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chapterⅩⅤ identity -正体- Ⅲ

正也と雷音が過去の事を謝り合ったり、正也が色々白状する お話です。

「じゃあ、戻ろっか♪」

それから――2人は先程座っていた位置に戻ろうとする――

「――それにしても、その量――多くない?」

「備えあれば憂いなしって言うでしょ?

 だから――病人用の食べ物とか飲み物とか、後 病人用じゃないけど

 木間君のお母さんも忙しそうだから……少しでも休めるように

 お母さんの分のご飯とかも、その他諸々良かったら――

 余ったら木間家に寄付の方向で☆」

「えっ……そんな……俺の分だけでも結構な量なのに

 母さんの事まで……!? そこまでしてもらうなんて悪いよ――

 もらえない……新品ばかりだし――持って帰ってくれ……!!」

「悪くない。遠慮しないで! 使える物は使わないと――

 私だって木間君に早く元気になって欲しいし……

 せっかく持ってきてもらったんだし……それに雪紀兄は男で

 力あるけど、私はそんな力ないから持って帰るの重いし

 持って帰りたくはないなぁ……」

雷音は淋しそうな表情を浮かべる――


「う……うう……じゃあ、ありがたく――」

「よしっ じゃあ受け取る方向でね♪」

「へ……??」

「こういう言い方しないと、木間君遠慮するの分かってるもん☆」

雷音は即座に笑顔になる――

「……ずるい……」

「ずるくないない!! うちにあっても賞味期限切れちゃうかもだし――

 あっ……そう! これこれ、さっき言ってたデザート

 早速準備するから、はい木間君は布団で待っててね」

雷音は雪紀が持って来た物を 正也に強引に受け取らせる方向に

話を持っていった後、デザートを用意した。


「えっ……!? これって……」

「あっ……ごめん、好き嫌いまでは聞けてなかったよね……

 問診票の時にアレルギーは大丈夫って聞いたからいけるかなって

 缶詰の桃――」

「そんな、そこまで気を遣わなくて大丈夫だよ!

 俺割となんでも好き嫌いなく食べるし、桃も――大好きだから」

「良かった良かった♪ 残りはタッパーに入れて冷やしてるの。

 そこまで冷蔵庫の場所取らないし大丈夫かなって」

「本当、ありがと……」

そして先程お粥を食べさせた時のように、

正也の口に一口ずつ、運んでやる。

「うん、甘くて――すごく おいしいよ」

「おいしいよね桃、汁もおいしいし、飲めそうならこれも」

それから正也は汁も含めて完食した。


「……まだまだ体調かなり悪そうだけど、ちゃんと食べて飲める

 みたいで本当に良かった……雪紀兄が持ってきたのも

 遠慮しないで 無理のない範囲で ちゃんと食べて飲んで

 しっかり休んで、早く良くなってね」

「ありがとう……お兄さんにも、よくお礼言っておいて」

「うん、了解っ」

「良いお兄さんだね」

「……そうだね……雪紀兄は……ああ見えて

 結構気ぃ遣ってくれてる所もあるしね……」

「――頼りになるお兄さん、か……そういえば、いくつなんだっけ?」

「え? ああ……1学年上……」

「――ああ、年子なんだ……

 俺兄弟いないし、兄弟いるのって羨ましいな」

「そうなんだ……実はね私、

 雪紀兄がいなかったら――この街にも来なかったんだ」

雷音はふと落ち着いた表情を見せる――


「え……?」

「色々あって――雪紀兄がいたから、私達はこの町に来た……

 今、出会えた人達は……雪紀兄がいてくれたからこそ、会えた

 人達――改めて考えると不思議な縁、だったかもしれない……

 その頃の自分の事考えて、思い返して――今日になって――

 思い出した……!! 此処に来て初めて話した男の子――

 幼い頃の 木間君だったんだ、って――」

「……!! ――思い出してくれ……ちゃった……か……」

「ごめんなさい……それといけない事だと思ったけど

 引き出しの中の、昔私が描いた木間君の絵も見ちゃって……

 私……忘れちゃってたし……同じ人なのに

 認識もできてなかった……! それに私……昔、木間君の夢を

 否定した……! 酷い事言って……本当にごめんなさい……!」

雷音は正也に向かって――深く頭を下げる。


「そんなっ……空原さんは謝る必要ないって!!

