010 悪役令嬢マリア、イワンさんたちと交渉する
「マリア・フォン・クレール、ワレのところには来ないということか」
「イワン、お前の妻に決まったわけでもないのに、ワレのところとはどう言う了見だ。表に出ろ」
私を巡って喧嘩が始まりそうだ。
「あのう、すみません。皆さまもご存知のように、王国内は揉めておりまして、その責任の大半が私にあるのです」
「うむ、わかる。お前は何かをやらかす、非常に面白い人間だ」
「ありがとうございます」
「王国内のゴタゴタが落ち着いたらこっちに来るわけだな」
「よくわかった。もし、私の力が必要ならいつでも手を貸す。兵も貸すので安心するが良い」
「おいこらふざけるな! マリア殿、こいつは口先だけだ、僕が手を貸そう。大船に乗ったつもりで……」
「少々、我々にも時間が必要なようだ。マリア殿、我々はマリア殿の味方ゆえ、いつでも協力するので、遠慮なく頼ってくれ、マリア殿に、我々から名誉族長の称号を与える」
「ありがとうございます。その時はお力をお貸しくださいませ」
「ワレに任せるが良い」
「イワン、表に出ろ!」
「皆さま、近いうちにお会いしましょう」
誰も聞いていない。乱闘が始まっている。
◇
「あれで良かったのでしょうか? オットさん」
「良いのではありませんか。ただ、マリア様が彼らと同じ族長になったこと、彼らから、いつでも兵を借りられることは秘密にしておく必要があります。下手をすると国家反逆罪に問われかねません!」
「そうですよね」亡命先が出来たのは良かったのだけど……。
◇
「オット殿、どうなった?」
「マリア様のことは保留で撤兵と言うことになりました。時期は決まっておりませんが、マリア様が、彼らの都というか、そう言うところを訪問する必要がございますが……」
「オット殿、ご苦労であった」
「お褒め頂き恐悦至極でございます」
私が、名誉族長になったことは秘密にされた。微妙な立場の私だ。アメリーの祖父様に国家反逆罪で告発される可能性がある。でも、オット様も私と共犯だし大丈夫だと信じたい。でもやはり、出来るだけ早く遊牧民の人たちのところに私は行った方が良かったのかな。まあ、亡命と言うか、遊牧の民に行く大義名分が出来たので良しとしよう。
「マリア、クレール公爵からの手紙だ。申し訳ないが開封して読ませてもらった、王都周辺が不穏ゆえすぐに騎馬隊五百騎を率いて王都に戻ってくるようにとのことだ」
「急いでくれ。頼む」
「承知しました。マリア・フォン・クレールただちに王都に向かいます」
私たちは急ぎ王都に向かった。
「ジョーダンさん、王弟軍がいた場合、私、無警告で、爆裂魔法を撃つつもりです。責任はすべて私にあるので、止めないでください」
「マリアお嬢様の御心のままに」
◇
王都入口近くに王弟派貴族の軍が陣を敷いていた。私は宣言通り爆裂魔法をその陣地の上に落とした。半径百メートルの大穴が空いていた。私たちは生き残りの兵をそのままにして王都内に入った。
私たちは急いで王宮内に入った。父上がそこにいた。
「マリア、爆裂魔法を使ったのか?」
「はい、父上、門の前に王弟派の貴族の軍がおりましたので……」
「マリア、爆裂魔法は、後二発は撃てるな」
「はい、父上」
「皆の者よく聞け! 西の軍が片付いたぞ」
「マリア、後、北門と南門の王弟派貴族の軍の上に爆裂魔法を落とせ」
「承知しました。父上」
私は北門、南門の貴族の軍の上に爆裂魔法を落とした。
「国王陛下、王都の封鎖が解かれました。形勢逆転です。ご安心ください」
「クレール公爵、そなたの娘が倒れておるのだが良いのか?」
「一日に三発爆裂魔法を撃つと娘は魔力切れを起こしますので、問題ありません」
「クレール公爵、余の息子の婚約者なのだがそれで良いと思っているのか!」
「申し訳ございません。すぐにベッドに寝かします」
「王家所有の魔力回復ポーションの使用を許可する。ただちに使用せよ。公爵これは命令だ」
「国王陛下、臣下の娘にそれは過ぎたことでは……」
「クレール公爵、もう一度言うこれは命令だ!」
「はっ」
◇
あれ、私また何かやらかしたのかな。父上の顔に血の気がない。
「父上、どうかされましたか? 顔色がお悪いのですが!」
「マリア、大変なことになった」
「私、味方の上に爆裂魔法を落としたのですか?」
「いや、それは大丈夫だ。ただ、お前が王族待遇になってしまった」
「お前とハインリヒ王子との結婚が近い」
それはダメだ。断頭台にまっしぐらだ。国家反逆罪で処刑される。父上も母上も連座で処刑される。私はまた気を失った。




