020 悪役令嬢マリア、エルフの村に転移する
下山するとすぐに、別荘の使用人さんに子熊にヤギのミルクで良いので持ってきてとお願いした。子熊はミルクを飲む力がないようなので、スポイトで飲ませることにした。
「マリアお嬢様、この子熊をどうされるつもりですか?」
「もう少し大きくなったら山に戻すつもりです。人に慣れすぎると危険ですから」
「イライザ様から伝言がございます」
「はあ、すぐに戻ってこいですか?」
「いえ、生活魔法がまともに使えるまで帰ってくるなでございます」
「それって、私に、この別荘から戻ってくるなっと言っているようね」
「イライザ様が調べられたところ、魔法使いは元々無系統魔法から、風、水、土、火、金属とに分かれたものだということです。ですので無系統魔法のマリアお嬢様も使えるはずだとおしゃっておられました」
「詳しいことは、イライザ様がマリアお嬢様が下山するのを待っている間に書かれたノートを読むようにとの事です」
「それとですが、ハインリヒ王子との婚儀が決まりました。一年後、お二人が十七歳になった秋に行うそうでございます」
私の余命はあと一年かあ。まあ、日本で生きた何百倍もの濃い人生だったので、悔いはない。今書いている作品だけは完成させて、断頭台に上ろう。締め切りは来年の秋までだ。
私は別荘の書斎のテーブルの上に置いてあるノートを手に取って読んだ。母上の癖のある字で書かれていた。魔法使いの始祖様は無系統魔法であったこと。始祖様も使い勝手の悪い無系統魔法を改良して今のような、風、水、土、火、金属の魔法の系統に分けた。
子熊が私の膝の上で寝ている。可愛いけど、名前は付けない。でも、お前って呼ぶから、お前って名前になってしまうか。
母上のノートも解読が難しい。私のネタ帳と同じ程度のわかりにくさだ。無系統魔法の使い手はその魔法を制御するのに相棒が必要らしい。始祖様の相棒は森の精霊術師のエルフだったそうだ。
マリアもエルフの従者を雇えばなんとかなるかも知れない。エルフの村に行くのなら、別荘の地下に転移陣があるので、それで行くように、戻って来れるかどうかは保証しないと書かれていた。
エルフの村か、お前も一緒にエルフの村に行くか! お前の世話を、別荘の者に頼みたいのだけど、お前はまだ小さいのであっさり死んでしまうかも。主からの願いが聞けなかった、使用人は即解雇、即死刑とも言う、なのがクレール家の決まりなので、頼めないのだ。
どこかに良い動物病院はないものか?
◇
何というか某テーマパークのお化け屋敷の雰囲気の部屋が、地下の部屋だった。ジョーダンさんなは当主の血を引く者ではないので、この部屋には入れない。ジョーダンさんは私に付いてこれなかった。
私は子熊を抱いて転移陣の中央に立った。それだけで、魔法陣が光出した。私は眩い光に包まれて転移した。
エルフの魔法陣を守る兵士に誰何された。
「ええとですね。私は無系統魔法なので、エルフの方に魔法を教えていただきたくて……」
「無系統魔法? 魔法をエルフが教える? ハー、 なぜ熊を抱いている?」
「この熊は私のペットでしてですね」
「お前の言っていることがまったくわからない」
「子熊の『お前』がエルフを見つめた」
エルフの兵士は不思議な顔をしたけど、モフモフの可愛いさに負けてデレって顔になっていた。
「長老のところに行くので、ついてこい」
◇
エルフの兵士さんは長老さんのところに案内してくれた。
「長老、変なのが魔法を教えてほしいとやって来てますけど、どうします。なぜか熊を抱いています」
「熊を抱いてきた時点でかなりおかしいな。会ってみよう。面白そうだ」
「私がここの長老でアルムと言う。あなたは」
長老って言うけど、どう見ても二十歳代後半、アラサーの超イケメンではないか! 売れっ子芸能人を目の前にしたような気分になって、元二十三歳独身OLの私はあがってしまった。
「私は無系統魔法しか使えません。調べたところ、魔法を広めた始祖様も無系統魔法で苦労されて、エルフの方に魔法を教授されて、その他の魔法が使えるようになったとの事で、エルフの村に参りました」
「あっ私の名前ですね。マリアです」
「魔法使いの始祖? 無系統魔法で苦労した者、アインザックのことだろうか?」
「始祖様のお名前はわかりません」
「アインザックはエルフの娘を妻にしただけで、エルフはアイザックに魔法を教えてはいない。第一教えられない。そもそも原理が違うのだ。もしアインザックに魔法を教えたとしたら、それは私の父上とドワーフが合作したインテリジェンスソードだと思う」
「そのインテリジェンスソードは今どこにあるのでしょうか。」
「倉庫の中だ。うるさいので封印してある」




