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chapterⅨ collapse ―崩壊― Ⅳ

レイナと碧の穏やかな会話回です。

「……ありがとうございます、レイナさん」

ヒロと入れ替わりに現れた碧は優しく微笑む――

「――じゃあ、ヒロが言った通り、碧――ショップ行く?

 ……っていうか、買い物初めてだっけ?

 ……ごめんなさい、今までそこまで考えてなかったわ……」

「え? そんなっ……謝らないで下さいっ……!!

 ――でも今日は、お言葉に甘えさせて下さい……!!

 ショップには――行った事はあるのですが、お恥ずかしい話……

 いつも見ているだけでして……」

碧は、この世界では初めて買い物らしい買い物ができる事で、

控え目ながらも子供のように、わくわくしている様子――


「――そうよね……碧、攻撃魔法使えないからモンスター倒せないし

 ……あれ? ――碧、今までどうしてたの? ……碧が言わないから

 意識してなかったけど……いくら僧侶でも、回復魔法で 魔力使う

 じゃない……その魔力、一体どうやって回復してたの……?」

「え? ああ、それはですね~……多分、この体は元々多くの魔力持ちか

 ……それか、他の僧侶さんよりも更に回復魔法に使う魔力が少ないか

 ――どちらにしろ、僕は他プレーヤーさんに使うのがほとんどで、

 優しい方も多いので……その方達から頂いた魔力回復アイテムを

 使って、なんとかなってますよ」

レイナの問いに碧は微笑みながら答える――


「そうだったのね……っていうか私

 ……碧に一度もお礼らしい事してないわ」

「えっ!? ……そんなの結構ですっ……というか、レイナさんが

 こうしてヒロ君を発動してくださっている事が、お礼になって

 ますからっ!! ――それ以上の事を望んだら……神様に怒られて

 しまいます……だから、お願いです……レイナさんは、これ以上

 何もしないで下さい……!!」

碧は、心から望むように真剣にレイナを見つめる――

「……そこまで言うなら、何もしない方が良いかもしれないけど……」


「そもそもいつも僕がレイナさんに我儘を聞いて頂いてる身ですし……」

「我儘なんかじゃないわ……碧は心から、ヒロの幸せを願ってるんだし

 ……私も、ヒロの事は……嫌い、ではないし、私だって碧と同じ……

 ヒロには楽しい時間を少しでも多く過ごして欲しいから……

 碧は自分が我儘なんか言っちゃダメ……

 私の事、我儘って言っているのと同じ事になるから」

「あぅ……失礼しました……ありがとうございますっ!

 それと……その……レイナさんっ……――先程は……

 その……失礼しました……」

碧はそう言って赤面する……ヒロが、レイナの頬にキスをしたという事は

つまり――ヒロと感覚を共有している碧も、同時にしてしまった事になる。

ヒロが発動される間は、碧は体が乗っ取られた状態であり、碧の精神は

起きている……碧は今にも泣き出しそうな表情を浮かべていた――

「……前から言っているけれど、ヒロのした事を、気にする事はないわ」

それに対し――レイナは落ち着いた表情、口調で返す。

「でも……すみません……すごく失礼な事をしてしまったので……」

「……碧が謝る必要はないから、大丈夫よ」

「でも……さすがにあれは……ヒロ君はともかく、

 相手が僕なのが申し訳ないというか……」

「……そういう事なら、私だって申し訳ないわよ、相手が私じゃなくて

 性格良い可愛い子だったら、碧も嬉しかったと思うけど」

「いえいえいえ! ……レイナさんが申し訳ないだなんて……!」

「――まぁつまり、お互いがお互いが相手で申し訳ないって思ってる、

 同じような気持ちな訳だから、気にしないでいいのよ」

「でも……僕は……その……相手がレイナさんで嬉しかった、ですし……」

碧は――赤面しながら小声で本音を漏らす……


「……ごめんなさい、最後の方、聞こえなかったわ」

「なっ……なんでもないです!なんでもないです~!!

