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chapterⅩ falsehood -偽言- Ⅴ

蓮と椿のクエスト、椿の着物の中身が明らかになります(笑)

「……雷音ちゃんはああ言ってたけど、あんな風に答えてくれる

 蓮さんを……悪い人間だとは思いたくない……悪い人だっていう

 可能性は否定できなくても、必要以上に悪い人間かもしれない

 とまでは、思わなくて良いんじゃないかな……?

 さっきの言葉も……嬉しかったな……私の事、触れすぎないでいて

 くれて、私の気持ちも、否定しないでくれた……やっぱり私、

 蓮さんのそういう所が……」


それから、蓮の背中を見ながら椿は思い返す……以前、雷音とした会話で

雷音は蓮が悪い人間である可能性を示唆するような事を言っていた。

何も知らないのに、一方的にそうであると思うのは失礼だと感じながらも、

その可能性は否定できないと考え続けてはいた。現実の蓮の事を知らない

自分は蓮という存在を美化しているかもしれない。けれど……やはり

蓮なりの気遣いや優しさを時折感じる瞬間もあって、それは嘘ではない、

本物であると……それが嬉しいと、椿は感じていた。


「それに……また名前言ってもらえたの、嬉しかったなぁ」

「名前……?? なんの話だ……??」

「え? ああっ声に出て……!? す……すみません! さっき、その……」

心の中で思っていた事を

思わず口に出していた事に恥ずかしさが込み上げる。


「さっきのって……ああ……この前も思ったが、

 名前を口にされる事は、そんなに嬉しい事なのか?」

「あっ……はい、特に私は――本名と同じですし」

「……!! って! それ個人情報だろ!? こんな所で言ってる

 んじゃねーよ! 誰が聞いてるか分からねぇだろ!?」

「え? あっすみません!!」

焦る蓮に椿は謝る……。


「……やっぱりそうか……だったら、あの時の事も

 聞き間違えや記憶違いではなかったって事か……

 それにしても、声にした自覚がなかったのに聞こえたのは

 もしかして創造者が……? 後で色々問い詰めねぇと……

 ……でも、これで確信した……さっきの話はやっぱり……」

蓮は心の中で思い返し、確信する……先程、諷とした会話。

現実世界の諷の妹を慰めた少女が、椿であるという事を。


「……あれ……?」


蓮とのクエストが始まろうとした時、椿の視界に1人の見知らぬ

プレーヤーの姿が目に入る。そのプレーヤーはモンスターに怯えていて

自分が力になるかは分からないが、助けたい……そう椿は感じた。


「……行きたいなら行け」

「でも……」

今日は昂に言われた蓮との共同クエストの日、

1人でプレイしている訳ではないので、言葉を濁す。

「正直、俺は1人で戦う方が気が楽だから、

 てめぇが行きてぇなら行ってくれた方が助かるが」

「……! そっ……そうですよね! ありがとうございます!

