chapterⅩⅡ transmission -変遷- Ⅳ
碧の強化データ・ヒロがレイナと話すお話。2025年もよろしくお願いします。
「……ヒロ、今日はクエストよりも――色々話しても良いかしら」
それから再びレイナと碧が会う日……
レイナは碧と軽く挨拶だけ交わした後、ヒロを召喚し静かに切り出す――
「ああもちろん、俺様が把握してる事、レイナに話すぜ……
でも、その前に――……」
「えっ……?」
「――俺様は、創造者の事、恨んでないからな~!!
作ってくれて、心の存在を願ってくれて、ありがとうな~!!」
ヒロは満面の笑みで宙に向かって、いきなりそう叫んだのだった――
「……いきなり――どうしたのよ?」
「創造者、更新プログラムのインストールの時……俺様に謝ってて、さ
……インストールの時は創造者の声は俺様に届いても、
俺様が創造者に声を届けるには、碧の体がこっちにある時しか
できねぇから……今創造者がリアルタイムにここにいなくても
――多分後から映像で聞いてくれるはずだ」
ヒロがいきなり宙に向かって叫んだ理由、それは――
今、この場に存在しない創造者・昂に自分の気持ちを伝える為だった。
「――ヒロは……碧の強化データとして、最終的に
碧に攻撃魔法が使えるようになって欲しい……とは思ってる?」
「……俺様は、どっちでも良いと思うぜ? 使いたくないなら、
別に使わなくて良いと思うし……この体の発動自体もしなくて
良いと思ってる……それはきっと、創造者も思ってる事だ……
碧が僧侶の姿のままで十分楽しんでるようなら、わざわざ
この姿になる必要もねぇし、そもそも碧がこの姿になるメリットは
攻撃魔法を使えたり、飛べるようになったり、後はレイナの感知とか
くれぇだと思うし。……俺様は――この体の事で……碧が苦しむのは
嫌だ……俺様の事を思ってくれるのは――当然、嬉しいぜ?
でも……碧はきっと……これからも俺様の事ばっかり気ぃ遣って
楽しむ事ができなかったら――それはキツいし……
この前だって……俺様の姿になった後――元気なかったじゃん?」
「……そうだけど――って……あの後、ヒロ――起きてたの?」
レイナは驚き、ヒロに聞き返す――
「ああ、あの時は言い忘れてたけどさ、今のあの状態……俺様の
RPGキャラを碧が使ってる時……俺様の精神は起きている」
「そう……だったの……?
私……てっきり……ヒロの精神は起きてないって――」
「まぁ、変な話かもしれねぇけど――逆パターンになるって言えば
良いのか? 今みたいに、俺様が発動した時に碧の精神が起きてる
ように――碧があの姿でいる時は、俺様の精神は起きて、
感覚共有してるって訳だ……まぁこの前初めて経験してみて――
すげぇ不思議な感覚だった……碧も――俺様を発動した時は、こんな
気持ちだったんだって――碧と一緒に碧を見てる景色を共有して、
色々感じて……悪くねぇ……そう――思った……でも――それも長くは
続かねぇ……この形で俺様の精神が起きてられるのも今のうち……
レイナ……それに碧……俺様が近い将来消えるのは、絶対的だ」
「……!!」
ヒロの口調は、落ち着いていた――
その日が来る事はもう、当たり前の事だと……
自分の運命を――未来を、悟っているような、そんな――
「……前から言ってる通り、俺様自体――不安定な存在で
そもそもいつ発動しなくなっても不思議じゃあない、“創造者”も
コントロールがしきれない、予想外の産物だ……だから、創造者
でも……後何回、正確に――“俺の心”が発動するかは分からねぇ
……もちろん、今すぐにでも――消える可能性も十分にある……
今ここで、こうやって存在している――それ自体が奇跡みたいな物
……奇跡の時間に――必ず終わりは来る……体の方はなんとでも
なるけどな……“入れ物”としての俺様は何度でもデータを再生すれば
良いだけの話だ……でも“今ここに存在する心”は寿命が来たら、再生不能
……“現実世界の”人間が死んだら生き返らない……その“必然”と同じだ」
「……!!」
「第2って事は……創造者は―なんとなく俺様の寿命――
かなり漠然と……だけ感じて、これから何回か発動できると
仮定して、そろそろ碧が俺様の力なしで攻撃魔法に慣れ始めないと
俺様の心が先に消滅する……そう判断したから――だな」
「それじゃあ……」
「――でも心配するなよ? 碧がオート機能での攻撃魔法の発動を
望んだら、また慣れるまでは……オート機能で攻撃魔法は使える。
“今の俺様”の発動期間内に、この姿になった碧だけの力で
攻撃魔法が使えなくても、
その時はきっと……“2代目の俺様”が――……」
「それは……今のヒロじゃないんでしょ!?」
「え? ああ、そうだな…おそらく、“心がない”データ……
ロッサ姉と同じ、プログラム通りの――」
強く言い放つレイナに対し、ヒロの口調は相変わらず落ち着いていた……
「そんなの……“今”の……今ここにいる、心を持った
今のヒロじゃなきゃ……意味ないのに……それは碧だって……」
「……俺様はさ、碧の体を借りて、こうして遊んで、レイナと話して
……楽しいって感じる事ができて――人間にとっちゃ短い時間かも
しれねぇけど、データ生を楽しむ事ができてる。だから、最期に
碧とレイナの為に何かできたら良いな、とも思ってる……
そう思えるのは、心を抱いたからだって思うんだ……
ただのデータだったら、どんなに長く生きても、こうやって
思う事もできなかったんだろうなって……例え存在が消滅しても
この思いは残る――俺様は、これからの2人の幸せも願ってるから
……だから……楽しんでくれよ? 俺様が生きられない
これからの時間も、どんな形でも良いから……」
「ヒロ……」
「でも……分からねぇんだ……俺様にできる事――
何もねぇ気がして……この前も――しんみりしてごめんな?
俺があんなんだったから、碧も元気なかったかもしれねぇし――
レイナの事、抱いちまってさ……」
ヒロは沈んだ表情を見せる――
先日のヒロはおそらく、今のように完全に割り切れてはいなかった……
だから、普段と異なる表情や行為を取ってしまっていたのだろう――
「――私は気にしてないし……それに――辛い気持ち、我慢される方が
――私にとっても碧にとっても辛いと思う……だから、この前の事は
気にしないで……それと考えが……あるわ……」
「え……?」
「――まだ、ヒロと話せる時間はあると思うけど――
一度碧に戻しても良い?」
「……ああ、分かった……」
「……上手くできるか分からないけど、ヒロにも――
残りの時間を楽しんで欲しいのは、私も碧も同じだから」
「――信じてるぜ、レイナ」
それから、ヒロの左耳にピアスを付ける――
碧は、普段の姿に戻る……
「――レイナ……さん……?」
「……碧、今から付き合って欲しい所があるの――付いて来て」
「はい……」
そして、2人は異なるエリアに移動する――