 とにかく!レイナさんは性格良くてお綺麗なので大丈夫です!」

「……まぁ、この世界での容姿については……どうでもいいとして

 私の事性格良いって言うのは……碧、変わってるわね」

「そうですか? でもこうして僕とヒロ君に対しても

 優しくしてくれてますし!」

「――優しい、かしら?」

「優しいですよ!」

碧は真剣な表情で断言する。


「……優しいのは碧の方よ」

「そう……ですか?」

「本当、ヒロに対しても、私に対しても、他の人達に対しても

 ――よく気を遣ってくれるって思ってるわ。

 だから碧も気にしなくて大丈夫。……でも、碧は優しすぎる

 所があるから――悪い人間に騙されないか心配になる位ね」

「そうですか?」

「……気を付けなさいよ」

「はいっ……気を付けます!!」

「じゃあ、この話はこれでおしまい、もう――気にしなくて良いから」

「はい……わかり……ました……」

「――それでも、やっぱり、気になる……のよね」

「ううっ……気にしないように、とは思うのですが……」

碧の表情から――レイナはまだ、碧が納得していない事を察する。


「まぁ……ヒロのせいだとはいえ、碧も加害者みたいな感じで巻き込ま

 れてしまったようなものだから、碧の加害者意識も分からなくはないし

 私が気にしないと言ってもこのまま碧が納得いないまま、というのは

 気になるわね……だったら、碧にも――被害者側の気持ちになって

 もらったら、少しは解決するのかしら……それなら、これで――」

そうしてレイナは――碧のすぐ傍まで近付き、碧に向かって手を伸ばす……

「へっ……わっ……!?」


そしてレイナは、碧の頭の帽子を取り優しく碧の頭を撫でたのだった――

「……はい、これで終わり。引き分けね」

それから元の位置に帽子を被せた。


「……? ……??」

「だから、これで」

「……どうしてこれで引き分けなんですか!?」

レイナの言動の意味が分からず、思わず碧は声を上げる――


「……どうしてって、碧は“自分が相手に対して失礼だと思っている事”

 をヒロがして、その結果自分もした事になって悪いと思った。

 だったら、私も“自分が相手に対して失礼だと思っている事”を

 碧にするのが、引き分けになるんじゃないの? 頭を撫でる行為は

 ――相手を自分より下に見る、見下す行為にも当たるもの……

 碧が現実で私より年上だったら、かなり失礼な事じゃない」

レイナはきっぱりと言い切った。


「……えっ……ええと……その……レイナさんの理論は間違いではない

 ですが……あの……僕は多分レイナさんより年下ですし……その……

 むしろ……今の……すごく……嬉しかったです……」

「……結果的に碧を喜ばせてしまった……みたいではあるけれど、

 私は失礼な事だと思ってるから、それで納得してくれないかしら?

 それに……そもそも悪いと思う事や、失礼だと思う事って

 個人によって違う訳だし、これから同じような事があっても――

 こんな些細な事、別に感情を平等にしようとしなくても良い事でしょ

 ……そもそも気持ちの感じ方だって……個人差もあるのだから、

 100%平等になんてできないものだし」

「それも、そうです……ね」


「――私が今1番困る事は、碧が納得しないで

 い続ける事だから、これで納得して欲しいわね」

「……わっ……わかりました! でも僕は――僕だけ幸せな気持ち

 ばっかりになるのには納得はいかないので……その……僕も

 レイナさんを幸せな気持ちにしたいです!」

「……幸せ……ね……」

「えっと……具体的に何をすれば良いのかは分からないのですが……

 レイナさんはどうすれば幸せな気持ちになって頂けるのでしょうか……」


「……幸せって、何なのかしら……

 そもそも私は――幸せになる……訳には……」

「えっ……??」

「――特に思い付かないから、とにかく今は、これ以上碧が気にしないで

 いてくれる事が、今の私にとっての幸せ、かしら」

「……わっわかりました……!」

「……じゃあ、ショップに行くわよ? 月の泉に――」

「はいっ……!!」

そして2人はショップに向かった――

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