chapterⅡ lovers -恋人- Ⅰ
現実世界で魔法のゲームの世界の事を思い出したり、桃と一緒にクエストに行くお話です。
「……えっと後は――何だっけ……」
6限の古典の授業中、授業そっちのけで椿は熱心に内職をしていた――
ルーズリーフに書き出した内容はというと……
昨日遊んだ魔法のゲームのルール。
初心者の椿は、まだ慣れていない為――
授業中に思い出し、書き出していたのだ。
「後は確か――」
椿は昨日RPG化を解き、現実世界に戻った時の事を思い出した――
「じゃあ、今日は帰ろっか」
そう言って桃は切り出した。
「あれ? どうやったら戻れるんだっけ……」
ゲームの世界のエリアは初めてだった為、椿は帰り方が分からなかった……
「帰りたいって強く思うだけだよ♪」
「へ? また……そんな感じでいいの?」
「うんっ! “魔法のゲーム”だしね☆ じゃあ椿ちゃんも――」
「うんっ……」
そして2人は、強く念じる――帰るべき、現実世界……
その瞬間、2人はRPG化した場所――つまり学校の屋上にいた。
「へぇ……」
『思うだけ』で色々な事が可能なこの魔法のゲームに
椿はすっかり感心していた。
「戻る場所は、現実世界でRPG化した場所、だからね!」
「……あれ? それって……RPG化が自動的に解けちゃった時も……?」
「ん? そうだけど――どうして?」 椿の問いに雷音は首を傾げる……
「変だな、って――だって私が初めてRPG化した時、確か――
知らない間にRPG化解けてて……解けた時に“RPG化した場所”に
いるんだったら――私、解けた時に賽銭箱の真ん前にいたはず……
だよね……??」
蓮と初めて会った時……椿は境内の賽銭箱の前でRPG化した――
そして、境内で魔女を追い払い、蓮を助けた……
それから気が付くと、魔法が解けていた――
「ああ、それはね――RPG化解けた時に、RPG化した場所から
半径10m内の所にいたら、RPG化解けた場所と全く同じ場所に
戻るから、ね♪」
「だから、気が付かなかったんだ……」
椿がしばらく座り込んでいた場所は
賽銭箱から10mも離れていなかったのだ。
「今日はこれ位にして、また明日……もっと色々教えてあげるね☆
とにかく今日教えた事は基本的な事だから、明日までに復習して
くれたら嬉しいなっ!じゃあ今日は帰ろっか。また明日の放課後にね♪」
そして一夜明け、今に至る――
『現実世界でRPG化した場所の半径10m以内でRPG化を解くと、
解いた場所と全く同じ場所に戻る』 そう書き加えた瞬間の事――
「妃宮さん、9行目から10行目、訳しなさ~い!!」
古典の授業担当の、尾藤先生の声が響く――
「はっ……はい……! えっと――」
内職をしていながらも、先生の質問に椿はスラスラと答える。
「むっ……内職してる割にさすが――予習は完璧ね」
椿は理系クラスにいる割に、古典だけはトップ常連。やはり家が神社
だからか昔から古典の物語には、他の生徒より親しみがあるのだった。
「先生の所為で……一気に現実に戻されちゃった気分……」
そう思った時、チャイムの音――
「あら、チャイムね。じゃあ今日はこれで――委員長!」
「起立、礼――」
そして、放課後――
椿は雷音との待ち合わせ場所、屋上へと歩を進めた……
「じゃあ今日は、椿ちゃんが経験値上げられそうな場所にいこっか☆」
2人は屋上で合流した後、RPG化――桃は、楽しそうに微笑んだ。
「ところで今日は――どんな所に行くの?
昨日の所は……とてもじゃないけど、攻撃する気にはなれないなぁ」
椿は少し不安そうな表情を見せる――
「……ふふっ♪ それは着いてからのお楽しみ~☆ じゃあ行くよ~!!」
桃は椿の腕を掴み、2人は昨日のように光に包まれた――
――そして光が晴れた後、着いた所はというと……
「くっ……暗いっ……なんなの此処っ!? ……お墓がいっぱい……??」
そこは周りがどんよりと紫がかった空間に、所狭しと並ばれた
墓の数々……200%“何か”が出てきそうな、空間――
「椿ちゃんが、超苦手な“アレ”が出る場所なんだよっ☆
きっと、ここなら思いっきり攻撃――」
「えっ!? きゃっ……!?」
と、そこに2体のゾンビが襲いかかる――
「こっ……こここここここ来ないで来ないで~!! いやぁっ……!!
きっ……気持ち悪いぃぃぃぃ~!! 悪霊退散っ!!悪霊退散~っ!!」
椿はパニックに陥りながらも、
着物の合わせに入っていた札を出し、ゾンビに貼り付けていった……
「う~が~……」
ゾンビの行動は、鈍っていく――
「やっぱり――予想以上の反応♪」
巻き込まれないよう、桃は少し離れていた。
「ふぅ……」
「う~が~っ!!」
「ええっ!? きゃあぁぁぁっ!!?」
一時的に動きが弱まったが、またもゾンビは襲いかかる――
「桃ちゃん!? どっ……どうすれば倒せるの~!?」
とにかく札を張り付けるが、動きが鈍るだけのよう――
「頑張れ~☆ 昨日のすごい技(?)使えば勝てるから~!!」
桃は手出しする事なく、楽しそうに微笑む……
「ええっ!? 昨日の!?」
「多分だけど、僧侶系は攻撃系の技、少ないはずだから」
桃はどこか――他人事のような口調だった……それは自分の
RPGキャラ以外は、どんな攻撃ができるのか分からないからだ。
「よぉしっ……お願いっ!!
