戻る
疾風のイライザの前で、風魔法を使った。初めて褒められた。母上が泣いていた。
「マリア、これからは私の娘であることを常に意識して風魔法の使い手になるように」
「母上様、精進いたします」
父上は扉の隙間から私を見て忍び泣きをしているのが見えた。ジョーダンさんは微笑んでいた。
「マリアお嬢様、出来れば早く学校に戻りましょう」
「ハインリヒ王子が心配されおります。雪山で遭難したことを報告したところ、すぐに捜索隊を出すとおっしゃられて止めるのが大変でした」
ハインリヒ王子が私を心配する理由が見当たらない。アメリーがグラントを選んで自暴自棄になったのかしら?
「ところで、マリアお嬢様、そのなんと言いますか。その見すぼらしい鉄剣を背負っておられるのはどうかと思いますが……」
「ジョーダンさん、こちらの鉄剣は始祖様がご愛用のガンダルフという名前のインテリジェンスソードですよ」
「ジョーダンとやらに命ずる、この鞘をどうにかしてくれ、さすがに数千年も経つ経年劣化しておる」
「ガンダルフ様、鞘の手配を致します。失礼なことを言って申し訳ございませんでした」
「俺は気にしない。ぞんざいな扱いには慣れている」
「マリア、始祖様ご愛用の剣って本当なの。国王陛下に報告するわよ」
「本当だ、マリアの母上、アインザックは俺の弟子だ」
「マリア、国王陛下には報告するのはやめておくわ。その剣はおかしいから」
ですよね。魔法使いの始祖様の師匠がインテリジェンスソードだなんて、おかしいから。あり得ないから。
◇
久しぶりの通学だ。その姿はドレスに背中に鉄剣を背負っている。明らかに珍妙な格好になっている。校内に入った途端、珍獣でも見るかのような視線を感じる。
誰かが私に向かって猛ダッシュして来た。
「マリア、お前、営倉に入れられて完璧な変人になってしまったのかあーー」
「ハインリヒ王子、私は何も変わっていません。何を慌てているのですか?」
「お前は背中に鉄剣を背負っている。しかもドレス姿でだ。おかしいとは思わないのか?」
「やはり、ドレス姿は変ですよね。明日からパンツルックにします」
「そうではなく、どうして剣を背負っているのかだ」
「それはですね。私、生活魔法が使えませんでした」
「お前が魔法を使うとたいてい爆烈魔法になる……」
「この剣があるとですね。私も『ウオーター』とこのようにお水が出せるのですよ」
「マリア、いつまで水を出し続けるのか?」
「止まれ、はい、お水が止まりました」
「マリア、ドレス姿で剣を背負うのは明らかにまずい。明日からはドレスではなく、狩の装束で通学するように……」
「了解です」
ハインリヒ王子が毎度のことながら頭を抱えてAクラスに戻って行った。
「マリア、おはよう」
「おはようグラント」
「マリア、おはよう」
「おはよう、アメリー」
「ハインリヒ王子との会話は聞いたけれど、その剣ってマリアの魔力をコントロールするアイテムなの?」
「オイ、クソガキ、誰がアイテムやねん。俺はマリアの師匠やぞ」
「マリア、剣がしゃべってますけど。しかもマリアの師匠だとおっしゃってますけど……」
「アメリー、この剣はですね。インテリジェンスソードでしゃべる剣で、しかも元は偉大な魔法使いだった方が、色々あって剣になってしまったわけで、説明すると授業に遅れるので、今は説明しませんけど」
「俺は魔法使いなどと言う低級な者ではない、偉大な魔術師である」
「ごめん、なんて言えば良いのかわからない。マリアが背負っている剣はインテリジェンスソードというしゃべる剣なのはわかった」
「ガキども俺のことはガンダルフ様と呼ぶが良い」
「マリア、その剣なんだけど、その剣がしゃべると腹が立つのでどうにかならないかなぁ」
「グラントもアメリーも慣れて、これでも丸くなった方なのよ」
「マリアって、本当に厄介ごとに愛されているわ。私だったらたぶん、家から出られないわ」
「アメリー、私って生まれてからずっと変人って呼ばれていたから、メンタルは鋼なの。安心して……」
「アメリー、マリアは特殊だから、僕たちが心配する必要はないんだよ。ハインリヒ王子がお気の毒なだけで……」
「グラント、少し言い過ぎではないかしら。祖父様も言っていたわよ、グラントの物言いはストレート過ぎるって」
「オット男爵から、何度か注意されたのを思い出した。アメリーありがとう」
「もう、グラントたら……」
何だろうこの百パーセント甘い雰囲気は。これってハインリヒ王子が振られたってことなのかな。妻が二人もいる既婚者には魅力はないよね。でもですよ。物語が大幅に変更になっているのですけど、私はグラントとアメリーを別れさせて、アメリーとハインリヒ王子をくっつければ良いのだろうか?
どうすれば良いのだろう。とりあえず、私が欠席している間、学校内であったことを、彼らから聞かないと判断が出来ない。