 そもそも俺が最低な事言って傷付けて――本当に申し訳ない……

 ずっと迷惑ばっかりかけて……!」

「ううん、私……昔の木間君に対して、失礼な態度ばっかり

 取ってたよね……なんていうか、素丸出しで……言葉も態度も

 酷かったと思うし、あの頃は呼び方も失礼だった……」

「それは俺の方だよ……! 本当……あの時は相当な悪ガキで

 いっぱい悪戯ばっかりしてて……その矛先、隣の席だった

 空原さんの事も多かったから――空原さんの対応は間違って

 なかったって!」


「……でも木間君は――私の事誉めてくれてた事もあったし

 途中から 私の事ちゃんと、名前で呼んでくれてたでしょ?」

「……それはそう、だけど……

 ――好き勝手やってたのに巻き込んだ事も、だけど……

 本当にごめん、ずっと――謝りたかったんだ……

 あの日、空原さんの大切な夢を――否定した事」

「……でも、片方は――否定してなかったし……

 私だって……あの時、木間君の子どもの頃の夢、否定した……!」

「……俺のは非現実的だったし 仕方なかったと思うから

 気にしないで……! でも俺が否定しちゃった空原さんの夢は――

 女の子にとって すごく大切な夢だったと思う……その事なんだけど

 ――今更だけど、あの時の言い訳……聞いてくれるかな……?」

「えっ……? うん……」


「本当は、あんな事言うつもりなんてなかった……

 あの頃の俺は――上手く自分の気持ちコントロールできなかったし

 上手く伝えられなかったけど……実はあの時の俺、

 空原さんの夢を聞いて、勝手に淋しくなっちゃって……」

「……え……??」

「空原さんは、素敵なお医者さんのお嫁さんになるから、

 俺は――もう一緒には いられないんだなって思って……

 それに――悪戯ばっかりしてた俺が、そんな資格ないけど、

 楽しそうに話してたナオに、一方的に――ヤキモチ焼いちゃった

 のと、他の男子に 俺の方が空原さんの事よく知ってるんだって、

 マウント取りたかったんだ…………だって俺は――空原さんの事が

 大好きだった……空原さんは、俺の初恋だったから」

「……え? ……えっ……?? ええっ……!?」

正也からの告白に――雷音は思わず赤面する。


「……あれ……? ……驚いた……?」

「驚くよ!? ちょっと、ちょっと待って木間君……!!

