chapterⅢ out of control -暴走- Ⅲ
碧と関わった事がある魔法使い・レイナが初登場するお話です。
とあるフィールドに――
魔法使いの少女が一人、佇んでいた――
魔法使い……と言っても、キャミソールの上に
ジッパー付きの7分丈の上着、膝が隠れる位の長さのスカート……
他のRPGキャラに比べると、現実の私服でも通るような装い。
黄緑色の少しカールがかった髪は肩の辺りで二つに結ばれた、
左目が髪で隠れたデザインのRPGキャラ――彼女の名は、レイナ。
その時彼女は、先日出会った一人の少年の事を思い出していた――
「やっと……倒せた……」
傷だらけになりながらも強敵のモンスターを倒した瞬間、
突然激しい目眩が襲った……。
彼女の体の至る所から血が流れ、致命傷も受けていた……
ヤバい、せっかく倒したのに……ここで死んだら、意味がない――
そう思いながら彼女は力尽きた――
が、倒れかけた彼女を一人の僧侶の少年が受け止めた――
「今助けますから!!」
……誰だろうか――初めて聞く声だった。
「完全回復です☆ すごいですね~
あのモンスターをお一人で倒すなんて」
「そんな事ないわよ……
貴方が助けなかったら、私は死んでいた……貴方のおかげで
助かったわ……っていうか、どうして助けてくれたの?」
初対面で死にかけの自分の体力を回復してくれた僧侶の少年を――
レイナは不思議そうに見た。
「それは……この世界で誰かを助けるのが僕の趣味でもあるから……
と、貴方の場合は……“お礼”も兼ねて――」
「……何の?」
会うのも初めてなのに、身に覚えもない。
「それは、その――
美しい、華麗な戦闘を見せて頂いた、お礼ですよっ!!」
「……はぁ?」
僧侶の少年の思いがけない言葉に、レイナは珍しく間の抜けた声を出す。
「実はですね~……貴方の戦闘、前々から陰ながら、盗み見させて
頂いてたんですよ……というか、ずっと……お話したかったの
ですが、いつも貴方はモンスターと闘っていらっしゃって……
近付けなくて……それで――お見かけした時はいつも、貴方を
見てました……戦闘技術、身のこなし、今まで僕が見てきた中で
最も美しく、素敵で、つい見とれてしまいまして……」
赤面しながらも、笑顔でレイナを誉める。
どうやらお世辞ではなく、天然らしい。
「そんな理由で?」
「はいっ! ……僕は攻撃魔法が使えないから――
あんな風に華麗に戦う事はできませんし、
貴方の美しさは時間も忘れる程……ああっ! 僕もう行かないと
……お話、聞いてくださり本当にありがとうございました!!」
そう言って、僧侶の少年はあっという間に消えてしまった。
「待って! ……っていないし……」
なんとも奇妙な体験だった……。
「なんだか私が助けてもらっただけで納得いかないわ……
借りは返さないと……でも――いつ会えるんだろ……」
「お姉さん、人探し?」
「!!」
僧侶の少年の事を考えていると、
いつの間にかレイナの隣には黒髪でチャイナ服の小さな少年の姿。
「お姉さんにお願いがあるんだ♪」
「え……?」
そう言って目の前の少年は、レイナに一つ、黒いピアスを渡す――
「何これ? 強制イベント……?」
「う~んと、お姉さんだけの特別イベント☆
これを、僧侶の……碧君の左耳に付けてあげて欲しいんだ」
「なっ……!?」
レイナは驚いた――
少年は全てを見透かしているようだったから――
「……やっぱり、驚いた? 全部、知ってるよ……
君が碧君を探している事も、この世界に入ったきっかけも……
どんな気持ちでそのRPGキャラを使っているのか、も」
「……っ……!?」
「……だからこそ碧君、
そして『あの子』と関わって欲しいって思ってる」
「『あの子』……?」
レイナは不思議そうに聞き返す。
「碧君が――攻撃魔法が使えないってゆーのは知ってるよね?
だから攻撃魔法が使えるように――強化データに体を乗っ取らせ
たんだ! それで碧君は……今はお姉さんが会った時とは別の姿――
紅い眼で、金色の鎧を纏った剣士の姿で蓮と戦ってる……
“あの子”は魔力を使いすぎると、体がコントロールできなく
なって……死ぬ程苦しい思いをしちゃうのも、時間の問題。
感覚共有してる碧君も――」
「!? なんで貴方が助けないのっ!?」
冷静に言い捨てる少年をレイナは睨む。
「僕は別に困らないも~ん♪ でもお姉さんは
彼に“借り”があるんでしょ? ……ほら早く、月の泉にいるから」
「貴方……何者なの!? 一体何が目的なのよ!?」
「僕はただ、君と碧君が仲良くしてくれたらな~って思ってるだ・け☆
強化データである“あの子”とも。ほら……行くんでしょ?
頑張ってね、お姉さん☆ それと僕から――アドバイス♪」
「……感に囚われ過ぎないでね」
「……!?」
そう囁いて、少年は消えてしまった――
「訳わかんない……でも……!」
レイナはこのエリアから、姿を消す――
そして、碧の元へと急ぐ……
それから、元いた場所に戻った小さな少年・昂は呟く……
「良かった……行ってくれたんだね、レイナちゃん……
“彼”によく似ている君も……“
彼”と同じように“救われるべき存在”だって思ってるから」