chapterⅩⅢ conflict -葛藤- Ⅲ
椿と雅晴が2人で話す お話です。
「……進路……か……」
放課後、雅晴はふと、真剣な表情で考える――
彼らの通う高校は、中学時代のトップクラスの成績の者達が集う、
進学校である――雅晴がこの高校に通う決意をしたのには訳があった
……それは夢を叶える為の、純粋な気持ちではない――
ただ何かに必死に取り組んで、「その事」を忘れたかった、
そして、自分と1人の少女の事を噂する人間が少ないであろう
場所に逃げる……その為――
「――村上――……」
心の中で呟く、その名――彼女と自分を噂する世界から
逃げてしまいたい……それが――この高校を選んだ理由……
そう思いながら、雅晴は屋上へと歩を進める――
「村上は……何になるつもり、なんだろうな――」
屋上に着いた雅晴はそう呟いた後、息を吸う――
「~~~♪」
そして、雅晴は歌を口ずさむ。
それは、思い出の歌だった――
大切な人と、繋がりを持ったきっかけとなった歌――
「~~♪ ――?」
曲の終わり、その歌を遮る音に雅晴は振り返る――
それは、椿が屋上の扉を開ける音――
「……あっ……!!」
「――妃宮さん?」
椿はRPG化する為に屋上に向かったが――
予想外の先客に、驚きを隠せなかった……
「……ごめんっ……邪魔しちゃって――練習中みたいなのに……」
「いや? 軽く歌ってただけだし――
あっ、安心しろよ? すぐ消えるから」
雅晴は笑ってそう言った――
「え? そんなの良いよ?」
「……遠慮しなくていーぜ? 何か目的があって――ここに来たんだろ?
おそらく――俺がいたら、気になるだろうし」
「そんな事――」
「隠さなくても、良いから」
雅晴は、真剣な眼で椿を見る――
「……ごめん……でも――」
「――どうして、そう思うか? って?」
「えっ……うん……」
「――考えて、なんとなく 感じるようになったから、かな……
他人の気持ち――」
雅晴は、複雑な表情でそう言った――
「考える、だけで……?」
「まーな、結構勘の部分もあるけど……」
「……勘の部分も、とも思うけど……
やっぱり、誰かの気持ちを考える事って大切だよね」
「……妃宮さんは、十分できてると思うけどな」
そう言って、雅晴は笑顔を見せる……
「そんな事ないよ……考えても分からない事たくさんだし、
上手く対応できない事も多いと思うし……」
「けど、妃宮さんが考えようとしてくれるだけで……思ってる
だけで、救われてる奴も――きっといると思うけどな。
例えば……妃宮さんが気になっている奴……とか?」
「えっ……!?」
「あっ……あくまで勘、だから、な? 悪ぃ悪ぃ、
勝手に一方的に……まぁ、どんな形であれ――妃宮さんと
妃宮さんが気になっている奴、お互いがお互いの事を
想い合えてたら、大丈夫だと思うぜ?」
「……そんな、ものなのかな……」
「……人間関係、初めからお互いの事ある程度よく知った上で
付き合うパターンと、よく分からないまま付き合うパターン……
どっちのパターンもあると思うけど、どっちにしろ、
上手くいくか、いかないかは――そいつら次第って
感じかな……お互いに知らない世界が多すぎたとしても――
お互いの世界を、気持ちを理解し合おうって思えたら――
一方的じゃなくて、双方向的だったら、きっと――」
「――やっぱり、そう……だよね」
椿は寂しげな表情を見せる――
自分の蓮に対する気持ちは片思いだから、一方的だから――
そう思っている椿には雅晴の言葉が、胸に刺さる――
「言わないと……踏み出さないと分からねぇ事もあるし――
保守的で在り続けるか、革命起こすかは――好きにすれば
良いと思うけど、まぁ俺が手ぇ貸すにしろ、此処の奴
じゃなきゃ、なかなか色々難しいだろーけどな」
そう言って雅晴は笑って見せる――
「……どうして……?」
椿はふと、疑問をぶつける――
「何が……?」
「私、そんなに中里君と仲良い訳じゃないのに――
もし、私の好きな人が此処の人だったら協力してくれるって
――言ってくれるの??」
「……ん? ああ、俺のやってる事はそーゆーの関係ないし
ただ1人でも“恋愛で幸せになれる”奴が増えれば良い――
そう、思うから……」
「……中里君自身……は……??」
「――俺はどーでも良いさ、
こんなのただの――罪滅ぼしだし」
「……??」
雅晴の言葉の最後――椿は上手く聞き取れなかった――
「あっ……それよりさ、最近の正也――なんか変わった事あったか?」
「え……??」
いきなり話題を変えた雅晴に、椿は少し戸惑う――
「んー……なんてゆーか、なんか隠してる感じ……
アイツ、なんか悩んでるみたいで、さ……」
そして椿は思い出す……
先日、椿と2人きりになった時の正也の様子――
「……うん、私もそんな感じはしてた……
すごく思い詰めたような顔してた事もあったし……」
「何か最近の正也、スランプっぽいんだよな……生徒会の仕事ミスったり
なんか隠してるみたいで……聞こうとしてもはぐらかされるし……
聞いちゃダメな感じもして、なーんか俺にはどーにもなんねぇ感じ」
「……すごく仲良さそうに見えるのに??」
「――わかんねぇよ……なんとなく、正也には――
“俺の知らない正也”がいるよーな、でも――今の正也も正也で
天然っつーか、本性ってゆーか……そんな感じだから、さ……
上手く言えねぇけど――なんか、今もどこかで俺の知らない
世界が動いてるって当たり前の話だけど――そーゆー事考え出したら、
途方に暮れるってゆーかな、まぁ世の中分からねぇ事ばっかだよな」
「そうだね……分からない事、たくさんある――
でも、色々な事考えて、色々な人の事考えてて――
中里君って すごく友達思いなんだね」
椿は思った事を――素直に口にした。
「――サンキュ、妃宮さん♪」
雅晴は軽く微笑む――
「……それにしても、少しは男に免疫ついたか?」
「え……??」
「苦手だっただろ、男と話すの」
「え? ……どうして――それ……??」
「なんとなく――まぁ“あの話”の事もあるけど……
今気になってる奴のおかげ――だったりしてな?」
「そう……かも……」
確かに、毎週蓮と話しているうちに ほんの少しずつ
男子と話す事に抵抗感はなくなっていたかもしれない――
それに……蓮の言葉で救われた事もあった……椿は改めて、そう思う。
「――じゃあ、俺はこれで、妃宮さん♪」
「うん、じゃあね――」
それから、雅晴は姿を消す――
それを確認した椿は、コインを取り出す――椿はRPG化し、
BATTLE CHARACTERSの世界へと向かった――
「……今はまだ、それに俺の口から――
“あの事”は言うべきじゃない……そうだろ? “星”……」
一方、椿と分かれた後、雅晴は――1人の人物を思い返しながら呟く……
「おそらく今の妃宮さんは“アイツ”の過去を完全には知らない……
それを知った時――その時が“時効”……その時、俺は――……
俺も“アイツ”が実際どんな奴かなんて知らねぇけど……
“恋愛で幸せになる人間が増えて欲しい”……
その気持ちは、同じだからな……星」




