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chapterⅩⅤ identity -正体- Ⅰ

目覚めた正也と 引き続き正也の看病をする雷音の お話です。

「…………はぁ…………はぁ…………」

「……そろそろ薬も切れてきてそうではあるけど……

 薬なしでも少しは――落ち着いてきてるって思って大丈夫かな……」

正也が倒れてから、既に数時間――

正也が眠っている間――雷音は彼の看病を続けていた。

その甲斐もあって、正也の容態は少し落ち着いてきていた。


「汗は相変わらず すごいし、まだまだ熱は高いけど……

 倒れた時よりは呼吸も脈も大分落ち着いてるし、うなされなく

 なって……ちゃんと休めて眠れてるみたいで――本当に良かった……」

そして正也の頬に、氷水で浸したタオルを絞って汗をぬぐった

その時――……


「――……んっ……――……???」

頬に触れた、その冷たさに気付いたのか――正也は瞼を開く。

意識は朦朧としながらも、正也は目を覚ましたようだった――

「――良かった……木間君……気が付いた?

 私の事、分かる……?」

「――空原……さん……? ……確か……俺――……

 って!? うわぁぁぁっ!? くっ……9時半っ!?」

「あっ! ダメっ! ……急に起きたら―」

雷音が言うより先に、

壁の時計を目にした正也は、勢い良く飛び起きる――……


「ううぅっ……よ……しゅう……やら……な……きゃ~」

勢い良く起き上がった正也は――

上手くその状態を保てず、後ろに倒れ込んだ。

「……もうっ! 何言ってるのっ!? 寝ぼけてるのっ!?

 それとも その体で勉強するつもりなのっ!?

 予習なんてしなくていいから!! ――少し……落ち着く

 時間が必要かもね……無理に起き上がらなくていいから

 ……今はひとまず横になってて……何があったか……覚えてる?」

「……ごめん……確か……帰り道で倒れかけて……医者行って

 ……点滴受けて……その後……家に着いた時、意識が途切れて……

 その後は……記憶が朧気っていうか……もしかして今まで――」

「……意識朦朧としてた感じの割には、

 ある程度は記憶はあったみたいだね」

「――かたじけない……

 今までずっと――看病してくれてたの……か……?」

「そりゃあね……倒れた木間君、放っとく訳にはいかないもの……」

雷音は優しく微笑む――


「……最悪だ、俺……あの時、後もう少し――意識あったら、

 空原さんを帰らせる事もできたのに……それに……早退して……

 一人で寝てたら……空原さんの事も巻き込まなかった……!

 本当に、ごめん……迷惑ばっかりかけて……俺、最低だ……!」

「……木間君……最悪とか……最低って……何がなの……?」

一方、自分を責めて必死に謝る正也に――雷音は静かに問う。


「えっ……?? それはもちろん、空原さんに迷惑かけた事――」

「……木間君、覚えてないかもしれないけど……

 発作起こした時……すごく辛そうだった……!!

 あの時は私がしっかりしなきゃって思って必死だったけど――

 本当は……本当は怖かった……!! もっと酷くなったら、

 発作の薬使っても良くならなかったらって……そう思ったら……!

 それに大げさかもしれないけど、木間君1人だったら、助けも

 呼べなくて……もっと大変な事になってたかもしれないんだよ!?

 私にとっては、そうなる事が最低で最悪だった……!!」

「……空原さん……」

「迷惑だって勝手に決めないで……! 大した事はできなかったと

 思うけど、私が少しでも木間君の助けになって、少しでも

 よくなったなら本当に良かったって思うから……」

「大した事だよ……! 空原さんが看病してくれたから……

 すごく楽になった……でも……さすがにこんな遅い時間まで

 付き合わせた事は申し訳ないよ……」

「ああ、そこは大丈夫。家近いし、家にも連絡入れてるし――」

「……でも、もう大分良くなったし、空原さんは安心して……!

