chapterⅩⅢ conflict -葛藤- Ⅱ
現実世界、高校生達のテスト返しのお話です。
「これ、来週末までに提出な~」
それから明くる日、現実世界――椿達の通う高校のHRの時間。
2学期も終わりに近付き、2年生全員が受け取った物――
それは、進路希望調査の紙だった。
「次――期末の順位返すな~出席番号順――」
椿のクラス、2年6組の教室では――
男子から順に次々に名前が呼ばれる……
そんな中、椿は自分の名前が呼ばれるまでに、
先程配られた進路希望調査の紙に志望校や学部を記入する――
「あっ、ヒメちゃんもう書いてるの?」
椿の前の席に座る、クラスのムードメーカー・
吉澤朱莉は、椿の用紙を覗き込む――
「うん、模試で書いてる志望校と同じだし」
「ヒメちゃんは栄養系だっけ?」
「うん、将来何か役に立てたらなぁって」
「すごいなぁ……私は将来の事、まだなんにも
考えてないよぉ……成績も悪いし
そんなのいつも適当に書いてE判定だもん」
「ありがとう、でも大丈夫だよ、私だっていつも良くない
んだし……それに吉澤さんは部活引退したら、いっぱい
時間できるんだから――まだまだこれからだって」
「うん!! ありがとヒメちゃん☆ それにしても……木間君位
勉強できたら――どこでも選び放題なんだろうな――羨ましいな~」
「そうだよね――」
「あっ木間君帰ってきた!! 今回も見せてもらいにい~こぉっと♪」
朱莉はテスト返し恒例の、正也の結果を見に行く――
「……」
正也は、どこか浮かない顔で その結果を見る――
「こ~のま君☆」
そこに、朱莉の姿が現れる……
「えっ!? あっ……吉澤さんっ……」
「成績表見せて~♪」
「あっ……うん」
「相変わらずすごいよね~木間君、また1番!?」
「あ……でも今回数Bで計算ミスって――」
「全然悪くないし!! 200点満点で183点取れてたら
十分でしょ!? しかもまた化学1位!」
「でも今回、平均結構低かったから助かっただけで……
ほら、8割しか取れてないし」
正也は学年トップながらも、浮かない表情を見せる――
「最高点には変わりな~い! 私それ20点位だったしぃ! ああ
もう羨ましいなぁ木間君!! やっぱり――大学も国公立一本なの?」
「それは当然」
「かっこい~い☆」
「いや、でもまぁ止むを得ずっていうか……浪人も覚悟してるし」
「え~? 木間君が浪人はないっしょ?」
朱莉は驚いた様子で聞き返す――
「そんな事ないよ」
「完全無欠の生徒会長が言う台詞じゃない」
「……不完全すぎるよ、俺は」
そう言って、正也は苦笑した――
「十分完全だって!! そういえば、何処の塾行ってるの?」
「え? 行ってないよ?」
「うっそぉ!? それでその成績!?」
「……行かないっていうよりは――っ……!!」
言葉の途中で、正也は咳込んだ――
「え? 大丈夫っ? もしかして風邪気味とか?
寒くなってきたしね~」
「え? あっ……ううん、最近――空気乾燥気味だから、それで」
「そう? あっ見せてくれたお礼に飴ちゃんあげる~☆」
朱莉は笑顔で、正也に飴玉を渡す。
「あっ……ありがと」
「また見せてね~♪」
「お手柔らかに」
「お~い吉澤ぁ!!」
そこで、朱莉を呼ぶ担任の声――
「は~い!!」
朱莉は元気良く、担任の元へ駆けて行った――
「……」
一方、同時刻――雷音は浮かない顔で
進路希望調査の紙を見つめていた……
「……決めてた事、なんだから――」
それは……きっと誰よりも昔から、貫いてきた夢――
志望校も完全に決めていた。何も考えずに書くのが常だった……
それなのに――別の考えが、よぎる――
「もしも………も……同じ……だったら――」
「空原さ~ん?」
「雷音!! 呼ばれてる!!」
「えっ……!? あっ……!! すみません!!」
クラスメイトの声に、ふと我に返る――
担任から返される、テストの結果……
「……順位結構落ちてる……」
雷音は沈んだ表情を見せる……
「……色々あったから仕方ない……訳ないよね……
それに、私――何考えてるんだろ……
そんな都合の良い話、ありえないのに」
割り切った、捨て去ったはずの気持ちに想いを馳せる――
「――隠れお嬢も大変そうだな」
そんな中、ふと雅晴の声――
「え? 中里君……今何か言った??」
「ん? 言ってねぇけど?」
「やった☆ 今回もマサに勝った~♪ まったお前が最下位かよ?」
雷音に言葉を返すや否や、雅晴は数人の男子達に囲まれる……
「もっと勉強しろよ、マサ~木間見習ったらどーだ?」
「あはは、確かに~どうせ正也が今回も1番だろな~でも!!
俺は部活引退したら頑張るからよ♪」
「その言葉、信じても良・い・か・し・ら~?? 中里君??」
男子達の声の中、担任であり、リーディング担当の
土橋先生の声が割り込む――
「はは……やべ、俺リーディングも最下位だっけ」
「予習は完璧でも、結果を見たら実力は分かるのよ~?」
「……やっぱ正也のノート見せてもらってるのバレてるな……」
「皆~今回、うちのクラス全体的に悪かったんだから、
しっかりテストも見直してね~? 特に今は短縮授業なんだから
時間あるでしょ~? じゃあ今日はこれで、委員長――」
そして、5組のHRも解散となった――




