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chapterⅩⅢ conflict -葛藤- Ⅳ

「お待たせしました!! では、今日もクエストに――」

椿が待ち合わせ場所に着くと、既にそこには――蓮の姿。

「いや、創造者からの命令で――今日はクエストはなしだ」

「……え……??」

予想外の言葉に、椿は驚く――

「――その代わり――付いて来い!」

「へっ……? きゃっ……!?」

蓮は思いきり椿の手を引き――2人の体は光に包まれ……

別のエリアに転送された。




「……?? ……わぁっ……!」

光が晴れる――

そこに広がるのは、一面の銀世界。

降り積もる雪、降り注ぐ雪――

それは、椿が望んだ物だった――

「すごいですっ……!! ――これ……雪ですよね??」

「そうだ……てめぇが望んだから――創造者が用意した……

 此処は特別エリアだ……モンスターも何もねぇ……

 ただ、これだけが――でもやけに用意が良いというか……」

2人は足元に視線を落とす。椿の行動パターンを読んでいるのか、

小さな赤い実や葉っぱも置かれていた――


「これなら……雪うさぎが作れますっ……!!

 冷たいっ……感触もそのまま――嬉しいですっ……

 ありがとうございますっ……!

 ――これって……この前――」

椿は思い出す――先日蓮が聞いた、椿の“見たい物”――


「……てめぇの返事を聞いた創造者が用意したんだ――

 俺がてめぇに……礼を言われる筋合いはねぇ」

「――それなら また後日、昂さんにお礼を言いますね……

 でも その問いを――私に聞いてくださったのは……

 蓮さんですから、やっぱり、蓮さんにもお礼を言いたいんです

 ――改めて、ありがとうございます」

そう言って椿は微笑んだ――


「……」

蓮は無言のままだった――複雑な気持ちだった……

“創造者の命令”という言葉を真に受けて、

それでも、自分に対して感謝する少女……


本当の事を知ったら……どう思うだろう?

命令じゃない、と言ったら、どんな顔をするだろう?

本当は、道理の為でもないかもしれない――

それも知ったらどう思うだろう――……




「――」

一方椿はしゃがみ込み、雪に手を触れる――

子供のような表情で、楽しそうに雪を固めて雪兎の形を作る――

そんな椿の様子をただ、蓮は静かに見守っていた……


「……雪……か……」

次々と降りゆく雪を眺める――

それは、あくまでゲームの世界の雪であり、偽物である……

だが、それが現実でも虚構でも、舞い落ちる雪も、積もった雪も――

どちらにしろ、嫌いなもの――それには、理由があった……

ある日彼が起こしてしまった事件の所為で、

過去の自分を思い返してしまうから――


『……雪は……“あの日”と“あの女”、思い出すから嫌……じゃないの?』

昂の言葉を思い出す――……

でも……雪の所為であらゆるものが消えた――

悲劇を打ち消すように……“彼”の“暴走”によって

流れ出た大切な人の“血の跡”を洗い流したのも、これだった――

それにはやはり、感謝すべきなのだろうか――



「で……てめぇは何羽作るつもりなんだ……」

蓮が椿に視線を落とすと――いつの間にか、雪兎が大量に作られていた……

「え? あっ……特に、決めてはないのですが――つい、楽しくて……

 でも私――不器用で、あまり自信はないんですが――どうですか?

 兎に見えるでしょうか……?」

椿は立ち上がって、蓮に見せる――


「ああ、十分見える」

「ありがとうございます……ふふっ……もっとたくさん作りたいですっ」

「……」

蓮は複雑な気持ちで椿を見る――目の前の少女は、子供のように

遊んでいて、その無邪気さは……自分にはもう――存在しない……

もう、彼の手は汚れてしまったから――憎しみで暴走して、

その対象者でなく、大切な人に癒えない傷を背負わせてしまったから――


「……はぁっ……」

ふと、椿は地に雪兎を置き、自分の吐息で冷えた手を温める――……

「どうした……?」

「――夢中になって、忘れてました……

 冷たさも、寒さもリアルなんですよね――……」

「……!!」

これは必然……おそらく、創造者の狙い――

今の自分が椿の為にできる事……蓮にはすぐに察しがついた……

その行為はおそらく、創造者のシナリオ通りの行為……

創造者のシナリオ通りに動く事は、いつだって

仕方なくで……嫌々で……初めて会った時の魔力の譲渡も

創造者のシナリオに従った行為だと分かって屈辱的だった……


でも…何時からだろう? 

