表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢の私との婚約を、王子が破棄しないと私は断頭台に直行なのよ  作者: 田中 まもる
第一章 悪役令嬢マリア、文芸部を創部する
1/73

001 悪役令嬢マリア、小説家になりたい悪役令嬢が爆誕しました

 私はラノベ作家を目指して、毎日ウエブサイトに小説を投稿している。小説を書く合間に悪役令嬢もののゲームを、小説のネタのためにやり込んでいる。


 大学を卒業して、親のコネで一般職のOLにはなれた。でも、親から、「ミキ、結婚したらお願いね」って言われている。私の寿退社が条件のコネ入社だった。まあ、仕方ない。私の実力では絶対に就職できる会社ではないから。


 入社後は毎月、見合い写真と釣書が自宅に届いている。私ってそんなに早く辞めてほしい人材なのかと思ってしまう。会社の雰囲気も良いし、お給料もそこそこ貰えるし、時間にゆとりがあるのが良い。トイレでちょくちょく執筆活動をしても誰も文句を言わないのが一番良い。


 スマホで小説を書きながら歩道を歩いていたら、急ブレーキの音がしたので、顔を上げると、おじいちゃんが真っ青な顔で、私に向かって車を走らせていた。うん、これは死んだな。私は意識を失った。





 気づくと、金髪碧眼のウヒョー、イケメンの男の子と、これまた金髪碧眼または青い髪で右目がグリーンで左目がブルーの美少女たちが、心配そうに私を見つめていた。


「マリア・フォン・クレール、大丈夫か?」


 マリア・フォン・クレールって聞き覚えがある。でもって私を抱き起こしているイケメンの男の子にも見覚えがある。悪役令嬢マリアの婚約者である第一王子のハインリヒだ。これってまさかのアレか?


「ええっとですね。ハインリヒ王子、私、何かしましたか?」


「急に倒れたのだ。額を打ったように見えたのだが、大丈夫なのか?」


「そう言えば、けっこう額が痛いですね。寝不足で小説を書くと、翌日会社でよく柱にぶつかっていたので、額は鍛えてはいるのですが……」


「意識の混濁が見られる。グラント、マリアを医務室に運ぶように」


「承知しました。ハインリヒ王子」


「グラント、ごめん。昨日ね物語が浮かんでプロットを徹夜で書いてたわけで……」


「マリア、アイデアが浮かんだら、メモするのは当然だけど。どうせプロットだけじゃなく、本編まで書いていたんだろう」


 私が、この悪役令嬢ものに感情移入した理由は、このマリアが物語大好き少女だから。このグラントと二人でこっそり同人誌を出そうと計画するほど熱中していたことだ。悪役令嬢というより妄想令嬢とでも言うべきかもしれない。


 マリアはハインリヒ王子の婚約者ではあるのだが、ハインリヒ王子には想い人がいる。それが男爵家の娘アメリーなのだ。マリアは本意ではないが、アメリーをいじめる役どころだったりする。


 本意ではない理由は、アメリーも物語大好きなので、本当は同人誌の仲間にしたい。お友だちになりたいのに、取り巻き連中がアメリーをいじめるので、仲間良くなれないので、日々悶々としている。


 このゲームでは実はマリアは、ハインリヒとアメリーが一緒になれば良いなって思っている。しかしこのゲームでは恋愛小説の王道、ハインリヒが地位も名誉も捨てて、マリアとの婚約を破棄して、アメリーとの愛を貫く! ではなく、ハインリヒ王子が策謀を巡らせて、二人が幸せになるのに邪魔なマリアを断頭台に上がらせてめでたし、めでたしというゲームになっている。


 マリア役のプレイヤーの第一のミッションは、そのバッドエンドを回避すること。


 第二のミッション、悪役令嬢役のプレイヤーは断頭台行きを回避して、ハインリヒ王子とアメリーとの恋愛を成就させたのち、それをネタに物語を書くことでこのゲームを本当にクリアしたことになる。


 つまり、プレイヤーは、このゲームをネタにした小説を書いてゲーム会社が指定したウエブサイトに小説を投稿する。それをゲーム会社の人に評価してもらうのがこのゲームの売りだったりする。


 暗黙の了解として二千文字を書いて投稿すれば、ゲーム会社からパスワードが送られて来てエンディングシーンを見ることができる。ガチで書籍化狙いの人は十万字を書いて投稿している。このゲームは、ゲーム会社と出版社とのタイアップ企画なので、優秀作品は書籍化及びコミカライズが約束されている。


 あっ、この世界には指定のウエブサイトがないから、ゲーム会社の人に私の小説を読んでもらえない! 私はめげた。


 私がやるべきこと、ハインリヒ自らが私との婚約を破棄するように仕向けること。しくじると断頭台が近くなる。次、アメリーに恋に上下の隔てはないとハインリヒ王子と結ばれるようにと応援すること。ちなみに物語は勝手に進行する。マリアである私はポイント、ポイントで頑張らないとバッドエンドになってしまうので注意しないといけない。


