chapterⅩ falsehood -偽言- Ⅲ
蓮と あの子が再会する お話です。
それから、放課後――
BATTTLE CHARACTERSの世界では蓮は椿との
待ち合わせの時間までに、別フィールドで一人戦い続けていた……
「この雑魚が……つーか……創造者の野郎……何考えてるんだ?」
蓮は昂の事を考える――
「これからしばらくは、椿ちゃんに会う日……椿ちゃんと
過ごす1時間は、RPG化の限界時間にいれないであげる☆」
「はぁ……? 何を今更……どうして――」
「つまりは椿ちゃんに会う日は、2時間遊んでも良いよ☆」
「……答えになってねぇし」
「……でも普通ランクから簡単ランクのエリアでねっ♪」
「はぐらかしやがって……何が目的だ?」
「……教えると思う?」
「――その気はねぇようだな」
「……君にとって、嬉しい許可……でしょ? 前に君が保留にした……
椿ちゃんが強制イベントでGETして君に与えたアイテムを発動
したら――君はレベルMAXになって、あのエリアの挑戦権は
満たせる……とはいえ、君は今の所そのアイテムを使う気はない
みたいで、もっと強くなりたいって思ってるみたいだから――
優しいでしょ? 僕♪」
「――」
意味ありげに微笑む昂の考えを読み解こうとする……
「その事実」は、初めから分かっていた事だった……
自分がこの世界に執着する理由も、本気を見せる為だった……
現実世界の昂に許されたい……現実世界での望みを叶える為に、
嫌々ながら入った世界――“蓮”の存在理由は、現実世界の蓮の
望みを叶える為……戦う理由は、望みを叶える為――
そしてモンスターを捌ききった所――
「蓮殿……!!」
背後で耳に覚えのある、蓮を呼ぶ幼い少年の声が聞こえた――
目をやると……そこには小柄で二本の刀を腰にさしている少年……
白ハチマキに水色の法被、黒い長髪を頭上で一括りしている、
その姿には見覚えがあった――
「てめぇは確か――あの魔女の……」
「そう、拙者は――綾殿の、側近でござる」
「……何の用だ?」
「一言お詫びを申し上げたくて……拙者は今まで綾殿の為とはいえ
蓮殿を殺し掛けた事もあった……申し訳なかったでござる」
諷はしゃがみ込み、深々と頭を下げる――
「別に謝る必要はねぇ……つーかてめぇもやらされていただけだろ?」
「確かにそうでござるが……」
「だったら、それで終わりだ」
「あっ……ありがとうでござる! ……それで――
こちらは蓮殿に……お詫びの品でござる」
「……いらねぇよ」
蓮は諷の厚意の品を拒む――
「けど拙者っ……何度も蓮殿には迷惑をおかけした……
だから、何か――お詫びをしないと……気がすまないのでござる」
諷は蓮を見つめる――そんな諷の様子を見た蓮は複雑な表情を浮かべる……
「詫びにしてもいらねぇし」
「……でも――」
「……だったら代わりに、今から俺の問いに答えろ」
「えっ……?」
「何故あの女に、あれ程尽くす?」
自然に零れた、諷に対する蓮の問い――
それは蓮本人にとっても、意外なものだった……。
「どうして、そのような事を……?」
「……深い意味はねぇ」
「……蓮殿には、どう見えていたでござる?」
「……どうって……」
「……好きな人に尽くしている……そう、映っていたでござる?」
「――そう、だったかもしれねぇが……
少なくとも、それだけじゃあねぇだろ」
蓮は諷と何度か戦ってきた……その時から、
諷には――他の綾の親衛隊と違う何かを感じていたのだった。
「……蓮殿にそう映っているのなら……
鈴ちゃんには――どう映ってるんだろな、僕は――……
鈴ちゃん……現実世界の綾殿は拙者の幼馴染でござる」
「――てめぇらは、リアルでも関係があったのか」
「……鈴ちゃんが綾殿にRPG化する瞬間を一方的に見た拙者が知ってる
だけで、鈴ちゃん……綾殿は拙者がリアルの知り合いだとは気付いては
いないと思うでござる……拙者は――昔、現実世界で取返しの付かない
事をして、取返しの付かない結果になった。そして……ああ見えて
綾殿は現実世界では結構塞ぎ込んでしまっていて、それで――
……その償いも兼ねて、な」
「……償い、か……この、ゲームの世界で――」
「……もちろん、それが完全な償いになるとは思ってはいないでござる」
「……!!」
諷は――まっすぐな目で蓮を見つめる。
「僕は鈴ちゃん……現実世界の綾殿の事が大好き……だった。
でも今は――……恨んでいる、憎んでいる、許せないでいる……!
