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chapterⅩⅠ parting -訣別- Ⅱ

雷音と雷音の兄として育てられた従兄・雪紀(せつき)が再会するお話です。

「――久しぶり、だな……」

それは、1人の来訪者……金髪に黄緑色の瞳を持つ少年は

自分にとって唯一の、“帰る家”の前で呟いた――

今は別々に暮らしているが、唯一“家族”と呼べる人間がいる場所……

その家の表札には“空原”の文字――


「事前に連絡よこせって、雷音に怒られるかもな」

そう呟いて、苦笑する……

その少年の名は“空原雪紀”――……



「……何やってるんだろ、私――……」

放課後、雷音は宙を見る――

最近の自分は、竜や椿に当たったり、学校で泣いてしまったり……

冷静でいられなくて、感情的になって、相手に当たって

自分が醜い人間だと感じていた……


「……どうやって仲直りしたら良いんだろ……」

雷音はあの日、椿に蓮との恋愛を否定してから――

椿と一言も話していない……

廊下で姿を見つけても、思わず目を逸らしてしまう……。


「……あんな言い方するつもりも、なかったのに……

 でも、どう言ったら良かったんだろう……」

自分が言った事は間違いではなかったはずだ……

事実、可能性としてありえない話ではない……

1日に1時間、仮初の姿で、仮初の世界でしか会えない人間なのだ……

疑いの気持ちを持たないと、危険な目に遭うかもしれない……

人を信用しすぎると、悪人だった時、後悔するのは当たり前の事――

けれど、誰をどこまで信じるか……それは個人の考え方によっても、

相手によっても違うもの……


「……今ここで悩んでても仕方ないし、帰ろっと……」

それから、いつも通り、家へと歩を進めた――




「え……?」

そして雷音は鍵を開け、家に入ると……

そこには――見覚えのある男物の靴……


「おかえり雷音♪」

懐かしい、1人の少年の声が聞こえる――

「……せっ……せっ……雪紀兄(せつきにい)!?

 なっ……なんで……!?」

「しばらくまたここに住むから☆

 ……ん~ああ、俺がただいまって言うべきだったか?」

「だったら なんで一言連絡しないのっ!?

