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悪役令嬢の私との婚約を、王子が破棄しないと私は断頭台に直行なのよ  作者: 田中 まもる
第三章 悪役令嬢マリア、シャルロッテと対決する
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011 悪役令嬢マリア、シャルロッテが見舞いに来る

「マリアお嬢様」


「何ですか? ジョーダンさん」


「マラード家のシャルロッテ様がお見舞いに来られました」


 私は寝込んでいる。爆裂魔法を三発撃ったためと、父上からハインリヒ王子との結婚が近いと聞いたため。魔力は国王陛下より下賜されたポーションですぐに回復したのだけれど、断頭台に上る自分を想像して起き上がる気力がわかない。


「シャルロッテ様ですか」私とハインリヒ王子が結婚の話を聞いて、問い詰めに来たのだろうか? それとも敵情視察かな。待たせる訳にもいかないな。



「ジョーダンさん、お部屋を用意してください」


「マリアお嬢様、お体は大丈夫でございますか? 初めての戦場でございましたし」


「ありがとう、シャルロッテ様を待たせるのは良くないわ。ジョーダンさんお願いします」


「かしこまりました」


 私はすぐに部屋着から普段着に着替えた。普通は侍女がするのだけれど、私は自分のことは自分でしたいので、必要な時だけ、侍女を呼ぶようにしている。母上も同じ。これってクレール家の伝統かもしれない。



「申し訳ありません、お待たせして」


「私こそ、先ぶれもなく訪問した非礼をお詫びいたします」


「マリア様、お加減はいかがですの?」


「はい、初めての戦場で少し疲れたようです」


「クレール家は女性も戦場に立ちますものね」


「ええ、武門の家柄ですから、男、女の区別はクレール家にはございませんから」


「羨ましいですは、マラードは真逆ですから」


 シャルロッテは少し寂しそうな表情になった。なぜだろう?


「お陰で、私は変人と言われておりますわ」


「マリア様は貴族の常識をことごとく壊されますから。私は痛快ですのよ」


「私は、私の書く物語が痛快になってほしいのですが……」


 これは本音だ。


「マリア様の物語ですが、辛口の感想を言ってもよろしいかしら」


「お願いします、心から」


「人物の描写が浅いです。もっとよく人々を観察しないと、登場人物すべてが表面的です」


 私もわかってはいるのだが、はっきり言われると心に刺さる。


「マリア様、ハインリヒ王子のことをどう思われましたか? 戦場でです」


 戦場でのハインリヒ王子は立派だったと思う。まだ十六歳なのに総勢一万の軍を率いた。


「ハインリヒ王子は立派でしたが……」


「マリア様、具体的には?」


「具体的には、全軍に適切な指示を与えておられたと思います」


「それはグラントの意見を採用したと伺っております」


「参謀の意見を採用することは司令官として当然だと思うのですが……」


「マリア様は、ハインリヒ王子の指示が、グラントの考えだったのを知らなかったのでは」


「はい、その通りです」


「ハインリヒ王子のことをあまり見てはいなかった。観察してはいなかった」


「はい、その通りです」


「なぜですか? 私なら司令官の一挙手一投足見逃しはいたしませんわ。滅多に見られるものではございませんから。マリア様に欠けているのは人への興味ではございませんか」


「そうかも知れません……」


「私は羨ましいのです。女なのに戦場に行けるマリア様が」


 何だろうこの熱さは、シャルロッテは女であることを残念に思っているような。


「シャルロッテ様は文武両道の才媛、貴族社会の枠の中では息苦しいのでしょうか?」


「私は才媛ではございませんのよ。悪魔とか化け物とかって言われていますのよ」


 整っているシャルロッテの顔が歪んだように見えた。シャルロッテはこの世界を憎んでいる。


「私ね、ハインリヒ王子が私のことを化け物と呼んでいるのを知っていますの」


「マリア様が、晩餐会の席で私を王妃に相応しいと言われた時は心底びっくりしました。父上が国王陛下の元に行ったのもびっくりしましたが……」


「マリア様、王妃になりたくないのですか?」


「ええ、私はなりたくないです」


「貴族の娘に生まれたからには誰もが、王妃になりたいと思うものと思っておりました。マリア様はなぜなりたくないのでしょうか?」


「物語を書く時間が削られます」


「……」


「マリア様、もう一度言っていただいて良いかしら」


「物語を書く時間が削られるのが嫌なんです」


「本気ですか」


「本気です」


「ハインリヒ王子はそのことはお存じですか?」


「理由までは言っていませんが、婚約の解消は何度も、私からも父からもお願いしています」


「マリア様はハインリヒ王子がお嫌いですか?」


「嫌いと言うより鬱陶うっとうしいです。会えば馬鹿だの、文才がないから書くのをやめろうとかおっしゃるので」


「ハインリヒ王子が、言葉を飾らないのはマリア様だけなんですけどね」


「シャルロッテ様は、ハインリヒ王子をどう思われているのでしょうか?」


「ライバルです」


 お互い策謀家同士だからそうなるのか?


「ごめんなさい、長居をしてしまって、私、また新作を書いたのよ。読んでいただけるかしら?」


「もちろんです。早く読みたいです。持って来てくだされば良かったのに」


「それはダメです。マリア様が元気になってからですわ。グラントから聞きましたわよ。面白い物語を寝ずに読むって」


 グラント、余計なことを。帰って来たら許さん!


「マリア様、ではご機嫌よう」


「シャルロッテ様もお気をつけてお帰りください」

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