 では失礼します、落ち着いたら合流させて頂きますので

 その時はお願いしますね!」

それから椿はそのプレーヤーの元に向かう……


「……ううっ……名前言ってもらって優しい言葉かけてもらえて

 調子に乗ってたなぁ私……蓮さんは今日も無理矢理

 お付き合いしてくださってるのに、一時的にレベル

 高くなっているとはいえ、足手まといの私はいない方が、

 蓮さんは1人でレベル上げする方が気が楽に決まってるよね……

 昂さんやシーフさんも色々言ってくれてる……けど、

 プラスに捉えてくれているだけで、それが蓮さんの

 気持ち100%って訳でもないんだし……」


突き放すような蓮の言葉に、現実を思い知らされる。今日蓮と一緒に

レベル上げをするのは昂の命令だから。蓮は昂には逆らえない。

蓮は自分とは積極的には一緒にいたいとは思っていないし、むしろ

蓮にとって椿は必要ない存在なんだろう、椿はそう思っていた。



「……ったく……あのお人好しが……アイツは初対面でも

 何も知らない奴の事でさえ気にして助けようとして……

 あの時だって……」

一方、自分の戦いを進めながらも、蓮は思い返す……

それは、初めて蓮と椿が出会った時の事。


「お前っ……俺が……『見える』のか……?」

「そりゃ見えるから助けようと……」

「今のっ……俺の姿は……普通の人間にはっ……見えない……」

「えぇぇっ!? じゃっ……じゃあどうすればっ……

 貴方を助けられるのですかっ!?」

「……見ず知らずの奴をっ……助けてくれるのか……?」

「当然ですっ! 見殺しになんてっ……できません!!」

「じゃあ……コインで変身っ……」

その後の……RPG化した椿の姿は2人の予想を裏切るもの……

何しろ、見た目は全く変わらないものだったから……



「あの時も……本当に何も知らねぇで……俺の事を――」



「……今はとにかく困ってるプレーヤーさんを……大丈夫ですか!?」

そして椿はプレーヤーの少年の前にバリアを張り、

続く攻撃魔法でモンスターを倒す事ができた。


「うわ~ん! 怖かったぁぁぁ……」

「えっ……!? ……そっ……そうですよね……」

恐怖で安堵した事もあってか、その少年は勢いよく椿に抱き付く。

抱き付かれた椿は戸惑う気持ちもあったが、突き放そうとはせず、

安心の反動もあって仕方ないだろうと優しく微笑む。その瞬間……


「……!!?? きゃっ……!?」

「……ふ~んお前貧乳だなぁ、中身はサラシ、と」

「へっ……!?」

少年は両手で椿の胸を触った後、故意に椿の着物の胸元を着崩した。

「綾様みたいな爆乳だったら もみごこちも最高だったのに……ぎゃっ!?」

「……お前……今、椿に何をした……?」

その瞬間、少年の首筋に殺気だった蓮の剣の刃が突き付けられた。


「蓮さん!?」

「うわぁぁぁぁ!? 蓮!?」

「……椿、怪我はなかったか?」

「蓮さん私は大丈夫です! 怪我もないので気にしないで下さい!」

「……椿は気にしなくても、俺はこういうプレーヤーは

 大嫌ぇなんだよ……」

「ひぃっ……!」


「は~い、ストップストップ~♪」

聞き覚えのある、小さな少年の声――……と同時に昂は姿を現す。

「創造者っ!?」

「昂さんっ!?」

「……創造者……?」


「今日は椿ちゃんに免じて許してあげようよ、ね? 蓮?」

昂は笑顔で蓮を説得する。

「なっ……」

「まぁ相手に殺意もない訳だし殺す程の事じゃないと思うし……ね?

