chapterⅨ collapse ―崩壊― Ⅲ
前回のシリアスな現実世界のお話から一変、魔法のゲームの世界で ヒロがレイナの…に……しちゃう平和なお話です。
「おらおらおらおりゃぁ~☆」
一方、BATTLE CHARACTERSの世界では――
血飛沫と共にヒロの楽しそうな声が響く。
碧の体を借りて1日30分だけ、レイナが碧のピアスを外す事で
発動できる強化データ“ヒロ”……レイナの協力により発動され
強敵と戦い、戦いを重ねる毎に攻撃魔法にも更に磨きがかかっていた。
ヒロの単独クエストをレイナが見守る時もあるが、
今回はヒロの誘いもあり、レイナはヒロと共同クエストを行っていた。
「ヒロっ! そっちの2体頼むわっ!!」
「おぅっ!! おりゃあー! 血飛沫上げろ~!!」
レイナから指示を出されたヒロは、楽しそうに剣を振り上げる――
「ザマー見やがれっ! ハーハッハッハッ……!!」
「ヒロ、後ろっ!!」
「……えっ!?」
ヒロが倒したはずの敵は――まだ完全にやられてはいなかった……
「はっ!!」
レイナはヒロに襲いかかる敵に氷の矢を放ち――
全ての敵を倒し終えたのだった。
「……レイナ……」
「ヒロ……油断しない事よ、ちゃんと倒したのも確認しなさいよ?」
「……あぁ……分かったぜ……よぉし! 次は気を付ける!!
そして――俺様は更に強くなる! それで! もっといっぱい
倒せて楽し~☆ 血の色いっぱい見れてハッピー! それも
レイナのおかげなんだよなっ! ありがとな、いつも♪」
そう言って、ヒロはレイナに満面の笑顔を見せる――
戦っている時は血の色が好きな戦闘狂、だが話してみると――
データ故に変な所は色々あるが、明るくて素直な部分もある……
それがヒロだった。
「だから、今から俺様からっ☆ レイナにプレゼントだ~!!」
「……何する気なの?」
レイナは不思議そうにヒロを見る――
「素早さア~プっ☆ アイテム発動っ♪」
ヒロはノリノリで素早さを上げる薬草を食べる。
「……はぁ……?」
レイナが呆れたその瞬間、
「……え……!?」
ヒロは一気にレイナのすぐ傍まで接近する――そして……
「愛してるぜっ☆」
レイナの頬に優しくキスをした――
「なっ……ななななっ……何するのよヒロっ!?」
レイナは即座にヒロから離れる――
「え? キスだろ? 愛情表現の一種じゃねぇか! まっ……
俺様は紳士だから口にはしねぇから安心しろっ!! ちなみに!
アイテム使ったのは、レイナを逃がさない為だ♪」
普段のレイナなら、避ける事はできるはずだが――
この時ばかりはヒロに敵わなかった。
「何が紳士よ!? 口とか頬とかそーゆー問題じゃないわよ!
もうこれからはキスは禁止禁止!!
っていうか第一っ……アイテム無駄使いしないでよっ!!」
「え? 俺様的に無駄じゃない。だってレイナにキスできたからなっ!!
アイテムだって俺様が稼いだ金で買ってたんだしさ!
「……良くないわよ……それは十分無駄遣いなんだから……」
「ん~だったら、俺様が今からキスするー!って時は言うように
するからさ、言った時は逃げないでくれよ?」
「いやだから……それ自体がダメだから! 前に抱き付いてきた時も
言ったわよね……碧が困るような事はやめなさいって」
「え? 碧も別にいいんじゃね?」
「……良くないわよ、この前だって――気にしないでとは言ったけど、
ヒロがした事でも気にするだろうし」
レイナは思い出す……前にヒロがレイナを抱き締めた時、碧はその事を
思い出し、赤面していた事を……今回もきっと、戻った時に同じような
反応をするだろう事は――目に見えていた。
「それって碧は――レイナとは絶っ対っっっに! キスしたくねぇって事か?
本当にそうなのか? レイナは絶対そうだって言えるのか?」
「……碧の場合、絶対嫌な場合でも、気を遣って遠慮してはっきりは
言えないでしょうけど……それは普通、恋人同士――とかでする事よ」
「おぅ分かったぜ! だったら! 俺様は普通じゃねぇからOKって事だな!」
「違う! 違うわよ !普通じゃなくてもしないから!!……もう、
これは何を言っても無駄みたいだから諦めるしかないのかしら……」
「おぅ☆ 諦めろ! これからも俺様は! 抱き付いたり! キスしたり!
オープンな愛情表現を心掛け……あっ……しまった! 妬くな碧~!!」
「……えっ……?」
ヒロが出した碧の名前に、レイナは反応する――
「俺様は碧の事もレイナと平等に愛してるんだ~!!
