chapterⅩⅡ transmission -変遷- Ⅱ
ヒロに語りかける昂&椿が正也の正体に気付いてしまう…?お話です。
「――ねえ、ヒロ……」
そう言って――昂は1人、魔法のゲームの世界の――
どこかに確実に“存在”する、“彼の心”に語りかける……
返事はない……それは、必然――
彼は碧の存在を介さないと、会話はできない――
でも声は届く……そう、創造者である昂は感じていた――
「――別に、声にして出さなくても、データを譲渡するだけでも
良いだけの話かもしれないけど……この前も君はとても楽しそうで
……僕も嬉しかったよ。本当に、“心から”楽しんでるんだなって
――伝わってきて……それにしても、君に心が生まれて
君がいきなり自分の気持ちを僕に伝えてきた時は……
本当にびっくりしたなぁ」
そう言いながら、昂は――ヒロと初めて会話をした日の事を思い出す。
「ん~よく分からねぇけど! 心、生まれちまった系? 奇跡?
ミラクル? はーっはっはっは! “普通”じゃありえねぇ
みてーだけどよ。なんか生まれちまったみたいだな~(笑)」
本来ならば、プログラム通りにしか動かないはずのデータ。
それが自らの意志を持ち、碧の存在を介して昂に語りかけてきた。
始めは信じられなかった。けれど――“彼”に“心”が宿ったのだった。
「……それと“あの時”はプロテクト通り、ではあったけど……
君は“知っていた”上で、“本当の理由”をちゃんと黙ってて
くれたね――……“あの願い”を受け入れてくれて、本当に
ありがとう……データの君も、僕と同じように、思って――願って
くれて――本当に嬉しかった……だからこそ――移行……する事に
するから……更新プログラムの、インストール……始めるよ」
そして、昂は“作業”を開始する――
「ごめん、ね……僕の事……恨んでくれても良いから……
安易な気持ちで、君の心の存在を――願ってしまった僕を……
反省――してる……だから、せめて――僕は……君をギリギリまで
生かせられるように頑張るよ……それまでは……どうか――」
声が途切れる――ただ、彼は祈る――
永遠には存在できない“彼”の、残りの時間の幸せを――
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「お疲れ様、妃宮さん」
「木間君も、お疲れ様」
それから放課後――
他のクラスメイトも帰宅し、他の掃除当番達も仕事を終え、
教室に椿と正也……二人だけが残っていた。
「……今日は――普通にお話してくれるなぁ、木間君」
椿は思い出す……以前正也はあからさまに椿を避けた事があった。
でも、その時は――自分が急に話し掛けて驚いたせいだっただろう、
そもそも正也は女子と話す事自体苦手なようだし……
椿はそう思って、その時の事は深く考えないようにしていた。
それ以降、正也に変わった様子はなく――今日に至る。
「じゃあね、木間君」
「……妃宮さんっ……!!」
「……!?」
椿が教室が出ようとした時、
ふと正也は――椿の手首を掴んでいた……
「……妃宮さんは……現実世界の……“…”の事……」
「……えっ……??」
「……“あの時”も こんな風に、現実世界、だったら――……!!」
「……木間……君……?」
「えっ……あっ……!! ごめん妃宮さんっ!!
本当、なっ……何やってるんだろ、俺……」
椿の声を聞いて、我に返った正也は――
無意識に掴んでいた、椿の手首を解放した。
「……木間君、どうしたの……?」
「……ごめん、妃宮さん……
俺、どうかしてた……本当に、すまない」
「そんな謝らなくて大丈夫だよ! ちょっとびっくりしただけだし」
「……でも俺……妃宮さんに、
ちゃんと謝りたい事もあって……けど……その……」
「……??
私、木間君にそんなに謝られるような事、された事ないよ……?」
「……意味、わからないよな……ちゃんと説明しないと……
でも、今……情けない話、上手く言える自信……なくて……」
正也は椿に話したい事がある様子だが――
今の正也には言い辛そうな様子だった。
「……??
――木間君が言い辛い事だったら、無理に言わなくて大丈夫だよ?」
「……嫌だったら……拒んでくれたらって思う……けど……
いつか、言えそうになった時……聞いて欲しいんだ」
「うん……分かった……でも、無理はしないでね?
それに私、木間君の為に何ができるかは分からないけど……
何かできそうな事があったら言って……ね……?」
「……!! ――“あの時”と同じ事、言ってくれるんだ、な……
ありがとう……やっぱり――優しいな、妃宮さん」
そう言って、正也は微笑む――
「……えっ……??」
「……どうしたの……?」
「ううん、なんでもない……じゃあ」
「……うん、引き留めて――ごめんね」
それから椿は教室から出ていく……
「……大丈夫かな……木間君……さっきすごく思い詰めた顔してたけど
……でも言いにくそうだったし……無理に触れない方がいいよね……?
本当にどうしたんだろう……でも……あれ……? さっき私どうして
一瞬、木間君の事……? ……!? ……木間君、もしかして……?
だったら“あの時”……聞き間違えじゃなかった……?? でも……
さすがに……“それ”だけで、断言できる訳はない……よね……??」
……少なくとも、魔法のゲームの中で“彼”と関わった時に
椿の中で“木間正也”を感じた事はなかった……。
でも先程一瞬だけ、椿の中で正也の姿が
魔法のゲームの中の“彼”の姿と重なった……
「――だったらまさか……さっき私に言おうとしたのって……
でも……もしそうだとして……私には、何ができるの……?」
「……何をやってるんだ俺……さっきの俺、妃宮さんに何を言おうと
した……? 聞こうとした……? ……勝手すぎるだろ……!!
気持ち悪いだろ……!! 迷惑に……決まってるだろ……!!」
一方正也は……先程思わず椿にした事、言おうとした事を
思い返し――激しく後悔し、自分を責めていた……
「……諦め悪すぎる……だろ……
でも……俺はまだ……“…”の事が――……」
そう呟き、想いを馳せる――……




