014 悪役令嬢マリア、王弟派クーデターの成り行きを見る
西門、北門、南門の前に陣取っていた王弟派貴族から無警告で攻撃されたと、国王陛下に抗議があったそうだ。王都を封鎖していたのに、抗議をするとは厚かましい。
北門、南門については、国王陛下の命令で私は爆裂魔法を撃ったのでセーフなのだけれど、西門については独断でやったので完全にアウト。
国王陛下からは黙認すると言われたので、一応安心しているのだけどね。これって内々の処理だから、後々、ハインリヒ王子が、私を断頭台上らせる理由にする可能性は残ってはいる。
王弟殿下がいなくなっても、シャルロッテが生きている間は、ハインリヒは、私との婚約破棄はしないのだろうか?
ラスボスはシャルロッテなのか? シャルロッテが断頭台に上らないと物語は終わらない。で、シャルロッテは私を道連れにする。私、完全に詰んでいるじゃん。
あっ話を戻して、連中は、王都の門から十キロメートル離れるようにとの王命が出ていたのにも関らず、陣取っていた。連中は明らかな王命違反で反逆罪を犯している。
連中は追い詰められ、自分たちこそ被害者だとアピールをしている。世間の同情を引く作戦で状況を挽回しようとする意図が見える。
マラード家は突如中立宣言をして、王弟派から離脱した。王弟派貴族は疫病神がいなくなったので、勝てる可能性が出たと浮かれている。
現実を見ればマラード家と同様、辺境の地に出兵しなかったことを詫びて、国王陛下に再度忠誠を誓う方が生き残れる可能性があると言うのに、追い詰められると正常な判断が出来なくなっている。
それでもって、マラード家シャルロッテの凄いところは、ハインリヒ王子の王妃ではなく妃として生涯仕える宣言をしたこと。
最初はハインリヒ王子の侍女として仕える宣言をしたのだが、マラード家は、辺境の地への出兵準備を期限までに整えられなかっただけだと、国王陛下に認められて、妃になった。実質は人質だけど。でも自分から人質になります宣言は凄いと思う。
王弟殿下は有力後援者の貴族の領地に逃げ込んだ。クレール家より王弟殿下の家臣が遊牧民と接触した証拠がもたらされて、王弟殿下の反逆罪は確定した。
王弟殿下を保護している貴族に王弟殿下を引き渡すよう王命が出される。引き渡しを拒否すれば、即座に軍が送られる。猶予期間は三日間だ。
王弟派貴族たちはハインリヒ王子派の陰謀だと主張し、中立派貴族に自分たちとともに決起しようとアピールしている。コイツら、どの道お家断絶なのに、華々しく散るロマンを取ったみたい。
でもだ。そのロマンのお陰で、どれだけ領民が迷惑するかを考えろよ。自分たちの畑を人馬が通って、めちゃくちゃになるのを見る領民を、想像出来ないのだろうか?
三日後、王弟殿下が逃げ込んだ伯爵家はあっさりと王弟殿下を国王陛下の使者に引き渡し、恭順する旨宣言し、当主は隠居した。これまた伯爵の孫娘が、ハインリヒ王子の妃と言う称号を得て人質として、王宮に入ることとなった。
旗印を失った貴族の数人が焼けになって王家に反乱を起こしたものの、数日で鎮圧されて、その首を屋敷の門の上に晒すことになった。王弟派の他の貴族は国王陛下に恭順し、領地と爵位を取り上げられて、命だけは助けられていた。
◇
疲れた顔でハインリヒ王子が文芸部の部室にやって来た。
アメリーを見るとごく普通の様子だ。恋人に、名ばかりとは言え、妻が二人も出来たのに。なぜにそんなに落ち着いているのだろうか? やはり、二人の愛が絶対だからなのだろうか? 二十三歳まで日本で生きて、恋愛経験もある私だが、それでも多少は心がざわめくと思うのだけど。
「ハインリヒ王子様、ご結婚おめでとうございます」
「マリア、お前、死にたいのか! ここでその首はねてやろうか!」
「ハインリヒ王子、落ち着いてください。社交辞令で言わないといけないセリフですから」とハルトムートが、剣に手を掛けた王子を止めてくれた。
「グラント!」
「はい、ハインリヒ王子、何でしょうか?」
「ここは内輪の集まりだよな」
「はい、ここにいるのは全員信頼出来る者たちです」
「俺は王子をやめたい」
「はっ!」全員が一斉に言ってしまった。で、私以外の人たちが、なぜか私を見つめている。私に尋ねろと言うのか、さっき首を王子にはねられそうになった私に、皆んな薄情だよ……。
「王子様、本当にお疲れのようですね」
「あのシャルロッテが王宮に入るのだ。二十四時間、三百六十五日緊張して過ごさねばならない」
「シャルロッテ様は、建前上は妃ですが、実質は人質ではありませんか?」
「シャルロッテが大人しく人質をすると思うのか?」
「……」
学校内外には数多くのシャルロッテのファンがいる。王宮内の侍女の間でもシャルロッテの人気が高いのを私も知っている。
王宮内に猛毒を持った毒蛇が住むことになったのだから。ハインリヒ王子の気持ちもよくわかる。私にもちゃんと脅しをかけてきているしね。




