chapterⅩ falsehood -偽言- Ⅱ
正也が雅晴の双子の姉・麻里と話すお話です。
一方、正也はというと――
「はぁっ……はぁっ……何してるんだ俺っ……
いくら気まずいからって……あからさまに避けすぎだろ……!」
ある程度椿から距離を取った後――
廊下に手を付き、どうにか息を調える……。
「…………ああぁぁ同一人物だって分かったから申し訳なさすぎるし
合わせる顔ないし……妃宮さんは俺と違って同じ姿だし気にするなって
方が無理だろ……!そもそもなんで創造者……あんな妃宮さんだけ
そっくりにしてるんだよ……やらかしたのは………の時……だし……
俺から言わない限りは絶対にバレない自信もあるけど……
いつかちゃんと“今”の俺の時も、謝らないと……」
「カ~イチョ☆ ……何独り言、言ってるんスか?」
その独り言を――偶然通りかかった1人の少女は聞いていたのだった――
「うわぁぁぁぁっっ!? ……中里さんっ!?」
正也は―あまりの驚きで叫んでしまった……。その少女の名は、中里麻里
――雅晴の双子の姉、共に生徒会役員を務めている。つまりは正也と
同い年――だが、会長である正也を尊敬してか、同級生では正也にだけ、
体育会系口調で接していたのだった。
「もーもーそんなに驚く事ないじゃないっスか、軽く傷付くっスよ~」
「あぁ……ごめん、すまなかったよ……中里さんに声かけられると
思ってなかったから、びっくりして」
「まー別に私とカイチョの仲だし良いっスけどね!
んじゃ、今から生徒会一緒に行きましょっス!」
「え? 生徒会?」
「緊急召集っスよ……私は携帯持ってるけど、カイチョは持ってないっス
からねぇ……もうすぐ放送もかかると思うけど……私はマサから
連絡来たんで」
「成程な、じゃあ行こうか」
「了解っス!」
2人は生徒会室に向かって歩き出す――
「それと……カイチョ?
呼び方“麻里”で良いって何度も言ってるのに……」
「そこは譲らないから。中里さんは、中里さん」
正也はある程度話す間柄の女子でも、
相手の事は下の名前で呼ぼうとはしないのだった――
「……マサと同じっスね~」
「そういえば、マサも女の子の名前、名字でしか呼ばないよね」
「カイチョもやっぱ気付いてたんスね……昔は私の事も名前で呼んでくれて
たんだけど……なんとゆーか、マサなりの戒め……願掛け……の意味も
あるかもしれないッスね。昔付き合ってた子の事、照れくさくて一度も
名前で呼んであげられなかったのも悔やんでる感じで」
「……え……?? マサって女子と付き合ってた時期あったの?」
「――てっきり……カイチョには話してると思ってたっスけど」
「……元カノ……? ……いたのか? 初めて聞いたけど……」
「此処の子じゃなくて、うちらと同中の子っスよ……まぁ今は付き合っ
てるとは言えない状況というか……この話は――カイチョにならマサも
いつか話してくれると思うから……その時は聞いてあげて欲しいっス」
「……分かったよ……優しいな、中里さん」
「一応双子の姉だし、な~んか自分だけ幸せだとちょっとな、って
思う事があるんスよ……私は、マサにも幸せになって欲しい。
いつも明るくて楽しそうに見えてるかもしれないけれど、ああ見えて
色々抱えてる子だし――他人に想ってもらえる事にも、罪悪感がある
みたいっスよ」
麻里は淋しそうな表情を浮かべる――……
「……マサも色々……抱えてる事、あるんだな……それに、罪悪感、か……
なら――俺は……とんでもない……勘違いしてたんだ、な……」
正也は、複雑な表情で呟く――
「……カイチョ?」
「――なんでもないよ……俺からは詮索とかはしないつもりだし
マサの方から話してくれたら、その時は聞こうと思う」
正也はすぐ、いつもの笑顔を浮かべる――……
「……ありがとっス! カイチョ、大好きっス!」
「……中里さん、それは本当に大好きな人に言うべき言葉だろ?」
「え~? 私は会長としてカイチョの事、性格も好きだし……
それと――え~い☆」
「えっ!? なっ……!?」
麻里は楽しそうに、正也の眼鏡を奪う――
「隙あり☆ っス♪ やっぱ今日も眼鏡外した方が美形モード!
私は外してる方が好みなんスけどねぇ……」
「わっ……ちょっ……中里さん!?」
「外してた方がかっこいいっスよ? ――確かカイチョ、
これあんま度入ってないって……黒板見る時だけで平気って」
「ダメ。生徒会長として、気合い入らないし……」
「……相変わらず、そこも譲らないっスね~もったいないっス!」
「……そう言ってくれるのは嬉しいけど、こーゆー所も
もし彼氏が見てたら……妬くだろ?」
麻里には同学年の彼氏がいる……恋愛事情に疎い正也もそれ位の事は把握
していた……廊下の真ん中、他の生徒の目にも入る場所でのやり取り……
麻里のスキンシップは、人によっては誤解して見られる事もある――
「へーきへーきっス!! カイチョが恋愛対象なのはありえない話っス
からっ!! なんてゆーかカイチョは皆のお父さん的存在?
ってゆーか! 私にとってのカイチョは永遠なるカイチョっスよ☆」
「なら、その永遠なる会長の俺に……
この手のいたづらは……やめてくれ、な?」
「嫌っス♪ 反応見るの楽しいっスから☆」
そう言って、楽しそうに笑う麻里――自分の事を尊敬してくれて
いるのかどうか、時々分からなくなってしまう……
「だから苦手なんだ……中里さん……」
正也は……心の中で呟いた。