ゾンビさん、どうか安らかに天国にぃぃ~!!」
半泣きながらも、これ以上ゾンビに触れられるのに耐えられなかった椿は
どうにか光の玉――昨日よりは小さめの――を出して、ゾンビを倒す事が
できたのだった。
「はぁ……やったの?」
「おめでと椿ちゃん☆ 経験値ア~ンドお金GET!」
「お金……?」
ゾンビは消え、その後には小さな袋……中にはお金が入っていた。
「あっ……こいつら当たりかな? 他のゾンビより多めみたい」
「これ……もらっていいの……?」
「もっちろん☆ そのお金でアイテム買うんだよ!」
「……でも、なんだか悪い気がするなぁ……」
倒した後、お金までもらってしまうのは、悪い気がした――
「もらっとかなきゃダメだよ!!モンスターから取る以外に――
お金もらえる時ってめったにないんだからね!
それでアイテムとか買って持ち歩かないと……そうだっ!今から
アイテム屋行かない? 椿ちゃんも回復アイテム細目に買わないと――」
「あっ、うん……でも――私は回復アイテムなくても……」
自分は僧侶だから支障はない、椿はそう思った。
「……魔力の回復は、いくら僧侶でも自力で回復できないの。
他人に与える事はできても――他人から無理に奪う事もできないし
与える側の意志があって成立するのが“魔力の譲渡”――
この前言ってた、蓮から椿ちゃんに、みたいにね☆」
「!!」
桃にそう言われ……椿は即座に蓮の事を思い出し、頬を赤らめる――
「あははっ♪ 椿ちゃん真っ赤~☆」
そんな椿を桃は楽しそうにからかった。
「……もう、椿ちゃんが蓮さんの名前出すから……」
「それにしても……蓮は今頃どこにいるんだろーねー……
もしかしたら、現実で会ってたりして?」
桃はふと、そんな事を言い出した。
「う~ん……それはない気がするなぁ……
蓮さんみたいな人、会ってたらすぐ分かりそうな気がするし……」
「現実世界では猫かぶってるタイプかもしれないなって……
そうは思わない?」
「確かに、それはありえない話じゃないけど――」
そう言いながら、椿は少し想像する……
以前会った時からは想像できない……猫をかぶった蓮の姿。
「――いつか偶然、再会できるといいねっ!」
「……うんっ……!」
「じゃあいこっか――って……きゃっ……!?」
と、安心したのも束の間――ゾンビが現れ、桃に襲い掛かる……
「桃ちゃんっ……大丈夫っ!?」
「もぉぉっ……服汚れちゃったじゃないっ!!このアホゾンビ~!!
こうなったら……売られた喧嘩っ、買ってやるっ!!」
そう言って、桃は勢い良く手持ちの本を開く――
「えっ……桃……ちゃん……?」
「原子団っ!! 2H2O!」
桃がそう叫ぶと――本の中から、短い手が付いた、球状の物体が6匹……
よく見ると、そのうちの2匹はO、
他の4匹はHと顔の部分に書かれていて、どうやら口のような物もある……
そして、Oと書かれた2匹はそれぞれ、2匹のHと手を繋ぎ――
H2匹とO1匹、3匹ずつのグループに分かれる……
「H2O……? じゃあ……この子達――……」
そう椿が思っているうちに、6匹はゾンビの足元へ……そして――
「わっ……!」
右足と左足に分かれて接近した2組の球体達は、即座に水へと姿を変え、
「状態変化っ!!」
桃がそう叫ぶと……
一瞬にして、氷へと変わり、ゾンビの動きを封じたのだ――
「すごいっ……これが桃ちゃんの技――」
感心する椿に対し、桃の表情は真剣そのもの――
「H2SO4……100%っ! 大増量っ~!!」
桃が叫ぶと、それからまた球体の物体が本の中から大量に……。
「H2SO4……ってまさか硫酸……??」
椿が呟くと――
「うがぁぁぁぁぁぁっ……!!」
ゾンビは降り注がれた液体で――完全に溶けてしまった……。
その後――姿が消え、先程のように小さな袋だけが残る――
「よぉっし! 完了♪」
お金が入った小さな袋を手にし、桃は満面の笑顔。
「椿ちゃんっ! 早くショップ行こっ☆」
「う……うん……」
嬉しそうな桃に対し、椿は――呆然としていた……。
「? どしたの??」
「えっ……えっと……強いね、桃ちゃん……原子、操るんだ――」
「椿ちゃんに技見せるの、初めてだっけ?
召喚師って楽しいよぉ~☆ 他はね、COで相手の息の根
止めれるけど……ゾンビは硫酸の方が倒しやすいからね♪」
「そう、なんだ……」
自分の技を披露した桃は上機嫌……
そんな桃に対し、椿は――
「桃ちゃんだけは敵に回したくないかも……」
と、桃の耳に入らないよう呟いた……。
そうして2人は、ショップのあるエリアへと向かった――