シナリオ通りに動いても、嫌だと感じなくなったのは――

……それも、創造者のシナリオ通りなのかもしれない……

そう、気付いても……嫌な気はしなかった……

でも分からない……何が自分を変えたのか……


「分かんねぇよ……」

蓮は静かに雪の上を歩く――

雪の上の足跡が、椿の背後で ぴたりと止まる――

「……どうして――……!!」


蓮が呟いたその瞬間――


椿の前に、影が落ちる――

「……!?」

椿の背に、温かい身体が触れる――

蓮は背後から椿を抱き締めていた……

「……蓮さん……?」

「――振り向くなっ!! ……そのまま聞け……」

戸惑い、振り向こうとする椿を止め、蓮は静かに告げる……


「……え……?」

「……こうしたら……温かい……か……?」

「……はい……」

背後に感じる、確かな温かさ……

耳元に かすかにかかる、蓮の温かい息――……

椿は戸惑いながらも、甘い幸福に満たされる――……


「――やっぱり、そういう設定か――だったら……」

そう呟きながら、蓮はそっと椿の手の上に――

自分の手を重ね、指を絡める。

「……!!」

「バカだろ……こんなに冷えるまで気付かないとか、

 どんだけ雪好きなんだ、てめぇは」

「――子供の時以来だったので……

 つい……その……蓮さん……?」

「――なんだ?」

「……温かい、です――」

「……だろう、な」


「その……すみません……」

椿は、蓮の行動が昂の指示によるもの……

そう、思っていたからこそ――

嬉しくても、申し訳ない気持ちが入り混じる――……


「――謝るな……信じるか信じないか……それはお前の自由だ――

 でも、これは……創造者の指示でもなんでもねぇ」

「え……?」


「……これは、俺の意志だ」


蓮は椿の耳元で確かにそう言った……

「……蓮さん……」

「……どうして――こんなに……迷うんだ……」

人と気持ちの繋がり等、求めてはいけない……

気持ちは、絶対的なものではない……

時と共に移ろいゆくもの、儚いもの……

だからこそ、彼は……決して“変わらない”繋がりを、

信じられる繋がりだけを求めていた――

その結果――“家族”に依存した……。

そして“あの日”暴走した――

彼が戦う理由 その償いであり、新城家に“彼”を奪われない為――

そんな、理由。


「リセット……できたら……」

過去は消し去る事はできない――でも、それを望んでしまう……

リセットできないからこそ、彼は――“この世界”に存在できた――

そして今腕の中にいる、1人の少女に出会う事もできた。、

それは、運命の皮肉なのかもしれない――

様々な想いがよぎる中、蓮は椿を抱き締めていた――






それから――

「……今日は、ありがとうございました」

魔法が解ける時間が来る――

「――大して遊ばせる事……できなかったな」

「いえ――雪……すごく嬉しかったですし……

 あったかかったですから」

そう言って、椿は幸せそうに微笑んだ――

「では――また来週……」

「……」

そして――椿は姿を消す……



「……さよなら、言わなかったね」

入れ替わりに――創造者、昂が蓮の前に現れた。

「――それで良い……」

「……じゃあ、来週――同じ時間に

 ……椿ちゃんには上手く言っておく」

「ああ」

蓮は姿を消す――その後、昂は静かに呟く――


「……絶望……するだろうな――

 でも……仕方のない事なんだ……ごめんね……」

それは、“2人”に対しての言葉だった――






「……」

魔法が解ける――椿の体は元の世界……学校の屋上に――

「――綺麗な夕日……」

屋上で、その景色に見とれる――

「――この夕日、現実の蓮さんも……見てたりするのかな――

 現実世界の蓮さんは……今どこに居るのかな……

 ……一緒に見れたら良いのに、な……」


分かっていた……

それが 危険な感情だとしても、思いを馳せてしまう事――

たかがゲーム……人はそう言って、軽蔑するかもしれない、

でも……会いたいと……一度で良いから

“この世界”でも会ってみたいと……思わずにはいられない――

行動に移す事ができなくても、思いだけは……

未消化のままの想いだけは――溶けない雪のように、積もっていた――


けれど、椿はまだ――彼の事の全てをまだ知らない……

それは、残酷な真実……理想とかけ離れた現実――

彼の過去は――きっと……そんなもの――

だからこそ、決意した“彼”の気持ちにも――




「……忘れなきゃ、いけないのに――」

一方――夕日が差す生徒会室で、1人の少年は呟く……

思い返すのは……もう1つの世界の“自分”……

今、此処に存在する“自分”と全く異なる自分――

そして、その手には 魔法のゲームの為の1枚のコイン……

それを見つめて、1人の少女を想い続ける――


「諦めなきゃ、いけないのに……!!」

割り切れない思いに、正也の心は乱される……

“想い”の強さ故、集中できない日々――

悩まされる日々――そんな中

「……っ……くっ……!!」

彼は苦痛の表情を浮かべる――集中できず夜遅くまで勉強する

毎日と、割り切れない気持ちで 眠れない日々を過ごしていた為の

精神的な乱れ、身体的な不調が表立ってしまったようだった……


「――頑張らなきゃ……頑張らないと……俺は――!!」

正也は自らを追い詰め続けていた――

それは、魔法の力などでは解決できない事……


“罪悪感”と“自己防衛”――

そして……

“もう1つの理由”から、起こる気持ち――

それは、確実に……“彼”の心を蝕んでいた――

このお話で物語の前半が終了です。読んでくださった方、本当にありがとうございました!こちらでの後半の再開時期は未定ですがブログ( http://samidarekari.blog.fc2.com/ )では月に1回程更新して、またある程度投稿がたまったら、こちらの更新も再開しようと思います。それとブログでは2月いっぱいまで人気投票をしてますので、興味のある方は参加して頂けると幸いです!

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