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chapterⅩⅡ transmission -変遷- Ⅴ

レイナが碧とヒロの両方を 楽しませようとするお話です。

「エリア名は、薔薇園――……転送!」

そしてレイナは碧と共に、別のエリアに自分の体を転送する。

「……ここからモンスターを倒すのは私、

 碧は自分の身を守りながら付いて来て」

「はいっ……!!」

それからレイナは次々とモンスターを倒し、碧はそれに続く――


「見つけた……“鍵”モンスター……」

それは ある程度モンスターを倒した後、出現する特別なモンスター……

レイナは――慣れた手付きで倒した後、現れた鍵を拾う――

「D-5……確か……」

「何かの……アイテムですか?」

「ええ……この先の扉番号に対応する鍵で

 宝箱を開く事ができる―― だから、付いて来て」

「あっ……はいっ……!!」


そして――2人は奥へ進む……

レイナは慣れているからか――迷う事なく、どんどん先へと進み、

碧はその姿を追い掛けその扉へと辿り着く――

「……確か、此処――……」

レイナは静かに扉を開く――


「あっ……!!」

――そこには、薔薇の蔓に絡まれた、1つの宝箱があった――……

「――ヒロの姿になって、取ってみて」

「え……?」

「……これならきっと――碧にもできるはずよ」

「――はっ……はいっ……!!」

それから碧は自分でピアスを外し、ヒロの姿へと変わる――

そして慣れない手付きで剣を振る――


「――」

レイナは、手出しする様子はない……ただ、彼を見守っているだけ――

しばらくの間、碧は懸命に剣を振るも――

碧は自分で剣を振る事に慣れていない事もあり

薔薇の蔦は切れず、剣を振る腕は止まる――

「……っ……はぁっ……っ……固いっ……」

「――大丈夫よ、何度も切ったら必ず解ける……!! 諦めないで……!」

「はいっ……!!」

碧は一心不乱に剣を振り翳す――時間は確実にすぎ――

時間と共に少しずつ、でも確実に――薔薇の蔦は弱っていった――

それから、数分後の事――……


「あっ……!!」

碧は、喜びの声をあげる――薔薇の蔦が切れたのだ……

「――これで開けてみて」

「あ……はいっ……!!」

碧は嬉しそうに鍵を受け取ると、急いで鍵を差し込む――

「わぁっ……!!」

宝箱の中には、美しい宝石があった――……

「……すごく……すごく綺麗です……!!」


ヒロの姿をした碧は満面の笑みを見せる――

そして、碧の喜びを確信したレイナは、静かに告げる――

「……ヒロもきっと――……ううん、絶対に喜んでいると思うわ」

「え……?」

「今、ヒロの精神は起きている……攻撃魔法の使い方は、モンスターを

 倒す為だけじゃない……きっとヒロもそういう事を望んでいると思う

 ……いつか消えてしまうけど……今は、心は碧と共に在るから……

 それまでは……その日が来るまでは――そうやって、

 そういう風にして――碧と、喜びを分かち合う事を――」

「……!!」


「ヒロの言う通り、攻撃魔法が嫌なら、無理して使わなくても良いと

 思う……でも、せっかく手にした能力なら、楽しみの幅を広げる為に

 ――って」

レイナは――レイナなりに考えていた……同じ時間の中で、

どうしたら2人が――2人共が、幸せを分かち合えるかを――

「……ありがとうございます、レイナさん……おかげで今僕……

 すごく嬉しくて……ヒロ君も――絶対に喜んでますね!!」

「――それなら良かったわ……また何か考えついたら、その時も――」

「本当に……本当にありがとうございます!!」

それから、碧は再び満面の笑顔を浮かべた――その瞬間――


「あっ……!!」

碧の魔法が解ける――

碧がヒロの体を使えるのは1日15分だから――

それは必然であり、碧は普段の僧侶の姿に戻ったのだった――

「夢中になっていて、忘れてました」

「――それで良いのよ、この世界、夢中になって楽しめたなら……

 ヒロも……ちょっと、いいかしら?」

「……! ……はい……!」

そしてレイナは碧の左耳のピアスを外し、ヒロを発動する……


「レイナ~!!!」

発動した瞬間、ヒロは満面の笑みでレイナに抱き付く……

「……ヒロ、どうだった?

 さっきヒロの体でやり遂げた、碧と一緒のクエストは」

「おぅ☆ もちろん楽しかったぜ♪ やるじゃん碧!

 ナイスファイトだったぜ! ははっさすがだなレイナ、

 俺様も碧も楽しませるとは――やっぱり信じてた通りだったぜ!