 あの時の私、特に木間君には素丸出しで……

 そんな 好きになってもらえる、なんて……」

「……最初は反応してくれるのが、単純に嬉しくて楽しくて……

 でもそれだけじゃなくて、少しずつ、空原さんの事知っていって

 ……可愛いだけじゃなくて、優しくて しっかりしてて尊敬できる

 所もあるし――ずっと一緒にいられたら良いのにって思っちゃう

 ようになっちゃって……でも、昔の俺は照れくさくて、素直に

 そうは言えなかったんだ……それと俺は――誰かを好きになったら

 そういう、自分では自分の欠点だって思っている所も

 愛おしいって思えるものだと思うし、

 俺は 誰かを好きになるって、そういう事だと思ってるよ」

そう言って、正也は優しく微笑んだ。


「……えっ……えっと……そのっ……」

正也からの言葉攻めに

雷音は赤面したまま、上手く言葉が出ない様子だった……

「……かわいい……」

「えっ……!?」

「……あっ、ごめん……つい本音……勝手に一方的に告白しちゃって

 ごめんね、でも 2人きりで こんなにゆっくり話せる事って

 これからないと思ったから、今のうちに伝えたいって思ったんだ

 ……あの時伝えられなかったけど、空原さんは魅力的な女の子

 だって、でも――安心して……ちゃんと過去形だから、困らせたくて

 言った訳じゃないんだ……それに、空原さんが 自分の欠点だって

 思っている所も ちゃんと知った上で お嫁さんにしたいって思う人、

 絶対いると思うから……今は出会えてなくても、未来には

 絶対に会えるよ。それは伝えたいって思っただけで……

 俺の事は変に意識しなくても大丈夫だから、気にしないで」

「……えっと……とにかく……あり……がとう……」


「――柄じゃないよな、俺が――こんな事言っちゃう、なんて」

「え……?」

「……こういう事言っちゃうの、普段の優等生な感じの

 俺のキャラじゃないっていうか……でも、普段の俺じゃない

 時の幼い頃みたいな時の俺も――残ってて、出ちゃう時もある

 っていうか……そういう所、今でも残ってるって言ったら――

 やっぱり引く?」

正也は雷音を真剣な目で見つめる――

「――え……? どうして……?」

「たまに自分の事が分からなくなる……そういうのは、

 やっぱり――俺らしくは ないんじゃないかって」

「――そうかな? ……私は全然アリだと思うけど」

不安そうな正也に対し、雷音は笑顔を向ける――


「え……?」

「さっきの言葉とか……昔の木間君とか……今の普段の木間君とは

 違う一面だなって思ったけど――人間、誰だって普段なかなか

 表に出てない部分はあると思うし、私は――今まで木間君の事、

 優等生キャラって思ってたけど……今日思い出したり、今日

 知った他の部分も全部含めて 木間君、そのものなんだから――

 自分らしく、とか――その人らしく、とか――自分自身の事って

 周りの人にも……きっと……自分にも――100%完璧には

 分からないものだって思うし……そういうのに囚われないで

 その時の自分がそうしたい、って思う通りに動けば良いと思うな」

「……! ……やっぱり――似てる……」

「え……?」

「ごめん、なんでもない……

 だってあの子には――兄なんていないはずだし」


「……それにしても木間君――何かあった?」

一方、雷音は心配そうに正也を見る――

「え……?」

「あっ……言いたくない事なら言わなくても良いけど……

 なんてゆーか……ここまで酷くなるまで頑張って、無理してて

 ……悩みとか あったのかなって……

 あっ、余計なお世話だよね? ごめん……」

「そんな事ない……なんていうか、その、俺……

 最近――失恋、しちゃって……」

「……えっ!?」

正也の口から失恋という単語を聞いた雷音は驚く……


「……皆が知らない所で、だし――初めてって訳でもないけど」

「そう……だったの?」

「――信じられないのも、無理ないかな……マサにもバレてないし

 秘密にして欲しいんだけど……その子の事、すごく、すごく――

 好きだった……ダメ元で告白して……付き合う事はできなくて――

 それは色々仕方なかったと思うし……必然だったって思う……

 それよりも……俺が告白しなければ、あの子の“世界”を

 奪う事もなかったんだろう……そう 思い返す度に、苦しくて

 ……時間なんて、戻せる訳ないのに――そもそも俺なんかと

 会わなきゃ……関わらなきゃ、こんな事にはならなかったのかなって

 ――すごく申し訳なくて……それなのに、俺は まだその子の事が

 すごく好きで、どうしようもなくて――自暴自棄になってた」

「……そう……だったんだ……詳しい事はわからないけど、

 木間君、自分の事責め過ぎてるんじゃないかな……

 告白する事って すごく勇気もいると思うし、相手に

 好意を伝えた事自体はいけない事ではなかったと思うし」

「……そう言ってくれて ありがとう……でも女子的にはどうなのかな?

