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chapterⅨ collapse ―崩壊― Ⅶ

仮装現実での恋愛と現実世界の恋愛について、竜と碧とレイナが話すお話です。

「それより!竜君――今日は、というか最近桃さんには

 お会いできてないので、お探しでしたら――」

「……碧……俺、まだ何も聞いてねーんだけど……」

「違うんですか?」

「違ってはない……な」

そして碧は――竜が切り出す前に桃の名前を出す。


「――僕、最近竜君にもお会いできてなかった事もあって

 今のお2人の状況が分からなくて……僕がお聞きして

 良いかは分からないのですが、桃さんとは――」

「……昨日会って話せてそれで――俺、今度会ったらアイツに

 ……そういえば碧はさ、誰かに……告白ってした事あるか?」

「こっ……こここここ告白!? ある訳ないですって!僕まだ

 中学生ですし! 恋愛なんて早すぎます! 早すぎです!!」

告白という単語を聞き、碧は動揺する……


「レイナさんは――」

「……ある訳ないわよ、恋愛自体興味ないし」

「そう、ですか」

「竜君、もしかして――」

碧は竜の様子から察する……


「――正直、まだ悩んではいるんだけどな、アイツに好きだって

 はっきり言っちまうかどうか……伝えたいって思っても……

 伝える事が正しい事か分からねぇんだよ」

「そう……ですよね」

「俺がそう言っちまう事で、関係が完全に壊れるかもしれねぇのも

 あるし……そもそもこの世界で、本気で人を好きになったり、

 現実世界でも付き合いたいって思ってる事自体、あり得ないとか

 ……気持ち悪い、迷惑だとか思われるかもしれねぇのに……

 俺は――……めちゃくちゃ我儘だよな……碧はさ……どう思う?」

「僕は……その……恋愛をした事がないので、分からないですが

 ……この世界は……完全に現実世界とは別だとは思えないですし

 竜さんが桃さんを想うお気持ちは、とても尊い感情だと思います」

「そっか……ありがとな、やっぱり碧は優しいな……

 ……レイナさんは――どう思うか、聞いてもいいですか?」

碧の答えは――竜の想定の範囲内であった。そう答えてもらえて

嬉しかったし、安心もできた……でもそれは、友達だからという

気持ちもあるからだろう……だから、竜はレイナに対しても切り出す。


「……私と貴方なら、今の状況なら、

 現実世界で会ったりとかは――絶対に考えられないわ」

「……そう、ですよね」

「でも……それはあくまで、“私と貴方”、だったら」

「え……?」

「そんなの、その人の考え方にもよるし、『その人にとっての貴方』が

 『どういう存在であるか』にもよるんじゃないかしら?」

「……!」

「……私は、恋愛自体した事がない……だから貴方の気持ちは

 分からない……でも……それがあり得るかどうかなんて、他の人の

 意見を聞いた所で――本当に意味があるのかしら? 考え方なんて

 人それぞれだし、結局は――その人の考え方や、相手が誰であるか

 次第じゃないかしら」

「……!! 確かに、そう、ですよね――

 だったら、ちゃんと本人に、確かめてみるしか、ない……よな」

そして、レイナにそうはっきり言われた竜は――決意する。


「ただ……仮想現実の世界なんて、いくらでも現実世界の人格を偽る事

 だってできる……理想と現実は、かけ離れている事もある。相手の

 現実世界の姿も、どのように生きているかも――分からないし、

 仮想現実で何も問題起こしてなさそうな人間、誠実そうな人間が、

 現実世界では悪人だったり、遊び人だって可能性もある。もちろん

 その逆の場合もある訳だけと……最悪、現実世界で関わってしまう

 事で……犯罪に巻き込まれて、被害者になる可能性だってある。

 リスクも考えないといけないから、信用するのもされるのも――

 難しいと私は思うけど」

「それは――確かに、そう――ですよね……正直、桃が現実世界の

 俺に対して悪いイメージある可能性も高いし、信用……されるのって

 難しいと思うけど……俺は……桃の事信用してるし、現実世界の桃の

 事ちゃんと知りたいから――俺、今度会ったら……会えたら、桃に

 色々聞いてみようかって思う……アイツの事、分かってねぇ事だらけ

 だし……それも聞いてみねぇと分からねぇ事だしな」

「……そうですね、やはりお話してみないと分からないですよね。

 ――あの、余計なお世話……かもしれないですが、もし桃さんに

 お会いしたら、竜君が桃さんとお話したがっている事、僕からも

 伝えさせて頂こうと思います」

「サンキューな、碧……でもさ、俺――正直、怖い……気持ちもある

 ……もう今まで通り話せなくなったり、もし仮に、仮にだけど――

 受け入れてもらえたとして、現実世界で女子と付き合った事もねぇ

 俺が、上手く付き合えるか分からねぇし……それにそもそも

 この世界の俺は……現実世界の俺とは……!この世界の俺自体

 現実逃避を願ったから生まれた俺……俺は心の弱い人間だし――」

「……だからこそ、僕達は出会えました。僕と同じように