どうして自分だけこんな目に遭ったのか、納得できないでいる……!
けれど、そもそも自分のせいでこうなったんだし、鈴ちゃんも
不幸にはなったから、後ろめたさも……ある。完全な償いは
きっと――僕がもっと、ちゃんと、心の整理ができた時に――
でも今は……この世界にいる時は……昔の、ただ好きだった時の
頃のように遊んでもいられて……こうして鈴ちゃん……綾殿と
遊んでいるとまるで昔に戻れたようで楽しい気持ちにもなれた……
けれどもうすぐ、きっとその時間も――終わろうとしている」
「……どういう事だ?」
「これはあくまで拙者の憶測ではあるが……綾殿は近いうちに
……この魔法のゲームの世界から、いなくなる」
ふと諷は――そう断言した。
「……あの魔女、バトキャラをやめる気か」
「まだ拙者も言われていないし、蓮殿にももしかしたら――
直接言いに来るかもしれない。その時蓮殿にはきっともうご迷惑を
おかけする事はないと思うから……安心して欲しいでござる。
そして――こちらを、巫女殿に。」
諷は椿への品を蓮に渡す。
「どうして――」
「本当は直接お渡ししたかったが……拙者は今日はもうすぐ時間切れで……
蓮殿の方が、拙者より先に巫女殿に会うご予定があるかと思って……
それに正直拙者も、綾殿がいなくなったら――……この世界に
執着する理由もなくなるから」
「……確かに今日この後、会わされる予定もあるが」
「拙者は……これから先、巫女殿にはずっと会う事もできないかも
しれない――言葉で直接謝罪できないままなのは心苦しいが、
せめてアイテムだけでも渡したくて……いくらなんでも
殺してしまったのは、やり過ぎだったと思ってるでござる。
本当は傷付けたくなかったでござる……だって、もしかしたら――」
そして諷は一呼吸置く。
「巫女殿は……現実世界でも同じ姿の“椿”殿でござる?」
「……!?」
諷は意味ありげに、蓮の顔を覗き込んだ。
「……その反応、やっぱり――」
「……てめぇは椿の……現実世界の椿の関係者か!?」
「……拙者は現実世界の椿殿には直接会った事はないでござる……
ただ、拙者の妹が昔――椿という名前の、この世界の椿殿とよく似た
特徴の巫女殿に可愛がってもらえた事があって――……現実世界の
拙者が死に掛けた時、妹をなぐさめてくれた巫女殿が、椿殿かと思っ
てな……さすがにそれは、話ができすぎかもしれないでござるがなっ」
そう言って、諷は微笑んだ。
「……てめぇは何が目的だ?」
「――別に拙者は、何も企んではないでござる。ただ気になっただけ……
何だか不思議な縁を感じたでござるから♪ では――椿殿によろしく
お願いします、蓮殿」
そして諷は去ろうとする――
「……てめぇ、名は?」
「言葉の風で、諷でござる」
「……諷刺の諷、か」
「――そう返してくださったのは蓮殿が初めてでござる♪
では……もしまた機会があれば……それまでは去らばでござるっ!」
そうして諷は笑顔で、蓮の前から完全に姿を消した――……