 やっぱ告白断った男に そういう感情抱かれるのって迷惑かな??」

「そんな事はないと思うよ……本気だったら

 そんなに簡単に、割り切れるはずないっ……!!」

雷音は一瞬、涙を流し掛ける――

だが、それを必死に抑える――

自分の中の、割り切れない思い……“彼”に対する想い――


「……空原さん……?」

「なんでもない……でもね、きっと――

 木間君に想ってもらえて幸せだったと思うよ、“その子”」

「そう……だったら良いんだけど……でも――それでも

 その子の幸せは……過去形じゃ、ダメなんだ……

 その子には、これから……誰よりも幸せになって欲しい――

 その子が、その子の事を幸せにできる人に出会えて、

 笑顔で生きてくれる事――それが、俺の願いなんだ……

 俺にはきっと、その資格もないし――俺は怒らせてばっかり

 だったから――早く忘れなきゃいけないって思ってるんだけど

 ――でも1つだけ――その子の為にできるかなって

 事したら……かなり空回りしたかもな」

「……それって――??」

「勉強。」


「……へ……??」

雷音は、思い掛けない答えに――間の抜けた声を出す――

「訳分からないと思うけど、

 今の俺にはこれしかないって思ってさ」

「……ふうん……あっ……! 勉強って言ったら、私――

 木間君に聞きたい事あったんだけど――昨日、もしかして

 机の上で寝た??」

「えっ……!? なんで分かったの!?」

「やっぱり布団乱れてなかったから、

 布団敷いた後、勉強しながら寝て――それで、こじらせた?」

「……ご名答……」

「……勉強頑張る事、悪いとは言わないけど――

 体壊したら、“その子”も悲しむよ?」

「う……そう……かもな……」

そう言って、正也は罰の悪そうな表情を見せる――

「それにしても……意外って言ったら悪いけど……

 勉強が恋人……みたいな印象だった木間君が

 こんなに好きになった人って――どんな子なんだろ……」

雷音は――そんな事を思いながら、正也を見る――


「……こんな話まで聞いてくれて本当にありがとう……

 今日改めて、思ったよ……空原さん、気配りできるし

 咄嗟の対応も本当の看護師さんみたいで頼りになって

 すごくかっこよかった……それに料理も上手いし――

 男子にも人気なの、納得した……

 っていうか、彼氏でもない俺がこんなに色々してもらったって

 バレたら……男子全員敵に回すかもしれないな」

「そんな事ないよっ……木間君褒めすぎ……」

雷音は正也の台詞に――また照れてしまった。

「……くすっ……」

「あ~! 木間君、今笑った!?」

「ははっ……ごめんごめんっ……

 やっぱり空原さん、可愛いなって……」

「……もう……またそういう事を軽々と……

 ……じゃあ 片付けと洗濯したら、帰るね」

これ以上照れた表情を見られたくない事もあり、

雷音は空の器を盆の上に乗せる。

「えっ……あっ……すまないな、何から何まで――」

「……たまには良いんじゃない? 全部誰かにやってもらうのも……」

雷音は笑顔で返す――

そして、立ち上がろうとした瞬間、正也が――腕を掴む。


「……木間君?」

「……空原さん……本当に、ありがとう」

そう言って、正也は微笑んだ――……

『ありがとう』という言葉……

今日だけで、何回聞いたのか分からない程、正也が発した言葉――

それでも、この時のこの言葉は、今日自分の世話を焼いてくれた

雷音に対する全ての感謝が込められているようで――

その言葉の重みを、雷音は感じられたのだった。


「……変な話かもだけど、私 木間君の看病できて、良かったと

 思うよ? 看病しがいがあったし、そんなに感謝されたら

 やっぱり嬉しいなっ♪」

雷音は笑顔を見せる――……

「……!!」

正也は一瞬、はっとした表情になり、俯いた――

「……どうしたの?」

「不謹慎……だよな……嫌な気分になったらごめん……

 本当……失恋した所じゃなかったら、俺――……また昔みたいに

 空原さんの事、好きになってたかも……って――……」

「え……? なっ……」

そう言われた雷音は、動揺してしまう――


「……って……ごめんっ!!

 本当、何言ってるんだろ、俺……忘れてくれ……」

「……忘れないよ、そう言ってくれて、すごく嬉しいもん……

 嫌な気はしないから、ありがとう……

 じゃあ片付けてくるから――そこの薬!!

 1錠ずつね! ……水多めに用意しといたから!!」

既に、正也の枕元には――薬と水が、きちんと用意されていた――

「うん……ありがとう」

そして、雷音は――逃げるように、寝室の扉を閉めた……。



「……何!? なんなの!? 木間君ってあんな言葉攻めする

 タイプなの!? 褒め殺し羞恥プレイ!? ああもぉぉぉ!!

 なんでこんなにドキドキしてるの!? ……素の私知ってる上に

 木間君の進路知っちゃってるから!? ……だから考えちゃって

 る!? ストップ……妄想ストップ……!! 落ち着け……

 落ち着け私……! 褒め言葉は有難く受け取る、として……!

 あれは過去形! 告白されたけど、過・去・形!!

 今木間君、木間君振った どこの誰だか知らないけど! その子の

 事 大好きっぽいし!? 心臓おさまれ! おさまれ……!」

1人になった雷音は――心の中で言い聞かせる……。

正也から受け取った数々の褒め言葉、そして――自分が正也の

初恋であった事。それを思い返すと自然に――鼓動が高まる。

自分に対する正也の恋心……それはあくまで過去形である、と

言い聞かせ、平静を取り戻そうとする……


「……木間君振った子って……本当誰なんだろ……

 噂になってない辺り、他校生っぽいな……

 でも あの優しい木間君が怒らせてばっかりって何!?

 何なの その子!? その子めちゃくちゃ性格悪いんじゃないの!?

 大丈夫なの木間君!? でも木間君は大好きっぽいから……

 女子的にも良い子、なのかな……? なんか……あんなに

 一途に想ってるのに……報われてないのは……切ないな……」

それから 片付けや洗濯をしながら気持ちを落ち着かせ――

洗濯物を持って正也の元に戻る事にした。

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