chapterⅩⅡ transmission -変遷- Ⅰ
更新してない間も読んでくださっている方、誠にありがとうございます!
現時点で前半ラスト(chapterⅩⅢ)までですが、ほぼ完成しているので、また追いつくまで毎週更新を再開する事にしました。よろしくお願いします!
「……」
「……後悔してるの? 星……」
「――雪華」
BATTLE CHARACTERSの世界、ある1つの映像を
見終えた後、RPG化した姿の雪華は、昂に話し掛けた――
「……星は、神様じゃない……
だから、そんなに苦しむ必要もないのに……」
「――分かってるよ……ただ――僕の能力は中途半端で、それが……」
「……過去の映像だけじゃ、心は読めない――その事?」
「……そう……昨日……リアルタイムに
此処にいれば――何か違う結果になってたかもって……」
2人が見ていた映像――それは、竜と桃の訣別――
皮肉にも、この世界の創造者――管理者である昂は、
この世界でのプレイヤーの行動を完全に把握できてしまうのだ……
ただし、彼が他人の心を覗く事ができるのは、
“この世界”に彼が“昂”として存在している時のみ――
だからこそ、その時ゲームの世界に存在しておらず
何もできなかった昂は――虚しさを感じていた……
「此処は現実世界じゃない……
そもそも、この世界が星の世界の全てでもないのだし
現実の生活、仕事とかもあるんだから、限界あるのは
仕方がない事――それは、あの2人にも言える事……だね」
此処、BATTLE CHARACTERSの世界は、昂が管理する
魔法のゲームの世界……昂の定めた“定義”通り、プレイヤーは
“プレイヤーとして”は、基本的に――1日1時間しか存在する事が
できない――それは、人間がゲームの世界に依存してしまわぬ為に
決めた事――そして、管理人である昂もこの世界に依存してしまわぬ
よう、定めた定義だった――
「――どうにも、ならなかったのかな……
雪華が桃ちゃんと同じ立場だったら……どうしてた?」
「分からない……でも、桃ちゃんの気持ちは痛い程分かる……
あれは演技だとは思えない……きっと、全部本当の事……
桃ちゃんも竜君も――もう、この世界には来れないだろうね……」
「――でも……あの2人は現実世界で接してる可能性も高い……」
「あの2人、椿ちゃんと同エリアなんだよね」
「そう――それに……桃ちゃんも竜君も2人共
現実世界の椿ちゃんの事、知ってた感じだったし――」
昂は――竜が椿と接していた時の事を思い出す――
「……桃ちゃんは、椿ちゃんとは現実世界で仲が良いから
一緒にRPG化した感じで ゲームの世界に来て……
その日に星は昂として、椿ちゃんに会って話したんだよね。
それと竜君もその日初めて“この世界”の椿ちゃんに出会ってた。
それに竜君は強制イベントの時も……現実世界の椿ちゃんの事、
知ってる感じだったんだっけ?」
「うん……彼は椿ちゃんの名字を知ってるみたいだし、会ってるに
違いない……でも、現実の竜君と桃ちゃんが実際に接してるか
どうかまでは分からない……そもそもあの2人が現実でどんな子
なのか……会った事ないから、はっきり分からないし――
まぁ、軽い予想はつくけど――想像で片付けられる程、
簡単な問題じゃないよね」
「会ってたとしても……桃ちゃんの話が本当なら――
お互い、何を目指しているとかも分からないし、食い違う
可能性が高いから、2人共、具体的な事言えなかったんだろうね……」
雪華は――竜と桃の立場を考え、淋しそうに呟いた――
「でも――僕の能力があったら……
2人の夢を……心の中を覗けたかな……って」
「……そう、できてたら――また違う結果になったかもしれない。
でも、それはそれで――無粋な気はするけどね」
「――やっぱり、雪華は正直だね……
まぁ、人の気持ちなんて、見えないからこそ面白いんだろうけど
……今の僕にはもう――分からないよ」
そう言って、昂は苦笑する――聞こえてしまう、心の声――
見えてしまう、心の中――それはかつて“彼”が望んだ事だった……
だから、気まぐれな神が与えたもの――しかし、その力を得てから彼は
――分からなくなってしまった……その能力を望んだ事が――正しかった
のか、どうか……便利なだけじゃない、聞きたくない事、知らない方が
幸せな事も見抜いてしまえる能力を得て――その代償の大きさを身を
持って知ったのだった――
「……ごめんね、自分にも同じ能力があったら、もっと気の利いた事
言えるんだろうけど――私は……私の心が読めても――星が
後悔しないように、嘘は言わない……私には――それ位の事しか
できないけれど」
「――十分すぎるよ、雪華……君は君のままでいてくれたら、
こうして話してくれるだけで僕は、幸せなんだから」
「幸せ、か……星は――……現実で面識ない人達の幸せも願うから、
そんなに苦しくなるんだよね……でも……神様は星じゃない……
星じゃない神様が、2人を――巡り会わせてくれる可能性も
0じゃないと思うよ?」
「――そうだと……良いんだけど、ね……」
昂は沈んだ声で返す――そんな都合の良い奇跡なんて
起こるはずはない……そう思いながら――
「……きっと今……私達にできる事って祈る事位しかないし……
それに……今日は――元々、違う子達の話もあったんでしょ?
――ヒロと、ヒロに関わる2人の事……」
「うん……雪華はさ……僕の――ヒロに託した願い……覚えてる?」
「――だからこそ、移行させる気……ね?」
確認するように、RPGキャラの姿の雪華は昂の瞳を覗き込む――
「――正直、僕は……今の状態がずっと続けばいい、ヒロに永遠の
命があれば……そう思う……でも、ヒロの寿命は確実に――
……だから、やるしかないかなって」
「仕方ないよ……ヒロは“永遠の命を持つデータ”じゃない……
元々長い寿命は持てない存在……今……存在できている事実
そのものが、奇跡なのだから――」
「僕だって……“彼”の事……もっと……もっと……生かせるもの
なら生かせてる……ロッサみたいに永遠の生が得られなくても、
せめて……“現実”の“ヒト”と同じ位に……生かせてあげたい
……!! けど……それは無理だから……せめて……
……手段は選んでいられない……きっと荒療治になるだろうね
……でも……僕が悪役になっても――叶える為なら仕方ない……
彼もきっと望んでる……急がなきゃ……彼に残された時間も、
もうきっと少ないから――」
「――これは星1人が悩む問題じゃない……碧君とレイナちゃん
――2人にも委ねるしかないよ……ヒロは2人の事を本当に
大切に思ってるし、2人も――ヒロの事、大切に思ってるんだから」
「そうだね……彼ら、3人次第――明日やってみて、
しばらくは様子を見てみるよ」
昂は軽く、笑顔を見せる――
「それが良いと思う……いくら星が創造者で、管理者であっても――
1人で解決できる問題じゃないんだし」
「……ありがとう……来てくれて、僕と――話してくれて、雪華――」
「大した事じゃないよ、いつでも呼んでね?
この姿なのは、なんとなく残念だとは思うけど」
「そんな事ないさ……でも、やっぱり直接――話したくもなるよね。
それは……来るべき時がきたら、また、その時に……
その時は星と雪華、として……ね」
「うん」
そうして、2人は抱き締め合う……
「大好き」
「――うん」
それから、別れ際……唇を重ね合った――




