chapterⅩⅤ identity -正体- Ⅱ
寝込んだ正也の食事を 雷音が手伝ったり、正也の家に ある人物が訪れるお話です。
「木間君、着替え終わった? 入って平気??」
「あっ……うんっ……大丈夫――」
それから正也の着替えが終わる頃、雷音は軽くドア越しに確認する――
「じゃあ、入るね?」
「……もうできたのか?」
「うんっ! 木間君の口に合うか、分かんないけど」
雷音が持つ盆の上には――温かそうなお椀が乗っていた。
「そんなっ……気を遣わないでくれ……
本当にありがとう……それにしても すごい速いな」
「これ、起きる直前に ほとんどできてたの……そろそろ起こして大丈夫かな
って思ってたから……って それより木間君――ちょっと、じっとしてて」
「え? どうしたの、空原さん……!?」
――雷音はいきなり、正也のパジャマのボタンを外し始めた。
「……ボタン、かけ違ってたから……いつもの木間君なら
絶対しないミスだよね……今もかなりボーッとしてたり
そもそも……指に上手く力入らない感じなんじゃない?」
そして、正しくボタンを直してやった。
「……! 何やってるんだ、俺……情けない……
自分が……恥ずかしすぎる……」
「それだけ今、木間君の体、大変な状態なんだよ……
それと食べる前に――肌少し休めたし、少しでも楽なように
額冷やすね……前髪あげてもらってもいい?」
それから雷音は正也の額の汗を拭い、冷却シートを貼ってやる。
「……何から何まで……本当にありがとう……」
「――これなら のど通りやすくて食べられるかなって
用意してきたんだけど――」
雷音は――そう言いながら、お盆に乗せたお椀の蓋を開ける――
「わっ……卵粥……? おいしそう……!
ありがとうっ……空原さん……!」
「どういたしまして♪ じゃあ食べる前に――木間君は
少しでもましなように さっきみたいに これでのど冷やして。
後、スポーツタオルね。汗すぐ拭えるように首にかけておいて」
そうして雷音は正也にタオルでくるんだ保冷剤とスポーツタオルを手渡した。
「え……あっ、うん、ありがと……」
「……ふー……ふー……はい、あ~んして」
「うん、あ~……――……え……?? むぐっ……」
驚く正也をよそに、雷音は正也の口に一口分のお粥を放り込む。
「……どう? 食べられそう……?
食べにくかったり まずかったらごめんね」
「まずくなんてない! 丁度良い味付けで
のど通りやすいし、すごくおいしいよ」
「のど痛いのも……大丈夫?」
「うん、冷やしてるのもあって、かなり楽に食べれてる」
「温度加減も これくらい?」
「うん、熱すぎず冷たすぎずで、丁度良いよ」
「そう? なら良かった~じゃあ、続きね」
「……って……! ちょっ……! ちょっと待って……!
何してるの空原さんっ……!?」
正也は――雷音が口で冷ました お粥を
雷音の手から直接食べてしまった事に動揺していた。
「え? 何って……看病?? あっ、水分挟んだ方が良かった?
