chapterⅩⅡ transmission -変遷- Ⅲ
強化データ・ヒロの設定が変わるお話。2024年最終更新です。読んでくださった皆様、ありがとうございました!
「はーっはっはっはっ!! 今日も俺様絶好調~!!」
フィールドに響き渡る楽しそうな声――
その声の主は、碧の強化データ、ヒロ……
その日も――碧とレイナが会う日恒例のクエストが行われていた。
「――大分レベル上がったわね」
いつも通り、付き添ってクエストを行っている
レイナは――静かにそう言った。
「ああっ☆ でも、一時中断しても……良いか?」
「え? 別に良いけど……どうしたの? まだ……半分位しか時間――」
「……今日からは違うんだ……だから……」
ふいにヒロは俯き、真正面からレイナを抱く――
「……!? ヒロっ……!?」
「――嫌……だろーけど……少しだけ、こうさせてくれ――」
ヒロはレイナに表情を悟られないように、そう言った――
その言葉は普段とは異なる、静かな口調だった……
「……ヒロ……?」
「やっぱり淋しいって思ったんだ……連続……30分……
この前で最後、だったんだなって……」
「え……?」
「……決まってた、事だから……“俺”にとって……
変わらない“世界”なんて、変わらない“存在”なんて……
存在しねぇって……いつまでも……続くもんじゃねぇって……」
「……ヒロ……?」
「だから……だから――……」
そしてヒロは顔を上げ、まっすぐにレイナを見つめる――
「……レイナ、碧、よく聞いてくれ……
これから俺様と碧の状態は、“第2段階”に移行する……」
「……第2……? それってまさか……!!」
レイナは はっとした表情になる……
予定されていた“その日”がきたのかと、そう――
「――慌てるな☆ 俺様の“体”の発動は1日30分、
それは変わらねぇ……でも、これから“俺様の意志”での
行動は1日15分しか発動しない……」
「なっ……残りの15分は!?」
「……この体を、碧が操作できるようになる!
碧!! ――自分の意志でこのRPGキャラを使いたいって思った時は
自分でピアス外せば15分使い放題☆ になるからなっ!!
それが“第2段階”つー事で! 今日は後は任せた♪ ファイトだ碧ー!!
レイナもビシバシやってくれー!!」
ヒロは明るい口調で碧とレイナに言い放った瞬間――……
「!? ヒロ……!?」
「――……」
「……ヒロ……?」
「……? あれ……?
僕……ヒロ君の姿で……僕の思い通りに動いてる……?」
その姿は……ヒロに変わりはない……
しかし、その表情と言葉は、普段のヒロのそれとはかけ離れたもの――
「……中身……碧、よね……?」
「はいっ……! 僕ですっ!!
――わわっ……今は本当に僕の意志で体、動いてます……!!」
今まではヒロの姿に変わると、体の動きを支配するのはヒロだった……
しかし今は、碧の意志のままに動かせるようだった――
「いつかは――こんな日が来るんだろうなって思ってたけど――」
「? ……どうかしましたか?」
碧はヒロの姿で首を傾げる――
「――表情とか仕種、全然違うんだなって……
同じRPGキャラ使ってても――」
「……そう、なんですよね――僕、今――
ヒロ君の姿になってるんですよね」
「……とにかく、さっきのヒロの言葉が正しければ、
残り15分はその姿でいられるみたいね」
「そう、なんですよね――でも……」
碧は淋しげな表情を浮かべる――
「……碧?」
「これで……良かったの……でしょうか……?」
「え……?」
「だって今までは……ヒロ君と僕は30分ずつ時間を共有して……
なのに……このままじゃ……僕だけ多くなっちゃって――」
「……それは……」
レイナは言葉に詰まる――碧がそう思ってしまうのは、当然の事だった……
半分ずつ共有していた時間が――ヒロにとっては4分の1となってしまった
のだから――だが、レイナは――即座に、冷静に――再び口を開く……
「――ヒロが言う通り、そういう設定に変更になったなら――
受け入れるしかないと思うわ……それに……ヒロの命は永遠じゃないから
碧も……いつかはこんな日が来るって分かってたでしょ?」
「――そう……ですよね……」
「……せっかくだし、その体で――試してみたら? 最終的には
私の2代目みたいに――碧にとっての2代目の体にもなるんだから……」
「そう……ですね……! やってみますっ」
そうして2人は初心者用エリアへと、場所を変える――
そして、碧は――初めてヒロの姿で剣を振る事になった――
「……ごめんなさい……」
それから――碧は一度もモンスターを倒せないまま、
ヒロの体でいられる時間を使い切ってしまった……
「――仕方ないわ……碧は自分で戦闘する事に慣れていないもの……
慣れたら大丈夫よ」
レイナも、この事態を予測できていたからか――
強い言葉は発する事はなかった……
「……僕は、ヒロ君の体……使えないままでいいです……!
これからも、ヒロ君の体の時は、ヒロ君が使ってくれたらいいのに……!
僕はヒロ君がいなくなってしまうのは嫌です……!」
「碧……」
「――変わりたくない……! 変わって欲しくない……!
ヒロ君を……失いたくない……!!
時間が……時間が止まってしまえば良いのにっ……!!
それにっ……ヒロ君がいなくなっちゃったら、レイナさ……」
碧は強く言い放った後――
はっとした表情で、言いかけた言葉を止める。
「えっ……??」
「……ごめんなさい……僕……最低な事を思ってしまいました……
僕は、勝手すぎるんです……自分勝手なのは――分かっているのに
……今日は……これ以上この世界に居ても、レイナさんに
迷惑をかけてしまうので……今日はもう、お別れさせて
頂いてもよろしいでしょうか?」
そして不安そうな目で、レイナを見つめる――
「……分かったわ」
「――ありがとうございます」
それから、2人はこの世界から姿を消した――……
現実世界に帰った後、現実世界のレイナ――
絢女は携帯を覗き込む……そして、碧の事を考える……
現実に帰った後も、彼は魔法のゲームの世界での事で悩み続けているの
だろう……きっと、悩まなくて良い事も――自分やヒロを思って
悩み続けているのだろう……そう、思うと――心が痛んだ……
「早い……方が良いのかな……」
絢女は静かに呟いた……
時間を置いてもきっと、悩み続ける時間が増えてしまうだけ――
今はまだ分からない事だらけだからこそ――“ヒロ”に聞きたい事を
聞いて、ヒロが存在している間に少しでも話しておきたい……
「――……」
絢女は静かにメールを打つ……
早い方が良い、だからこそ……それから考える――
自分が、ヒロと碧の為にできる事を……