 もう家帰っても……」

「嫌。」

遠慮する正也に対し――雷音はきっぱりと拒否をする。


「えっ……」

「だって、木間君が起きてからしようと思ってた事、

 色々まだ全然終わってないし……」

「それは後で、俺と母さんでも――」

「……木間君が同じ立場だったら、帰ってた?」

「それは……」

「私の事頼ってくれる方が、私に甘えてくれる方が

 私にとっては嬉しい……って言っても?」

「それは……!」

「――だったら拒否権はなしね♪」

「……俺の負けだよ……ありがとう、空原さん」

自分がどれだけ遠慮しても、雷音は自分の看病を続けようとする――

それに雷音の様子から、嫌々している訳でもないと

感じた正也は、諦めて雷音の厚意を受け入れる事にした。


「じゃあ、ひとまず……

 ゆっくりで大丈夫だから、起き上がれる……?」

「うん……」

そう言いながら、正也が起き上がろうとすると――

「あ……ありがと……」

雷音は無言で、正也の背中を支えていた――


「水分とれそう? 辛いと思うけど、寝てる間も

 すごく汗かいてたから――それと痛み止めも

 先に飲んだ方が良いかもね」

「うん、大丈夫……」

「ちょっと待ってて、保冷剤取ってくるね」

そして雷音は、すぐに冷凍庫から保冷剤を持ってきた。

「……ありがと……――これ……あの時俺が

 我儘言ったから、用意してくれたんだよな」

「え? ううん、我儘じゃないよ! それよりごめんね、

 いくら水分補給が大事だからって、木間君が眠っちゃう前の私、

 木間君が のど痛くて飲むの すごい辛い事まで気が回らなくて――

 鎮痛剤飲んでても、のど すごく痛い時って すごく痛いよね」


「そんな……! 空原さんが謝る事ないよ……それより発作の

 時の事……色々記憶曖昧な所もあって申し訳ないんだけど――

 俺、かなり様子おかしかった……よな……?」

「……まぁ、あれだけ酷い状態なら、いつもと様子が違っても

 不思議じゃなかったと思うけど……」

「……発作の時、すごく助けてくれて……本当にありがとう……

 それに水分とらせてくれたり、背中拭いてくれて、それ……

 それと……頭っ……!! ううぅ……うぁぁぁぁ!!!

 ごめん! 我儘も変な事も言いまくってたよな!?

 穴があったら埋まりたい……本当にごめん!!」

「――ああ、そこも記憶残っちゃってたんだ……びっくりは

 したけど、変じゃなかったって! 気にしないで!!」

「……気にしない訳ないよ……最悪だ……

 空原さんに何をさせてるんだよ、俺……」

正也は――発作や高熱のせいとはいえ、雷音に我儘を言ってしまった事、

頭をなでるよう ねだってしまった事……それは夢ではなかった、

現実で起こった事だと改めて認識し――悶絶していた。


「……そんな大した事はしてないと思うし」

「……俺にとっては、大した事だよ……空原さんが

 ああしてくれる前は すごく悪い夢、見てた気がするけど――

 その後は、安心して よく眠れてたと思う……」

「……だったら良かった……それに私、嬉しかったよ」

「え……?」

「明らかに無理してたの分かってたから……

 本音教えてくれて、甘えてくれて……」

「……完全に言い訳だけど……あの時の俺、精神状態が 小さい

 子供になってた感じで……それで……その……また眠る前に俺……

 あれ……?? 空原さんに……なんて言ったんだっけ……」

「ああ……ありがとうって、お礼言ってくれてた」


「――あの状態の俺、嫌な気持ちになるような事とか

 失礼な事言ってなかった!? 大丈夫だった??」

「……大丈夫だよ、むしろ嬉しかったから心配しないで

 その件に関しては……お世辞でも、嬉しくもらっておくね」

「お世辞な訳ないよ!

 あんな状態で お世辞考えて言える余裕なんてないし」


「……この様子だと……本当にあの発言は覚えてないみたいね……

 ……今の木間君に下の名前呼び捨て&綺麗&お姉ちゃん

 呼びされたのは……なかなかの破壊力だったし、びっくりした

 ……けど……そんな事言ってたって言ったらまた悶絶しそう

 だから、ひとまず秘密にしておこう……」


雷音はその時の正也の様子を思い出しながら、心の中で呟く……

意識が朦朧として幼児退行していた正也が、雷音に対して

「らいね みたいな きれいな おねえちゃん」と言った事を。

今の正也は覚えてないようだが、はっきりとお世辞な訳がないと

言っている……その事を、雷音は嬉しく感じていた。



「じゃあ次は着替えだね、体の前に顔拭いて――

 少し肌休めるから、冷却シートは剥がすね」

「……ありがとう」

それから雷音は正也の額の冷却シートを剥がし、

氷水で絞ったタオルを渡す。


「次は体――体の方はお湯で拭くね――すぐ用意するから待ってて」

そして雷音は温水を用意し戻ってくる。

「……木間君、前は自分で拭けそう?

 その間に後ろはやっておくから」

それから雷音は正也の背後に回る。


「……それはもちろん……それに、その……

 空原さん……? 背中も俺、自分で――」

「背中、自分じゃ拭きにくいでしょ?

