017 悪役令嬢マリア、営倉一日目から何日目までその1
営倉に入れらている。小さな窓はある。しかしその窓は高さ三メートルのところにある。その小さな窓から入る光だけしか灯りがない。これだと夜間は真っ暗になるだろう。
トイレは地面に穴がが空いているだけ。一応私はレディーなので目隠しのカーテンがあった。良かったよ。食事を差し入れる差し入れ口と覗き窓付きの鉄の扉なので、覗き窓からカーテンがなければ丸見えだから。
紙がない。藁が置いてあった。「うえ」お尻が痛いだろうな。
寝床はムシロに薄い毛布が一枚。今が夏の終わりで良かった。冬だったら、私は、営倉から出たら全身アカギレだらけになっていたと思う。
お風呂は当然ないから、お湯を貰って拭くくらいかなあ。
何でだろう、営倉に入れられた王妃候補ってあり得ないのに。営倉入りとハインリヒ王子との婚約は破棄ってことにどうしてならないのだろうか? 逆に婚約破棄を画策する行為は禁ずるって意味不明だ。
することもないので、営倉の壁を見たら、文字が書かれていた。どうやってこれを書いたのだろう。これって石で書いたのかな。「俺じゃない、俺じゃない」って延々書かれていた。無実の罪で営倉に入れられた人がいたんだ。気の毒に。
私は、小石がどこかにないかとあちこち探したけれど、見つからない。公爵家の令嬢が入るってことで綺麗に掃除されていた。どこにも小石が落ちていない。ガッカリだ。
うん、壁がちょっと崩れそうなところを見つけた。トントンと叩いてみたら、壁が崩れて幾つか破片が手に入った。これで書ける。やったね。
食事の時間みたい。食事が差し入れ口から入れられた。無言だ。話をするのを禁じられているのだろうか?
本当にパンと水と塩とお湯しかない。もしかしたら、このお湯で体を拭くわけ。これはマズいわ。三十日後には私は大変なことになっている。
パンをちぎろうとしたけど、固い。これってナイフで削らないとダメなパンでは。まあ、私は握力があるから、ちぎってと、ああこのパンは口の中に水分がないと飲み込めない。
ダイエット出来るなあ。十キロは痩せられる。
◇
「マリア、祖父からの伝言を預かってきました」
「アメリー、よくここに入れたわね!」
「ハインリヒ王子と一緒に入れて貰いました」
「それは良かったね……」
「祖父からの伝言です。『マリア様のお陰で現役復帰の願いが叶いました。多くの戦友が眠る場所で、残りの人生を送れることは、マリア様には理解出来ないかもしれませんが、その喜びは、何ものにも代え難いものなのです。名目上は懲罰らしいですが、私は亡き戦友の御霊に毎日祈りを捧げられるので本当に有り難いのです』
『私の命が尽きた日には戦友が眠る場所に葬られ、おそらくバルハラで戦友たちから遅刻だと責められると思います。こうした機会を与えてくださったマリア様に心からの感謝を捧げます』とのことでした」
後半部分はアメリーが声を震わせて泣いてしまったので、少し聞き取れなかったけど、オット男爵の気持ちはよく伝わった。
「マリア、取引きをしないか?」
「取引きですか?」
「ああ、取引きだ。王妃に相応しい礼儀作法、常識、刺繍、語学を真面目に学ぶと約束するなら、三十日を七日に短縮する」
「ハインリヒ王子、それは疾風のイライザ様のお考えでしょうか? 絶対にあり得ないですね。母上ならその食器の差し入れ口から教科書を入れて、三十日後に試験をすると言うと思います」
◇
「マリア」
扉の外が絶対零度になった気がする。
「母上も来られていたのですか。お手数をおかけします」
「あなたは、今どこにいるのですか?」
「営倉ですけど……」
「あなたはどう言う罪を犯したのかわかっていますか?」
「情報を秘匿しました」
「なぜ、両親に、ジョーダンに今回のことをすぐに報告しなかったのですか?」
「下手に報告すると、クレール家は重大情報は必ず王家に知らせます。そうなると、王家は、クレール家が異民族を動かした、張本人にされると思いました」
「マリア、王家がどのようにお考えになるのかは、私たちには関係ないのです」
「私たちが得た情報は国王陛下のものなのです」
「あなたが、族長になったことも、遊牧民の兵士を借りられるようになったことも、すべて国王陛下が、どうするかを判断します。私たちは国王陛下の臣下であることを忘れてはいけません」
さすがはクレール家、完璧に掴んでいる。
「母上、肝に銘じます」
「では、あなたが望んだ礼儀作法等の教科書です。ノートは別の用途に使われると思うので、教科書とペンを牢の中に入れます。営倉を出ればすぐに、テストを行います。テストに落ちれば、マリアも知っている、雪山の別荘で特訓します。そのつもりで」
「もちろん、あなたが営倉を出たら、即座に教科書等は没収して焼却処分にしますからね」
母上は鬼だ!