ごめん……そこまで気が回らなくて……」
「違う! そうじゃなくて……その、食べさせるのって普通は……!」
「んー……なら私が冷やすのと、汗拭く係やった方が良かった?」
「いやいやいや! そこ諦めていいから!! 俺大丈夫だから!!」
「でも、冷やしながらの方が楽に食べれるでしょ?」
「もちろん、俺的には……すごく助かるし気持ちは嬉しいけど……
色々申し訳ないというか……」
誰かの手から食べさせてもらう……それは正也にとって、子供や老人、
家族、そして――恋人という間でしかしない行為だろう、そう思っていた。
「……でも、手に力入りにくそうだし、倦怠感も すごいでしょ……
それに今も うとうとしてて眠そうだし……
正直……こぼしちゃわないか心配かな」
「それは……うう……否定できない自分が情けない……」
「だから、遠慮しないで」
「……すまない……ありがとう……」
それから再び、雷音は正也の口にお粥を放り込み
水分を挟みながら、半分くらい食べ終えた。
「……木間君、残り半分は――今、食べる?」
「えっ? おいしいし、正直まだまだ食べたいんだけど――」
「……無理してない? 私に気ぃ遣って完食しようとか
思わなくていいから! 後で吐いたら大変だからね!」
「――それはないよ……今、普段より食欲落ちてはいるけど、
俺……普段結構食べる方だし」
「だったら、残りも今――醤油も好き?」
「うん、好き、だけど――??」
「ちょっと味変するね」
「アジヘン……??」
「味の変化で味変、ね」
「わっ……それもおいしそう……!」
そうして雷音は残りのお粥に少し醤油をかけ、再び正也の口に運ぶ。
「……醤油味もおいしいね」
「口に合うなら、良かったよ」
それから、正也はお粥を食べ終えた――
「……ごちそうさまでした、すごくおいしかった……本当に ありがとう」
「今は大丈夫そうだけど、吐きそうになったら枕元のビニール袋ね!
それともうすぐデザート届くんだけど、食べる?」
「うんっ……! えっ……デザート……?? 届く……??」
「あっ着いたみたい、木間君は横になって待ってて!」
「えっ……空原さん……??」
そして携帯の着信音を聞いた雷音は
玄関に向かって行った。その後――玄関の扉が開く音がする。
「……って俺の家、デザートなんて贅沢品、ないよな……?
届くって言ってたけど……今の音、もしかして……?」
不思議に思った正也は、ふらつく足取りで玄関の方へ進む……
すると、そこには――雷音と同じ髪の色、目の色――
雷音と似た風貌の少年――その姿には……正也も見覚えがあった。
「ありがとっ♪ 雪紀兄っ☆」
「ああ、ちゃんと持ってきたぜっ!」
それは、雷音の従兄である雪紀――雷音は携帯電話を使って呼び出し、
必要な物を持って来るよう頼んでおいたのだった――
「本当助かった~! これで――って木間君っ!?」
「あ……もしかして……空原さんの……??」
「え? ああ、確か……同中って話だよな?」
「あ……うん……」
2人の前に正也が姿を見せる……
雪紀は、雷音の顔色を伺い――確認する。
「?」
「“兄”の雪紀、こんばんはっ!」
「あ……こんばんは……その……すみません……妹さんお借りして
しまって――それに……来てくれたのも……っ……!!」
「木間君っ!? ……もうっ……良いから布団に戻っててよっ!!」
雷音は急いで咳込む正也に駆け寄る……
「あー……成程な……雷音が目が離せないって言ってたの、
納得したぜ……それだけ酷そうなら、俺使うのも納得だな」
「……すみません……なんか……気遣って頂けたみたいで――
空原さん……お兄さんが来てくれたんだし、帰っても……」
「絶対嫌。」
「え……でも……」
「今日は私、自分の仕事全部終わらせるまで
木間君の家に居座るって決めたの」
雷音はそう断言した。
「ははっ☆ やっぱり雷音は親父とおふくろを血ぃ継いでるよなぁ」
そう言って 雪紀は微笑む……
「え? けど……もうこんな時間だし……
よく考えたら空原さんの分の ご飯……」
「――ああ、それは大丈夫だぜ? 人ん家の米食べるの、
味見以外じゃしないだろーからな、ほれ雷音っ」
雪紀は、雷音にラップに包まれたおにぎりを渡す――
「ありがと、雪紀兄♪」
「それより――お前、こうなった雷音は病人が何言っても
看病する奴だから、諦めて甘えとけ☆」
雪紀は、正也に向かって笑顔を向けた。
「え!?」
「そういう事っ☆」
「じゃあ、お大事にな~♪」
「あっ……ありがとうございました!!」
「じゃあ後でね~☆」
それから――雪紀は姿を消した。