 それにね、殺すよりもさ? 僕も~っと楽しい事知ってるよ☆

 君さぁ、本っ当――にダメな子だなぁ? 椿ちゃんに謝りもせずに

 現実世界に帰ろうとしたでしょ? 無理だよ?? 今は君の体の

 移動、僕の意志で止めてるんだもん♪ だから――……」

「ひぃっ……!!」


昂は少年の胸元に、槍を突き付ける……

「もぉ、こんな事はしちゃダメだよぉ? こういうのはさ、

 ラッキースケベの場合は不慮の事故で仕方ないと思うし

 綾ちゃんみたいに同意の上なら良いと思うけど

 一方的で、しかも傷付くような事まで言う子にはお仕置きが 

 必要だと思うんだよね?? もし今後同じ事したり言ったと・き・は~

 今度こそ僕、拷問用具召喚するからねぇ~? 分かった~??」

昂は笑顔だが、蓮にも劣らず強力すぎる殺気を放っていた……。


「ごっ……ごめんなさ~い!! これで許して下さ~い!!」

少年は手持ちのアイテムを出し、消えてしまった――

「あははっ♪ 拷問の方が楽しかっただろ~けど、グロすぎて

 椿ちゃんには見せられないし優しい椿ちゃんは止めるだろーから

 これで平和的解決~☆ セクハラしてあんな失礼な事言うなんて

 本当に酷いプレーヤーにあたっちゃって災難だったねぇ……慰謝料

 には全然ならないと思うけど、さっきの子のアイテム、椿ちゃん

 もらっときなよ♪ あっ拒否権なしで強制譲渡ね~」

「えっ……えっとその……まだ状況が完全に飲み込めてはないの

 ですが、助けてくださって ありがとうございました……」

次々と話を進める昂に椿は茫然としながらも礼を述べる。


「創造者! 今日はどうして……」

「蓮、あの子の事殺しそうだったからさ~止めた方がいいかなって。

 まぁ個人的にもあの子はムカついたけど」

「普段のクエストの時は止めねぇくせに……それにアイツ、

 あの魔女の関係者だったじゃねぇか、いちいち覚えてねぇが

 俺を殺そうとした事もあっただろうし、俺も殺した事あるだろうし」

「……まぁ今回はあの子、蓮に対しては悪意なかったでしょ?