 次もよろしく頼むな!」

「……そうね」

それからヒロは、碧の姿に戻る。


「……ヒロも喜んでたわね」

「はいっ……! さすがレイナさんです!」

「……そんな大した事はしてないわよ……碧、攻撃魔法については――

 今は、どう思う? さっきの事で、攻撃魔法の考え方、少しは変わった?」

「――えっと……正直モンスターを倒すのに攻撃魔法を使うのは

 抵抗があったのですが……さっきは……すごく楽しかったです……!!」

碧はレイナの問いに嬉しそうに返事をする。

「……今碧が楽しいって――

 あの体を使うプラスの理由ができたなら――私は嬉しいわ」

「……ありがとうございます……!! ……あの……レイナさん?」

「……?」


そしてふいに、碧は真剣な眼でレイナを見る――

「僕……レイナさんにどうしても……

 直接謝らなければならない事が――あるんです」

「……え……?」

「先日……ヒロ君との時間が変わってしまって

 ――すごく……あせってしまった……というか……」

「――それは……仕方ない事だったと思うけど――」

「そんなの無理だって分かっているのに、今の状態が崩れる位なら

 ずっとこれまでのままが良いって――変わってしまう事が

 怖くなって……我儘を言ってしまって――本当にごめんなさいっ……!!」

碧はレイナに向かって深く頭を下げた――


「……そんなの、気にしなくて良いと思うけど」

「……それと、その……正直に話しますが……

 ヒロ君がいなくなったら、レイナさんが、僕と一緒にいる理由も

 なくなって、レイナさんと僕もお別れする事になるんだろうな、

 とも思ってしまいました……いなくなってしまうヒロ君が1番

 辛いのに、僕はそんな事を思ってしまって……」


「――碧は正直ね……私の思い上がりや勘違いじゃなかったのね……

 やっぱり碧、あの時…そういう事を言いかけたのよね?

 ……でも碧、これからも別れないといけないのは

 きっとヒロ以外も…そう。どうしようもない、どうしようもできない

 理由で、誰かと別れなきゃいけない事はこれからもきっと、たくさん

 あると思うわ。それは、私とも――私との別れの時だって必ず来る」

「……! ……そう、ですよ、ね……」

そうレイナにはっきりとそう告げられ――碧は沈んだ表情を見せる。


「でも、それはきっと、どうしようもない、どうしようもできない時が

 来た時。逆に言えば、その時が来ない限り――私達が別れる時はない」

「……! それって……!」

「碧が望むのなら、望んでくれるのなら……ヒロがいなくなって

 しまっても、私と碧の関係がなくなってしまう訳ではない……」

「……でしたら、これからも……お会いして頂けますか?」

「……ええ」

「……ありがとうございます、レイナさん!」

そう言って碧は幸せそうに微笑む――


「……」

そんな碧を見て、レイナは思わず、碧の頭をなでる――

「……えへへ……嬉しいです、こうしてレイナさんに

 頭を撫でてもらえるの――幸せですっ」

「……碧は、私にとっての癒しの存在ね」

「あっありがとうございます……! え……?」

「……どうしたの?」

「いえ、なんでも――ないです」

「?」

「……今レイナさん、少し笑ってた……?」

そして碧は一瞬垣間見られた、レイナの表情を思い返していた。




「……幸せ、か……碧をなだめる為に言った事ではあったけれど――」

それから、現実世界に戻ったレイナ――絢女は先程までの碧との

やり取りを思い返す。元々碧との関係はヒロとの事が終わったら

解消するつもりではあった。でも今日のレイナは……

「このまま私もヒロと同じタイミングで碧と別れたら、碧は余計に

 落ち込むだろうし……これで良かったのよね……それに……

 大丈夫よ、どうしようもない理由なんて、後からいくらでも作れば

 良い……ヒロが消滅してからタイミングを見計らって、私は碧と……」


そして考える。碧と別れるべき時の事を……。けれど――

薄々勘付いていた……絢女自身、これからも碧との未来を願って

しまっている事に。距離を置いて接し続けるはずが、自分は――

心のどこかで、距離を置く事を拒んでいる……そう――


「これは……“私”の物語なんかじゃない……

 “碧とヒロ”の物語……私は“主人公”になってはいけない……

 ヒロが消えて、しばらくしたら碧と出会う前に戻るだけ――

 幸せになんて、ならないから」


その言葉は自分に言い聞かせるように……震える声で静かに響く――

差し迫った“終わり”の時を前に――彼女も“自分の為”の

物語を終わらせる為に……迷わない為に、何度も“過去”を思い出す……

大好きな親友を失って、大好きな親友の大好きな人を深く傷付けた……

消せない過去の存在を――必要以上に人と関わらない、その理由――

レイナ――“零雫”という名前……それは、その子の存在を忘れぬ為に、

自分が主人公にならない為に、もう1つの世界の自分に――与えた名前。


「もうすぐ、終わりにするから……

 だから、それまでは……許して……鈴奈――中里君」

変わっていく、それは――必然……

その一方で変わらぬ思いが――少女を捕らえて、離さない……

リセットできない、この世界の中で、記憶が消えない、この世界の中で――

それは――ずっと、ずっと――……

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