 私、マリアの最初のミッションは邪魔な取り巻き連中を排除すること。私は屋敷に引きこもって、取り巻き連中とは会わない。地味なイベントだ。



「グラント、あのね身分差を超えてね愛し合う男女がいるわけよ。それをさ、邪魔する連中がわんさといって、数々の妨害をするのだけど、二人の愛の力で乗り越えるわけね」


「マリア、もの凄くテンプレなんだけど。それで徹夜して倒れたの! バカなの!」


「テンプレって言うな! 恋愛王道物語と言ってほしいね。同人誌の巻頭はこれで行くからね」


「今の流行りは追放もの、ざまぁ、あるいは異世界恋愛ものなんだよ。読者受けしないと思うけどね……」


「グラントがその追放ものを書けば良いじゃん」


「僕は未来小説が書きたいわけで……」


「未来小説ってそれってかなり読む人を選ぶわね。せめて勇者ものにしたらどうなの?」


「マリアに言われなくても、それも書いている」


「マリア、その恋愛王道物語はどのくらい書いてあるの?」


「ただ今、三行ほど……」


「医務室でゆっくり寝ててくれ。マジで迷惑だ」


「ごめん、以後気をつけます」


「先生、またマリア・フォン・クレール嬢が倒れました。激しく額を床にぶつけています」


「グラント、毎回お疲れ様、ベッドに寝かしておいて、今日はマリアのご両親に来ていただく予定ですから」


「グラント……」


「マリア、頑張ってね」


 私はベッドに寝かされ、グラントは教室に戻って行った。


 マリアの両親って疾風のなんちゃらと雷鳴のなんちゃらって二つ名を持つ武闘派だったはず。


「先生、なんか病名つけて貰えませんか?」


「睡眠不足」


「それって病名ではないです。なんちゃら症候群とかなんちゃら難病とか」


「あなたの目の下の隈を見れば寝不足だってバレますよ。無駄な足掻きはやめて、しっかり怒られなさいね」


「先生は可愛い生徒をですね、虎と狼の前に出すことに躊躇いはないのですか!」


「マリア、誰が虎で誰が狼なのかはっきり言ってもらいましょうか!」


「お母様、今日も一段とお美しいことで……」



「マリア、これは何ですか?」


「ノートに見えますが……」


「その通りノートですね。問題はそのノートに書いてあることなの。額を強打してお馬鹿になったあなたでもわかるわよね?」


「お母様はそれを読みましたね。その感想はいかがでしたか?」


「まったく理解できませんでした。ただわかったことは、ここに書かれていることは勉学と一切関係のないことでした」


「当然です。そのノートはネタ帳ですから、書いた私以外の人にはほぼ解読不能だったりします」


「イライザ、マリアはやはり寄宿制の学校に転校させた方が良いのではないか?」


「エルダー、マリアはハインリヒ王子の婚約者なのよ。転校させられるものならすでにさせているわ」


「そのハインリヒ王子との婚約なのだが、伯父上にお願いしてなかったことにできないかと思っているのだ。マリアがこの調子だと、我がクレール公爵家の名声を落とすのは間違いないと思うのだよ」


「マリア、このままだとハインリヒ王子様との婚約が解消になるわよ。それで良いの!」


「私はハインリヒ王子の婚約者としては相応しくありません。仕方ないのでは、すでにハインリヒ王子も私のことには関心がないみたいですから」


「私たちを呼びつけたのはハインリヒ王子なんだがな!」


 余計なことをしやがって。


「婚約者のことを心配されておられる優しい王子様ですね」


「棒読みで言うのはやめなさい。王子様よりマリアの生活習慣を見直すようにと言われた。今日から早寝早起き、早朝には剣の稽古を行うから、そのつもりで」


「父上、横暴です」


「マリア、この意味不明なノートは焼却処分にします。もしもまた書いているものを見つけたら、その場で燃やしますから」


「母上、ノートに罪はありません」


「そして、両親に大恥をかかせた責任を取ってもらう。一月間、学校への通学を禁止します。その代わり屋敷内で鍛錬を行うからそのつもりで」


「父上、厳しすぎます……」


「先生、よろしいですね」


「はい、それで良いかと思います」


 こんなイベントってあったかしら。記憶にないなあ。ノートを燃やされたイベントはあったけど、予備のノートは身につけているので問題なしだったはず。そのネタ帳に書かれていたことのすべてを私は暗記しているので、もしも予備のノートが見つかって、燃やされてもまったく問題はないのだけれど。



 私はそのまま、屋敷に連れ帰られて、父上と剣術の鍛錬という名のもとで私は虐待されている。父上は根っからの男女平等主義者なので、女といえども関係なく木刀で打ち据える。


 意識が飛んで気がついたらお風呂に入れられていた。全身が痛い。あちこち紫色になっている。


 私は負けない。王子との婚約がなくなって、私が安心して小説を書く日がくるまでは。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