 綾ちゃんロスがあるとはいえ、あまり熱心なファンじゃあなかった

 みたいで簡単に推し変しようとしてた感じだし? 今回の場合は

 脅しちゃったとはいえ、謝ってもらえずに殺されてた方が

 椿ちゃんも、あまり気分良くないかな~って思ったしね……

 椿ちゃんも殺すのは止めていた訳だし……僕はこれで良かったと

 思うな~……それに……」


「……怖がらせちゃって、本当にごめんね。

 さっきの蓮、めちゃくちゃ怖かったでしょ?」

「えっ……??」

昂は蓮には聞こえないように、椿の心を見透かすように囁いた。


「……それにしても創造者……前々から言いたかった事だが……

 どうにかならねぇか? “あの”設定は……」

「ん~? 何の事かな~??」

昂は蓮の言いたい事が分かっているようだが、

あえて蓮に言わせようとする様子――

「……っ……そのっ……なんで……見えるようにしてるのかって……!」

蓮は怒りを含みながらも、照れた様子――

「ふふっ♪ 君は普通の、現実世界の椿ちゃんがしてるのと

 お揃いの方が好みなのかな~??」

「……誰もんな事言ってねぇだろ!」

「えっと……何のお話……ですか??」

椿は全く会話に付いていけなかった……。


「椿は黙ってろっ!」

「――椿ちゃんは、サラシは嫌かって話♪」

昂は楽しそうに答える……。

「へっ??」

「違うだろ創造者!! それが見える事自体がおかしいだろっ!!」

「……というか、私……今日初めて気付きました……

 あのっ……でもこれ……絶対に外れませんよね??」

無防備にも椿は2人の前でサラシを引っ張り確認する……

「何やってんだ!? そーゆー事はいちいち確認する必要ねぇよ!」

「そりゃあ、まぁ……下着は見えちゃっても、外れたりしたら……

 倫理的に問題あると思うし? まぁモザイク入れたらアリっちゃ

 アリかなぁとも思うけど、18禁じゃなくて一応全年齢だし

 このゲーム(笑)……椿ちゃん、嫌なら設定変更しちゃうよぉ♪

 なんなら際どいスケスケとかでも☆」

「創造者っ!!」

「いえ……遠慮しときます」

椿は冗談か本気か分からない、昂の言葉に苦笑した……


「……うう……それに前から思ってたけど、私の場合姿……スリー

 サイズもやっぱり同じっぽいよね……貧乳……気にしてるのに……

 さっきの人……もし大きかったら……満足してたのかな……??」

椿は心の中で呟く……

「――爆乳モードにカスタムしてあげよっか? 椿ちゃんが望むなら。

 僕的には大きかったら良いってものでもないと思うけど」

「ええっ!!?」

「創造者っ! それセクハラ発言じゃねぇか!?」

「ああ、君は今のサイズの方が好みだって事?」

「おいっ!! 俺はそーゆー好みとかねぇっての!!」

椿の胸の話になり、蓮は赤面しながら言い返す……


「――それにしても、さっきのさぁ、被害者が椿ちゃんじゃなきゃ

 そこまで怒らなかったよね~☆ 蓮もっ」

昂はそう言って、意地悪そうに微笑んだ。

「えっ……」

「……!! そんな訳ねぇだろ! 俺はあーゆー輩が嫌いなだけだ!」

蓮は強く言い放つ――


「――……そうですよ、昂さん……それに、蓮さんの気持ちを勝手に

 決めつけるのは、蓮さんも困ると思いますから、蓮さんの為にも

 今後は――控えて頂けないでしょうか」

「……!」


椿は前々から感じていた。昂は自分を喜ばせようとして言っている

のかもしれないが、本心と別の事を勝手に言われるのは、蓮にとっても

迷惑であるだろう……だから、はっきりと昂に伝える。


「うん、分かった……ごめんね、色々勝手な事言って」

「それから……その、今日あの時……

 口にしたつもりはなかったんです、けど……」

「……ああ、その件もごめん。もうそういう余計な事はしないでおく。

 それと、邪魔してごめんね? じゃあ後は2人でごゆっくり~」

昂は椿の言葉を素直に受け入れ姿を消す。


「……」

椿は今日、自分が思い上がっていた事、浮かれてしまっていた事を

恥じていた。そして期待はしない、そう言い聞かせる……。蓮は被害者が

自分だから激しく怒ったのではない。そもそもそれだけの理由がある

はずがない。正直、蓮が激しく怒った理由が、被害者が自分であったと

いう理由だったら嬉しい気持ちはある。でも蓮ははっきり否定していた。


そして昂が来た事もあって、蓮はプレーヤーを殺さずにすんだが、

昂か来なかったら、間違いなくプレーヤーを殺していただろう……

自分ではきっと蓮を止める事ができなかった……我儘だとは思っている。

けれど、淋しい気持ちになってしまってもいて、椿は複雑な気持ちだった。


「……大丈夫か?」

「はいっ……ではいつも通り、続きしましょうか」

こんな気持ちを蓮には悟られたくない……そう思いながら

椿は控えめに微笑みを浮かべる。それから2人はまたクエストに向かう

――だが椿はショックもあってか、いつもより元気もなく、蓮の

助太刀なしには、命さえ危うい――……そんな、クエストだった。



「――今日はこれ位にしとくか」

椿の魔法が後数分で切れる時間、蓮は切り出す。

「……今日は……すみません……

 いつもより……更に鈍くなってしまって……」

「――気にするな……そういう日もある」

「……来週はもっと頑張りますね――1日1時間しかできないけれど、

 毎日修行して、少しでも強くなれるように……!!」

そう、気合いを入れようとする椿……

だが、それは――明らかに無理をしているように映る……


「……椿……何か“見たい”物とか……あるか……?」

そんな椿に蓮は突然切り出した――

「え? ――見たい物……ですか――…?? どうして……?」

「……!! なっ……そんなの創造者の命令に決まってるだろっ

 ……アイツが聞けって言ってたから……!!

 なんでも良いから――さっさと答えろ……!!」

「あっ、す……すみませんっ――えっと……えっと……じゃあ――」

椿は一度、言葉を切る―…


「……雪……」

「えっ……?」

「雪が、見たいです……その――もうすぐ冬なのに……

 私が住んでいる地域ではめったに見れなくて……一年に一度

 積もるか積もらないかで――その……変……ですか……?」

「……いや……」

「――えっと……こんな答えで大丈夫でしたか……?」

「ああ……じゃあな」

「あっ……さよなら」

そして椿は現実世界へ、蓮は――昂の元へと向かった。

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