どうしたら分かってくれる!? なぁレイナ?
碧への愛情表現ってどーすりゃ良い? 手にキスとかで良いか?
自分の口で自分のほっぺとか無理じゃねーか~!!」
「……いやもう……アンタの言葉……
どこからツっ込んだら良いか分かんないから……」
「そーだな……膝とかもありか?」
ヒロは真剣な瞳でレイナに尋ねる……。
「いや……別にキスじゃなくても他に……」
「おおっ! そうかっ!! 碧~!! 愛してる~!!」
ヒロは自分の体に向かって叫ぶ……。
「……はぁ……それにしても、
さっきの――碧が『妬く』ってどういう事よ?」
「……え? 俺様はレイナの事も碧の事も好きだからさ、俺様が
レイナに対してだけ愛情表現してると碧妬くかな~ってさ」
「それってアンタの勝手な妄想?」
「おぅ! そんな感じ!」
「……それはそうよね……まぁないとは思うけど、感覚共有って気持ちも
共有しているかもって思ったけど、そういう訳じゃなさそうだし。
第一……碧はそういう子じゃないわよ……っていうか、
万が一あったとしても……そっち、が一般的……でいい、
のよね……」
「……そっちってどっちだ?」
「――なんでもないわ……逆の場合――
碧がヒロに対して嫉妬するのは……さすがにありえない、わよね」
レイナは複雑な表情を見せ、小声で呟く――
「……あっ……そーだそーだ!!
そーいやさ、忘れてたけど……今日俺の儲け、どれだけだっけ?」
ヒロはクエスト中は、敵を切る事以外に興味がなく、敵を倒しても金や
アイテムを取るのを忘れてしまう――その回収係はもちろんレイナが務め、
管理し……自分の買い物の時のついでに、ヒロが儲けたお金でヒロの為の
アイテムを買うというルールを決めていた。
「3765円ね」
「俺の金、レイナが管理して魔力回復のアイテムとか買ってるんだよな?」
「……そうだけど……今更何よ?」
「一人買い物だよな?」
「? そうよ?」
「よぉーし決めた! 今日は今から! 俺様☆勤労感謝の日、決定~!!」
ヒロは笑顔で叫ぶ――
「はぁ……?」
「俺様のデータによると、今日は月1安売りデ―! か~つ!!
碧は買い物した事がな~い!! だから、レイナ!
今日俺様が稼いだ金で俺様の為に碧と買い物に行け!!」
「え? ……別に良いけど……っていうか、むしろその方が良いのかもね
……でも……ヒロもショップには行った事ないんじゃないの?」
碧に気を遣う気持ちは嬉しいが、
今日はまだ“ヒロ”の時間は終わっていない――
「俺様は良いんだ! つーかショップとか面倒臭いし! そんな行く暇
あったらモンスター切りたいし!! あっ!! 俺様の金、碧も使って
くれていいんだぜ? ん? いや!! むしろ使ってくれ~!!
今日は俺様のオゴリだ~!! ……つー事でレイナ!
今すぐピアスを付けて、碧に戻してくれないか?」
「……でもヒロ、そのお金の使い道……多分碧は……
全部ヒロに使って欲しいって言うと思うわ」
碧の性格を考えると、ヒロが儲けたお金は、ヒロの物だから
使えない――そう返す事が容易に想像できる――
「う~ん……なら俺様用でも良いぜ? つーかさ、すぐに俺様が
使わなくても――最終的には俺様じゃなくて、碧の物になるだろ?
ほら俺様いつ消えるか分からないんだしさ」
「……! 確かに、そう、だけど――」
「でもさー俺様にもさっぱり分かんねぇんだよなぁ……
具体的に俺様が消えるのが、いつになるか――創造者も
はっきり分からねぇみたいだし……まぁ、その時はその時だけど」
「……ヒロ……」
レイナは忘れかけていた――彼は――“ヒロ”は、
碧の強化データで、今は碧の体を乗っ取りレイナと話しているが……
彼は不安定な存在であり、いつ発動されなくなるか分からない……
「……まぁ俺様は! 次も発動されるって信じてるけどさ!
――まっ、前にも言ったと思うけど、いつこの世から消えるか
分からないってのはお互い様な訳だし気にするなっ!!
さっ! 戻してくれよ?」
「……今日はまだ、もう少し時間余裕あるのに……?」
「――今日の俺様の残り時間、碧に譲渡するからよ……良かったら、
レイナ――今日の戦闘タイムはこれで終わりにしてくれねぇか?」
「うん……分かったわ……良いのね?」
「ああっ! 今日も俺様に付き合ってくれて、ありがとな♪
じゃあ、また次の時まで――バイバイなっ☆」
「――バイバイ、ヒロ……」
2人は暫しの別れを告げ――ヒロは消える……
そして――ヒロに体を貸していた碧が入れ替わりに現れた。