 もしかして知らなかったの私だけ!?」

雷音は声をあげる……

「親父やおふくろにも連絡してねぇよ、ダメだったか……?」

「……ダメとは言わないけど……やっぱり連絡は欲しいわよ、

 ご飯の用意とか色々あるんだし……」

「今日は俺作るぜ?」

雪紀はそう言って、軽くウインクした。


「じゃあ決定!! 罰として全部雪紀兄に任せるっ!」

「相変わらず、可愛げのない妹だなぁ……

 少し位手伝ってあげようって気はねぇの?」

「全くない。っていうか第一違うでしょ、実際は」

雷音は軽く雪紀を睨む……

「……同じようなもんだろ? やっぱりお前……

 高校からの知り合いには俺の存在知らせてねぇって事か」

「そうだよ……それに、私の誕生日もちゃんと6月生まれになってるし」

「そっか……ちゃんと“普通”に生活してるんだな、なら……安心した」

そう言って、雪紀は雷音の頭を軽くなでた――

「……おかえり、雪紀兄……」

「――ただいま、雷音」

そして雪紀は微笑んだ――



「ご飯の支度終わったぜ? ――親父達、遅いのか?」

それから、晩ご飯の用意を終えた雪紀は、雷音の部屋に入る――

「――そうだね……

 今日は普通にご飯の時間には帰る予定かな」

「……だったら、親父達が帰ってから食べるか

 ……相変わらず、仲良くやってるか?」

「――もちろん、雪紀兄の知ってる通りそのまんま」

そう言って、雷音は微笑んだ。


「そっか……」

「……どうかした……?」

「いや……勉強やってるんだな、って」

「……そりゃあ、高2の今の時期だもん……来年はもっと大変だよ、

 受験組なんだから……雪紀兄が羨ましい……雪紀兄の所は

 高校受かったら、大学受験ないもんね」

雷音は軽く、溜息をつく……


「でも、勉強しねぇといけねぇのは一緒だし――それなりに

 大変だぜ? ちゃーんと宿題も勉強道具も詰めてきたし……」

「……いつまでいるの?」

「そりゃ……年末年始はこの家で過ごしたいし――しばらくな」

「そっか……」

「……最終的な進路とかそーゆーの、親父達にも話そうと思うし」

雪紀は、しっかりとした口調でそう言った。


「――どうせ、この家出た時から……変わってない……でしょ?」

「……まぁ、そうだけど……さ……なぁ、雷音……」

雪紀は真剣な眼で、雷音を見る――

「?」

「……ごめん、な……」

「――まだ、気にしてるの? 跡継ぎの事……」

「……そりゃあ、俺……親父にとっては甥だけど、

 息子として育ててもらったし……」

雪紀は、雷音の父の弟の息子であり、雷音の父にとっては甥に当たる……

つまり、雷音とは従兄妹である……。だが、雪紀の両親が事故に遭って

亡くなってからは雷音の両親に引き取られて育てられていた。

血は繋がっていないが、本物の家族のように――雷音の父は

実の父のように、雷音の母は実の母のように、雷音は実の妹のように

接して、呼んでいる――……


「雪紀兄は、自分の道に進まなきゃダメ……せっかく、今の進路

 納得してもらってるのに……お父さんにも、お母さんにも――

 雪紀兄のお父さん、お母さん、それに霰花(さんか)さんにも失礼だよ」

「それでも……雷音が、それで良いのかって……」

「……私? ――大丈夫、ちゃんと婿もらうから……

 条件を満たす人、大人になったらお見合いとかで」

「……それが、さ……なんか――」

「雪紀兄……女の幸せが恋愛って考えてる?

 だったら短絡的すぎ――人間恋愛しなくても生きていけるんだし

 私に遠慮するのはなしだからね? 彼女もできたら、教えてねっ」

「……雷音……」

「私だって、いい加減な気持ちで継ぐって決めた訳じゃないし……

 雪紀兄なら……分かるでしょ? あの仕事は、本気でやりたいって

 思う人以外には絶対やって欲しくない……雪紀兄は……

 あの仕事、本気でやりたいって思った事はないんでしょ?」

「……確かに……自分はやりたくねぇよ、大変そうだし」

「それもあるし……ぶっちゃけた話、雪紀兄が継いじゃってても――

 私が婿取って、後から権利剥奪して、雪紀兄追い出してたかもだし?」

雷音は楽しそうに、そう言った。


「……雷音が言うと冗談に聞こえねぇな……」

「それ位、大切だもん……お父さんやお母さんみたいになる事が、

 私の夢だから……それにね……私はあの仕事、本気でやりたい

 って思っている人……仕事でも最高のパートナーになれる人、

 そんな人――ちゃんと見つけたい……それが、ずっと私の夢だから

 ――証拠、見せてあげる……いつか、見せなきゃって思ってたの

 ……雪紀兄がこの話題出した時にでもって……」

そして、雷音は古びた、1冊の本を取り出す――それは、雷音が

幼稚園を卒園した時の1人1人の絵、そして、夢が描かれた冊子……


「――これが証拠」

「……うっわ……こんな昔から……」

そこには、幼い頃から変わらない、雷音の夢が書かれていた――

「分かった? ――私の、本気……この時からずっと、貫いてるもん

 ……“空原”の名を継がなかったとしても、同じ願い……でも、

 夢が変わっちゃった人もたくさんいるんだろうな……」

そう言った雷音の声は少し寂しげだった……子供だからこそ、大きな

夢を持ち、信じていれば必ずなれる――そう感じて、書いた言葉達

……でも、その中のどれ程の人間が、変わらぬ夢を貫けるのだろう?

現実の厳しさを知って、諦めた者もきっと大勢いるのだろう――


「……すごいな、雷音は」

「え……?」

「……夢が変わった奴もたくさんいるだろうってのに、

 昔から将来見据えてる」

「ありがとう、雪紀兄」

そう言って雷音は、パラパラとページをめくる……

その中で、ある1つの夢が目に留まる――


「……さいきょうの まほうつかい……? この夢まさか……

 でも……あれ……? “わかもと”――……?」

「どうした?」

「ううん、人違い……知ってる子の名前かなって

 思ったら、名字違ってた」

それから、雷音はその冊子を閉じた――

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