015 悪役令嬢マリア、王子に詰問される
「さて、沈黙で応えたマリア、お前、シャルロッテに脅されているようだな」
「ハインリヒ王子様、急に何でしょうか?」
皆んな、私を注目しないでちょうだい。
「俺は、あの化け物からライバルと言われた男だぞ。お前、遊牧民との間で秘密協定を結んだだろう」
私はアメリーの顔を思わず見てしまった。アメリーは盛んに首を横に振っている。
「ええっと、それはそのですね。和平交渉ですから、細かい取り決めがあるかもですが、それが王国に害をなすことはないわけで……」
「マリア、お前、本当に貴族の娘か?」
「はっ、えっ」
「私は、ちょっと鎌をかけただけなのだが……、そうか秘密協定があるのか。それをシャルロッテは知っているのか。納得できた」
「マリア・フォン・クレール、国軍参謀本部本部長として命令する、明日の朝八時に王宮に来るように。またアメリー、お前の祖父のオット男爵も王宮に来るように伝えろ。これは命令だ」
「はい、ハインリヒ王子、そのご命令オットに伝えます」
「マリア、お前は……」
「承知しました……」
ハインリヒ王子たちは部室を出て行った。
◇
ハインリヒ王子に引っ掛けられた。やられた! アメリーを見ると真っ青な顔になっている。
「アメリー、何があっても、私はあなたの祖父様は守るから心配しないで」
「マリア、逆ですわ。祖父が絶対にマリアを守ります。安心してくださいませ」アメリーの目から大粒の涙が幾つも溢れている。
「アメリー、心配ないって、ハインリヒ王子は英明な方だから」
「そうよね、グラント……」
もしかしてこれって三角関係になっているのかな。ハインリヒ王子とグラントの間で揺れ動くヒロイン、アメリーと脇役の悪役令嬢の私って感じがするよ。
あの時かな、拉致されて恐怖に襲われていたアメリーを颯爽と助けたグラント、吊り橋効果ってやつかもしれないなあ。ハインリヒ王子も好きだし、グラントもどちらも好きなアメリーなのだろうか? それに苛立っているハインリヒ王子なのかもしれない。物語としては面白くなってきたあ。
でもだ。でもでもだ。シャルロッテは人質だから、処刑は出来ないよね。第一、具体的には何も知らなかったで通せるよね。私は当事者だから無理だ。明日、遊牧の民の族長になったことが発覚して、私は断頭台に上ることになる。
私が、アメリーの祖父様がいないところで決まったと言えば、絶対アメリーの祖父様は私がいないところで、自分の責任で決めたって言い張るに違いない。
陰腹を切るかもしれない。止めないとダメだ。
「アメリー、私、今日はあなたの家で泊まるからね」
「マリア、突然何を言い出すの?」
「アメリーの祖父様に亡くなれたら嫌だから。お互い嘘は絶対に言わないって誓ってもらわないとダメだから。一人で責任を取ろうと言うのは私は絶対に許しません。私たちで決めたことだから」
「マリア、国王陛下の前で二人とも正直に話すと言う誓いをするために、アメリーの家に泊まるわけだね」
「当然です。このマリア・フォン・クレールの名に掛けて嘘、偽りなく話します。一人で良い格好をしようとするオットさんにも誓ってもらいます」
申し訳ない。私の迂闊さゆえオットさんを巻き込んでしまって。本当に申し訳ない……。
◇
「ハインリヒ王子、マリアが今日、アメリーの家に泊まるそうです」
「はっ、えっ、何、言っているのグラント!」
グラントが盗聴器をポケットから取り出した。
「ひどい、私にも黙っているなんて」アメリーが真っ赤な顔になって怒っている。
「ごめん、アメリーも当事者扱いだったので、話せなかったんだ。本当にごめん」
「もう、知らないから、グラントのことなんて!」
二人で戯れあってくれ。とりあえず、私はオットさんに私の迂闊さを謝らないといけない。
グラントが頭をかいていた。アメリーは可愛く膨れっ面をしていた。
私の後ろで密かに「クックック」って忍び笑いが聞こえた。ジョーダンさんも知っていたのか? あるいはハインリヒ王子にこの情報を流したのはクレール家!
やはりお母様を敵に回してはいけないと思う。