 迷惑じゃなかったら、私がしても良いかな」

「迷惑じゃないよ……でも、その……なんていうか……

 発作起こした時に背中も拭いてくれて……もう知ってる事だけど

 ……ごめん、俺の背中――グロテスクっていうか……見ていて

 気分よくはならないだろうし……びっくりしただろ?」

正也は――自分の背中の古傷の事を気に掛けていた。

「……木間君が謝る事じゃないよ、

 それより……タオル当たっても大丈夫?」

「うん、古傷で今はあたっても痛みはないから……ありがとう」


「……」

雷音は無言で正也の背中を拭いていく……精神的に幼くなっていた

正也の背中を拭いた時にも見た、いくつもの傷――

そして、いくつもの火傷の跡。……何度も人為的に付けられたもの――


「それに……他人の悪意とか……殺意のない痛みなんて……

 今と比べたら……ずっと楽な方だから……」

「……おとうさんが……なぐったり……けったり……

 きったり……たばこおしつけた……」


その言葉がよぎる――

魘され、謝っていた正也の様子を思い返しながら――

雷音は複雑な思いで、痛々しい傷跡を見る――……


「……子供の時に……さ……

 『お前なんか生まれてこなけりゃ良かった』って……」

ふと、正也が沈黙を破る――……

「……え……?」

「――父親に何度も言われて、そうやって、何度もやられた」

「……!!」

「たまに……自分が何者か分からなくなる……

 自分が――この世界に存在しても許されるのか、分からなくなる……」

「……――木間君……っ……」

「――空原さん……? ……!?」

震える雷音の声を不思議に思った正也が振り向くと――

雷音の両目から、涙が零れ落ちていた……


「……ごめん……! やっぱりこんな体、自分じゃなくても

 痛々しくて見てるだけでも辛いよな!?

 それに、聞かれてもないのに いきなり自分語りなんかして……!」

「違う……違うの……!! ……謝らないで……! 木間君は

 悪くない……それに――木間君は……木間君だから……

 言わないで……そんな事……存在しても許されるか分からなくなる

 なんて……!! 上手く言えないけど……木間君が……生まれてきて

 ……友達になれて……私は……嬉しいって……思ってるから……」

「……ありがとう」

雷音の頬に、熱い指先が触れる――

雷音の頬を流れる涙を、正也がそっと拭う――……


「そう言ってもらえて、すごく嬉しいから……

 ――だから、泣かないで」

正也は幸せそうに微笑んだ――


「……木間……君……?」

「……っ……!? ……ごっ……ごめんっ……今俺っ……!!」

名前を呼ばれた正也は我に返り、慌てて雷音に謝る――

「えっ……」

「早く泣きやんで欲しいのに、俺の為に泣いてくれて……

 嬉しいなんて――矛盾してるよ……な?

 ……やっぱり……今日の俺……変だよな……ごめん……」

「――そんな事ないよっ……あっ……涙、もう大丈夫……

 びっくりさせて、ごめんね」

「……それなら良かったよ」


「……あれ……?」

「――どうしたの?」

「ううん、なんでもないっ……じゃあ、続き拭かせてもらうねっ……」

「……ありがとう」

そうしてまた、正也は雷音に背を向ける――


「――なんだろ……さっき……木間君に触れられて……

 安心したような気もするのに……――ドキドキして……

 私の方が……矛盾してる……」

雷音は心の中で、そう呟いた――


「……なんだか……変に懐かしいような……なんだろう……

 なんだろう、こんな気持ち……あっ……!! 分かった……!!

 “萌え”だ……!! そりゃ上半身裸で微笑むって

 なんかエロいもんねっ!! なんてゆーか“受け萌え”的な!?

 そう! そうそうそう!! あんなに弱ってる木間君って

 受けっぽいし!? 汗だくで真っ赤な顔で微笑む……とか

 そういうシチュエーションって なんてゆーか!? うん!

 ドキドキして普通だよねっ!! ……私おかしくないよねっ!!

 私は今、木間君に萌えている! そう! そういう事だ!!」

――雷音は自分にそう言い聞かせながら、正也の体を拭き終えた――


「はい、背中終わったよ」

拭き終えた時には雷音は、すっかりいつもの調子に戻っていた……

「ありがとう、本当に」

「……ここから下は、さすがにセクハラになるから

 控えておいた方が良いかなって思うんだけど……」

「ああ、気遣ってくれてありがとう、自分で拭けるし

 気にしないで」

「着替えはこれで大丈夫そう?

 パジャマと下着、勝手に用意したけど」

「……! わざわざ ありがと……

 パジャマたたんでくれて、それに……その、下着も……」

「……木間君は気にするかもだけど、緊急事態だし

 私は年が近い男の家族がいるから気にしないんだよね……

 じゃあ私は ひとまず出て行くから、次入る時は念の為ノック

 するね……それと何か食べられそう? 吐き気とおなか大丈夫?

 少しでも食べられそうならって思うけど……」

「うん、そっちは平気だし、軽くなら――」

「分かった、じゃあ脱いだのは後で洗っておくから、そこに置いておいて。

 お湯もおいてくれてたら良いから、終わったら横になって待っててね、

 眠っちゃっても大丈夫だから」

「……ありがとう」

そうして雷音は台所へ向かい――……寝室に繋がるドアを静かに閉めた。

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