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chapterⅩ falsehood -偽言- Ⅳ

蓮と椿が話すお話です。

「……本当にアイツ、何も企んではねぇんだろうな……?

 ――信用ならねぇ」

諷が消えた後、残された蓮は――思わずそう零す。

「……って!

 アイツが何を企んでいても俺には――……」

関係がないはずだ……なのに、少しでも考えてしまっていた、

椿の事を心配していた自分に気付いてしまう。そして……それは

きっと昂の思う壺なのだろう……そう直感し、考えるのをやめる。


「それにしても、分かってた上で、ゲームの中だけでの

 名前とはいえ、普通自分にあんな名前付けるかよ……」

“彼”が諷「いさむ」と名乗っていた理由……

おそらく「言葉の風で諷」という説明は表向きで、本当の意味は

おそらく諷刺の諷……それに触れた事を喜んでいた様子から、そう思う。

「……なんか得体のしれねぇ奴だったな……

 きっと、もう会う事はないだろうが」


「お待たせしました蓮さん……!」

そして蓮の前に椿が現れる――

「……時間丁度だろ、気にするな。

 先にこれ――今日会った奴から、てめぇに渡せって言われた物だ」

蓮は最初に諷から言伝ったアイテムを椿に手渡す。


「……え!? ……どなたからですか!?

 この箱の中身……色々なアイテム……? すごくたくさん……!」

「――この前の魔女の取り巻きだ……

 侍のRPGキャラ――詫びって言ってたぜ」

驚く椿に、蓮は静かに答える――……

「あっ……! もしかして、あの方っ……!?

 ……セーブも使ってましたし、

 そんなに――気を遣わなくても良かったのに……」

「だとしても1回死んだんだし、これでも足りねぇくらいだろ……」

「……そんな事ないです! 人によっては殺しても、ゲームだからって

 相手に対して何もしない方もきっと多いでしょうに……なのに

 私の為にちゃんとアイテムをたくさん用意してくれて、優しくて

 礼儀正しい方なんですね――嬉しいですっ!

 ――ありがたく受け取っておきますねっ!!」

椿は嬉しそうに微笑む……


「……俺は、アイツの事は信用ならねぇが」

その笑顔を蓮は複雑な表情で見つめ、思わず小声で本音を漏らす――

本当に“諷”というRPGキャラは、優しくて礼儀正しいのか

……何か企んでいるのではないか……?

先程の会話から、蓮の中には、諷を疑う気持ちが芽生えていた。

「……? 蓮さん?」

「……なんでもねぇよ」

けれど、それはあくまで、自分が感じた事……

相手が信用できる人間かどうか、

そもそも自分は椿にそんな事を言う権利はない……

そう思い、蓮は言葉を打ち消した。


「あの……その方のお名前は?」

「……名前? “(いさむ)”……漢字は言偏に風って書くらしいが…」

「――諷、さんですね、分かりましたっ!!

 ……その方に会えたら、一言お礼ができればと思います!

 いつか会えたら嬉しいですっ」

諷に会いたがる椿の様子に、蓮は複雑な表情を浮かべる……。

諷はおそらく、もうすぐゲームはやめてしまう。

それまでに会う事はあるのか、それとも――

今後、現実世界で2人が会う未来もあるかもしれない、と……


「……そういえばお前、昔……現実世界で巫女の姿でいる時に、

 兄がいる幼い女と関わった事はあるか?」

先程諷とした会話を思い出し、思わず蓮は―ー椿に問いかけていた。


「えっ……? あっ……はい! 蛍ちゃんの事ですか?

 もしかして、昂さんからその話……!?」

「創造者……? いや、さっきの侍が、そいつの兄らしいみたいで……」

「まさか……あの方が!?

 蛍ちゃんのお兄さんもこのゲームのプレーヤーだったって事…??」

「……そいつ……諷とは、現実世界で出会った事はねぇんだよな?」

「あっ……はい、妹さんの……蛍ちゃんからお話だけ聞いていて……」

「――そういう事、か……だったらアイツが言っていた通り……?

 でも……いや、さすがに“それ”は聞ける訳じゃねぇだろ……」

蓮の中で諷の考えが正しいのだろう、とほぼ確信する……

かつて椿は現実世界の諷の安否を気遣い、彼の妹を慰めていた……

そして、それが星…現実世界の昂が椿を選んだ理由の1つでもあった。

けれど蓮の中で1つ、決定打に欠ける部分があった……

でもそれは、椿に聞くべきではない、と聞くのをやめる。


「……前から気になっていたんですが……

 その、蓮さんは、昂さんからは……その時の事は、どれ位聞いて……」

椿は不安げに蓮に問う……

「詳しくは知らねぇが、てめぇが自分の容姿に関して嫌な目に

 遭った事が、選ばれたきっかけの1つである……そんな所か」

「嫌な目……お兄さんが生死を彷徨っていた蛍ちゃんと比べたら、

 私の嫌だった事なんて――」

「……人の不幸の大小なんて測れねぇし、比べる必要もねぇもんだろ」

「……! でも、あの時の事はきっと、蓮さんにとっては

 大した事じゃないです……だって……あの時私……!

 むしろ、あの時の事……蓮さんが知ったら

 きっと蓮さんは私の事……軽蔑……すると思いますし」

そう言った椿の声は――震えていた。


「……てめぇが辛いと思ってたら、辛かった事実自体は変わらねぇ……

 何が辛いと感じるかも、人それぞれだ……

 どんな事であれ、“椿”にとっては、辛かった事だろ」

「……!」

「……余計な話をして、嫌な事を――思い出させたな」

今の椿にはこれ以上聞いてはいけない……

そう感じた蓮は話を切ろうとする。

「……でも、蓮さんにそう言って頂けたから、良かったと思います。

 それに、その事があったから、蓮さんと出会う事もできたんだと

 思いますから。ありがとうございます、蓮さん」

「……!? ――今の会話のどこにも、てめぇに感謝される

 要素はなかった気はするが?」

「……私の過去を知る事があれば、軽蔑……はされちゃうかも

 しれませんが、それでも今、私がその時辛いと感じた

 事実までは、否定しないでいてくださりましたから」

「……軽蔑……か……

 過去を知られて軽蔑されるとしたら――絶対ぇに俺の方だ」

「え? 今なんて……??」

「……なんでもねぇよ……無駄話は終わりだ、さっさとクエスト行くぞ!」

「あっ……はいっ!」

そして2人はクエストに向かった――……

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