 竜君が、この世界に招かれたからこそです」

不安な表情を見せる竜に――碧は優しく微笑む。


「そうではあるけど――」

「きっと誰だって、心が弱くなる事ってあると思うんです。

 心の強さだって、元々弱い方がいれば強い方もいらっしゃったり、

 その強さだって、弱い時もあれば、強い時もある……いつも同じ

 じゃないし、一生同じというものでもない……って僕は思います。

 僕は――竜君の不幸を喜んでしまう事になってしまうけれど、

 竜君の心が弱くなってしまった時に、竜君がこの世界に

 招かれたから……竜君とお友達になれて、良かったと思います」

「それなら――俺だってそうだ。碧が現実世界で、辛い思いをする

 事がなけりゃ、お互い“現実組”として、この世界に招かれてない

 ……出会う事もなかったからな」

「……!」

2人の会話を聞いているレイナは―ー顔色が変わる。


「以前にもお話してくださったように、現実世界の竜君が――

 今の竜君と違う方だとしても、中身はきっと竜君なんです。

 桃さんもそれは――理解していらっしゃると思います」

「碧……ありがとな。それと――レイナさんも、ありがとうござい

 ます。初対面の俺の話色々聞いてくれて、話してくださって」

「……私は別に――」

「……碧、俺そろそろ――」

「わかりました、竜君、では――」

「またな碧、では失礼します、レイナさん」

そして竜は2人の前から姿を消す。



「レイナさん……今日は竜君に、色々とありがとうございました。

 的確なアドバイスだと感じました」

竜が姿を消した後――碧はレイナに礼を言う。

「そんな大した事は言ってないし、碧がお礼を言う事……かしらね」

「竜君は、僕にとって――この世界でしか繋がりがなくても、

 大切なお友達なんです……だから――へっ……変でしょうか?」

「……そう……だったら、お礼を言うのは――

 変ではないかもしれないわ……だって、私も昔――」

そして、レイナは思い出す――

中学生時代、一人の少年とした会話を……



「……鈴奈(すずな)に、よくしてくれてるようね」

「え? 自覚はねーけど……村上から俺の事結構聞いてる感じ?」

「……それはもう色々と……ふふっ、ありがとう、中里君」

「え……?」

「少し、中里君に対して妬けちゃう気持ちもあるけれど――

 鈴奈が喜ぶ顔を見てると、幸せそうな顔を見ていると、

 私も嬉しい気持ちになるから……

 でも、おかしい事かしら、私がお礼を言うなんて」

「おかしいとは思わねーよ……それだけ、藤岡さんにとって村上が大切

 なんだって思うし。村上は――藤岡さんみたいな親友がいて幸せだなっ」

「……おまたせ~! 2人共、どうしたの?」

「――なんでもないわ」

「……なんでもねーよ!」

「え~?教えてよ、中里君、絢女(あやめ)ちゃん!」

それは、絢女と鈴奈、雅晴が幸せだった頃の記憶――



「……なんとなく、似てると思ってしまったの、かしらね――

 あのプレーヤーはおそらく別人なのに……だって、中里君は鈴奈と

 付き合っていた、ゲームの中だとはいえ、あの人はそういう嘘は

 ――つかないだろうし」

「……レイナさん?」

「なんでもないわ……ただ、思い出したのよ……昔の話、親友だと

 思っていた子に、彼氏ができて、私がその子の彼氏に、碧と同じ

 ようにお礼を言った事があったって……――本当に2人は

 とても想い合っていた……嫉妬、してしまった位」

「……え? もしかしてレイナさんも同じ男性を――?」

碧は現実世界でレイナが親友と同じ男性を好きになって

三角関係になってしまったかもしれないと想像する……


「全然違うわよ、嫉妬したのは――その彼氏の方に、よ」

「え?」

「親友と、その子の彼氏があまりに想い合っていたから……少し淋し

 かったのかもしれないわね、別に私との付き合いをないがしろに

 していた訳ではないけれど――それより、そろそろ時間ね」

「あっ……!本当です!今日もありがとうございました~!」

「……次に会う時の事は、またいつも通りメールで」

「わかりました~」

そして2人は分かれる――




「仮想現実の世界は、都合の悪い現実も、真実も……

 犯した罪も――知られなくてすむような、都合の良い世界……」

そして魔法のゲームの世界での変身を解き、レイナの姿から

現実世界の姿に戻った藤岡絢女(ふじおか あやめ)は呟く……。


「……中里君……貴方は――今でも、鈴奈を思ってくれているのかしら

 ――どちらにしても……あの時、私は――……ごめんなさい、

 中里君……でも――私のせいで、貴方みたいな気持ちになる人を

 増やさない為にも、私は――ヒロとの事が終わったら

 “レイナ”の時間も終わらせるわ」


かつて気持ちが暴走して、ひどく傷付けた人物の事を――思い返す。

そして再び決意する……誰かを傷付けない為にも、始めから、誰とも

関わらない事を。それは決めていた事……自分に言い聞かせていた事

……でも、その声は――かすかに、震えていた。

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